全国3万の小・中学校への漫画の寄贈を目指す浅野さん(北海道釧路市で)

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 北海道釧路市山花地区で酪農を営む浅野ファームの浅野達彦さん(32)は、漫画で農業への理解を深めてもらおうと、全国の小・中学校に荒川弘さんの作品『銀の匙(さじ)』『百姓貴族』を寄贈する活動を始めた。必要な経費約3億円はクラウドファンディング(CF)で資金を募る。浅野さんは「計画の達成に10年は必要」と長期スパンで考え「子どもたちが農業を知るきっかけにしたい」と意気込む。(中川達己、田畑敏幸)

CFで活動資金募る


 荒川さんは北海道・十勝の酪農家に生まれた漫画家。『銀の匙』は、北海道の農業高校を舞台に、主人公が農業の厳しい現実にぶつかりながら仲間と成長する姿が描かれた大ヒット漫画。作者の農高時代の体験が随所に生かされている。『百姓貴族』は、荒川さんの実家での体験に基づいたエッセー漫画だ。

 動画投稿サイト「ユーチューブ」で酪農技術チャンネルを開設する「ユーチューバー」でもある浅野さん。漫画を通じてもっと気軽に農業の魅力や現実を伝えようと、ユーチューブの広告収入を財源に、7月から地元小・中学校に『銀の匙』全15巻と『百姓貴族』1〜6巻の寄贈を始めた。広告収入だけでは3年かかると考えていたが、インターネットで資金を募るクラウドファンディングを生かすことを思いついた。

 「酪農漫画を小・中学校に寄贈したい!」というタイトルで募集。目標金額を50万円に設定して12月23日まで募る予定だったが、公開2日目の11月28日時点で60人が支援して51万9000円が集まった。見返りの商品などがないにもかかわらず、賛同者が続々と増えており、漫画は12月25日までに市内全校へ配る予定だ。

 浅野さんは、地元の学校への寄贈は活動を全国に広げていく上での第一歩と考え、クラウドファンディングの目標額3億円を視野に入れる。時間はかかるが「全国3万の小・中学校の児童・生徒に、将来の仕事として農業という選択肢があることを知ってほしい。酪農を目指す人を増やしたい」と、ビジョンを語る。

舟田副支部長(後列左)ら部員と漫画を手にする児童代表(北海道八雲町で)


青年部にも賛同の輪


 賛同の輪は、道南のJA青年部にも広がっている。JA新はこだて北渡島地区青年部八雲支部は、『銀の匙』『百姓貴族』両作品のセットを、八雲町内九つの小・中学校に寄贈する。浅野さんが提唱した活動に部員が共感し、役員会に諮って実現した。

 11月末から支部員が手分けして各校に配っている。全校児童9人の町立山越小学校では、体育館に集まった児童が漫画の寄贈に歓喜した。

 舟田圭佑副支部長が「八雲は酪農の町。面白く分かりやすいこの漫画を読んで酪農に関心を持ってほしい」と漫画を手渡した。

 児童会長の湊航真さんは「面白そうなので早速読んでみたい」と目を輝かせていた。