なぜタイヤに「窒素ガス」流行? 費用対効果は微妙? 空気と異なる特性とは

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窒素ガスの効果は? 最近耳にしない理由とは

 一時期、クルマタイヤに窒素ガスを入れると「空気が抜けにくい」といわれ流行しました。

 最近は、耳にすることが少なくなってしまったタイヤへの窒素ガス充填ですが、本当に効果はあるのでしょうか。

一時期流行った「タイヤに窒素ガス」を入れる行為。効果はあったのか?

【画像】これが危険のサイン! タイヤ劣化の見分け方(23枚)

 窒素ガスをタイヤに充填した場合の効果について紹介する前に、通常の空気と窒素ガスの違いについて理解しておきましょう。

 小中学校の理科や科学の授業内容にもありますが、空気を構成する成分は窒素(N2)が約78%、酸素(O2)が約20%、そのほかにアルゴン(Ar)や二酸化炭素(CO2)などです。このように通常の空気にも窒素は多く含まれています。

 それなら窒素ガスを入れてもあまり違いがないのではないか、という声もあるかもしれません。しかし、通常の空気と窒素ガスには「窒素のほうが分子の動きが遅い」「空気のほうが多くの水分を含んでいる」という違いがあるのです。

 このふたつの違いが、窒素ガスをタイヤに充填するメリットとなるのです。

 まず、分子の動きが遅い気体は、動きが速い気体に比べ物質を通り抜けにくいです。

 タイヤに充填された気体は、エアバルブからはもちろん、タイヤの表面などからも徐々に抜けていきますが、分子の動きが遅い窒素のほうがタイヤから抜けにくいことになります。

 気体に含まれた水分は温まると体積が大きくなり、冷えると小さくなるというように、温度によって体積が変化。そのため水分をほとんど含まない窒素ガスをタイヤに入れたほうが、空気を入れるよりも変化が少なくて済むのです。では、空気と窒素ガスでは、どれくらいの差があるのでしょうか。

 タイヤメーカーの担当者は次のように、説明しています。

「通常の空気は1か月でタイヤ全体の3%から5%程度抜けていき、窒素ガスはその1/3から1/2程度となります」

 なお、窒素ガスでも定期的な空気圧(内圧)チェックは必要ですが、内圧の数値は通常の空気と同じ数値で問題ないといいます。

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 また、窒素ガスの充填について、ガソリンスタンドのスタッフは次のように説明しています。

「当店では、かつて窒素ガスの充填サービスを1本500円でおこなっていましたが、現在では従来の空気充填のみとなっています。

 サービス開始当初は、物珍しさなどもあり、窒素ガスを入れる人もいましたが、実際に乗られた後はなかなかそのメリットを体感しづらいという人もいました。

 その後、利用者数の減少もありサービスを中止しています。近隣のガソリンスタンドやカー用品店では窒素ガスの充填が可能な場所もあるようですが、窒素ガスサービスをやめた場所もあり、全体的には減っている印象です」

窒素ガス、元々は航空機で使用されていた?

 タイヤに窒素ガスを充填するという考えは、自動車の世界から誕生したわけではありません。

 航空機のタイヤでは古くから窒素ガスが使用されていました。そこには航空機のタイヤならではの事情が存在します。

 まず、航空機のタイヤは離着陸時には300km/h以上の摩擦熱に耐えながら、上空ではマイナス50度という低温に晒されるという、非常に激しい温度変化のなかで使われます。

 そのため充填する気体は温度変化があっても体積が変化しづらい気体である必要があるのです。

 また、航空機のタイヤは摩擦した表面を張り替えて続けて使用する「リトレッド」をおこなっています。

 タイヤの構造材に使用されている金属やホイールを長持ちさせるために、錆の原因となる酸素が含まれている空気の使用は避ける必要があります。

 そして、もし事故が発生した場合に酸素がないと火元とならないという安全面の理由もあるのです。

航空機用のタイヤは窒素ガスが入れられている

 内圧の管理が一般的な使用方法よりもシビアな世界であるモータースポーツでは、窒素ガスが使われていることが多くあります。

 しかし、近年では窒素ガスだけでなく、内圧変化の原因となる水分を取り除いた乾燥空気を使用する場合もあるようです。

 また、近年ではモータースポーツの世界だけではなく、日産「GT-R」などの高性能市販車でも、ノーマル状態で窒素ガスが使用されていることが増えてきました。

 クルマの性能が進化し、タイヤに求められる性能が高くなってきたことが要因だといえます。

 窒素ガスは、タイヤの空気を抜けづらくしたいと思う人よりも、安定してタイヤの性能を引き出したいと思う人にオススメといえるかもしれません。