彼女について大いに気になるのは、新劇場版で何の説明もなく「式波・アスカ・ラングレー」と名前が変更されたことです。これにはいろいろ解釈がありますが、完結篇にて彼女も綾波レイと同様の「元型からのコピー培養人間」であったことが示唆される場面があり、つまりそのへんの設定が旧TVシリーズ版と別物、という印である可能性が高いです。
 であれば、しかし、いっそう報われないような……。

 報われないといえば新劇場版、後半に行くにつれて、元来はアスカの見せ場だったように思われる場面で、あとから来た新ヒロインである真希波・マリ・イラストリアスが何気においしいところをみな持って行っちゃう感があったのも印象的です。そう感じるのは筆者が旧TVシリーズ版以来のファンだからなのか否か、なかなか判断が難しいところではありますが。

◆「現実的」強キャラ、マリの存在感

 真希波・マリ・イラストリアスという最後に登場したサブヒロインは、同性愛者っぽさが豊か(実際にそうか否かは派生作品ごとに異なる)で論理的かつスーパーポジティブという、現実にもときどき居るよねこういう強キャラ、な人ですね。

 崖っぷち神経な人たちのテーマパークみたいなエヴァ世界になぜこんな人が? と思ってしまいますが、エヴァ業界で話題騒然となったNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』庵野秀明特集に登場した安野モヨコ氏がモデルでは? という噂が一時業界を席巻しましたけど、どうなんでしょうね。

 個人的にはそのへん、野次馬的なプライバシー詮索を展開するつもりはなくて、マリについてはその背後にある「現実的な人間力によるフィクションへの介入」というメタ文学的な演出パターンの可能性が、とても興味深く感じます。

◆フィクション世界の収支バランス

 ……以上、こうしてみるとやはりアスカが突出してしんどいですね。
 いかにも負け組に見えます。

 しかしアスカには、「ツンデレ・強気・ツインテール(厳密に言えばツーサイドアップ)美少女勢力」カテゴリの一員、という他のヒロインにない強力な特質があり、言い換えれば、作品の枠を超えて同類眷属(けんぞく)が活躍することで、フィクション世界全体での収支バランスをとっているという見立ても可能でしょう。

 眷属といえばFateシリーズの遠坂凛なんかが代表格ですね。(そういえば、彼女もあやしげなドイツ語を駆使する人物であった……)。

 じっさい、神絵師Siino氏が「セカンドチルド凛」として遠坂凛がプラグスーツを装着した絵を描いて人気爆発していたりするのを見ると、どことなくボルヘス文学にも似た「文脈の相互浸透・侵蝕」を感じさせるものがあり、これはキャラクターのシンボル性を考える際にも何かインスピレーションを与えてくれそうでとても味わい深いのです。

◆エヴァはある世代の巨大な原体験

 以上、エヴァに搭乗するパイロット系ヒロインをピックアップしただけでも様々な象徴性が重層的に織り込まれていることが窺(うかが)え、それだけでも三か月は議論が持ちそうなエヴァンゲリオンは、今後もずっとなんとなく古びなさそうだなと思ったりします。

 巨大な原体験になってしまいましたからね、ある世代にとっては。

※本稿の執筆にあたり、兼光ダニエル真さま、マフィア梶田さま、Siinoさまからは貴重なご助言をいただきました。改めて御礼申し上げます。

<文/マライ・メントライン>【マライ・メントライン】
翻訳(日→独、独→日)・通訳・よろず物書き業。ドイツ最北部、Uボート基地の町キール出身。実家から半日で北欧ミステリの傑作『ヴァランダー警部』シリーズの舞台、イースタに行けるのに気づいたことをきっかけにミステリ業界に入る。ドイツミステリ案内人として紹介されたりするが、自国の身贔屓はしない主義。というか、エンタメ作品は英米の精鋭作品のコンセプト性をベースに評価することが多いので「エンタメ途上国」ドイツへの視線は自然に厳しくなるとも言える。好きなもの:猫&犬。コーヒー。カメラ。昭和のあれこれ。牛。QJWebなどでコラムを執筆。
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