楽天モバイルは基地局建設に全力を注ぐ! 赤字覚悟のZERO宣言の背景にある焦りと戦略

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●赤字覚悟の「ZERO宣言」で顧客獲得を狙う楽天モバイル
楽天モバイルは11月4日、移動体通信事業者(MNO)サービスに関する「楽天モバイルカンファレンス」を開催しました。

同社が4G通信によるMNOサービスを開始したのは4月8日、5G通信サービスを開始したのは9月30日です。
既存のモバイル通信業界の枠組みや業界構造を根本から変革することを掲げ、ネットワークシステム自体から従来とは大きく異なった構成および運用によって話題を呼びました。

しかし、楽天モバイルの前途はまだまだ多難のようです。


楽天モバイルが掲げる「新常識」は常識となるか

カンファレンスで楽天モバイルは「ZERO宣言」として、
・プラン料金(月額2,980円)が1年無料
・5G通信の追加料金無し
・専用アプリ(Rakuten Link)利用で国内通話無料
・契約事務手数料無料
・SIM交換手数料無料
・SIM再発行手数料無料
・MNP転出手数料無料
・契約解除料無料
これら8つの「無料(0円)」を掲げました。

楽天モバイルは、基本となる通信料金だけを見ると、NTTドコモやKDDI、ソフトバンクと比較して圧倒的な安さを誇っています。さらに各種事務手数料なども、他社の追随を許さないアドバンテージを取り、他社からの乗り換えを促進させる施策もとっています。

半ば強引とも言える赤字覚悟の施策は、11月12日に行われた「楽天・2020年度第3四半期決算」の数字にすべてが現れています。

楽天全体での売上は、新型コロナウイルス感染症問題の影響などから3614億円(前年同期比+13.2%)、営業利益はマイナス398億円(前年同期比マイナス409億円)と、赤字でした。
その大きな要因となっているのがモバイルセグメントへの大きな先行投資です。

モバイルセグメントではユーザーの獲得が堅調であることから売上収益も順調に伸びていますが、顧客獲得コストがかさみ営業利益の赤字幅は膨らむ一方です。
ビジネスとして現在は顧客獲得フェイズであるため赤字決算は想定内とは言え、強引な施策でどこまで企業体力が続くのか不安な面もあります。


いくら他事業で補填できるとは言え健全な状況ではない


●設備投資に全力を注いだ2020年度
ただし、この大幅な赤字にはそれなりの理由もあります。
楽天モバイルはモバイル通信用基地局の建設計画を5年前倒しすることを発表しており、早期に十分なエリア展開を完了させ、より広いエリアのユーザー獲得とユーザー満足度の向上を図る計画を進めています。

ZERO宣言に集約される各種施策が大きなアドバンテージとして機能するのは早い時期だけであり、他社も当然ながら追従する施策を打ち出してくることは明白です。

例えば現在、総務省は大手MNOの通信料金値下げを未だに強く要請しています。
10月末にKDDIやソフトバンクが発表した「20GB/月額4,000円前後」の料金プランについても、サブブランドでの展開であることから、メインブランド展開での改善を求めています。
今後5G通信の使えるメインブランドで同等の料金プランが出てくる事態となれば、楽天モバイルのアドバンテージは大きく後退することは間違いありません。

料金的なアドバンテージが少なくなった場合、次にアドバンテージとなるのは通信容量やエリアの広さになります。

楽天モバイルが基地局建設を最優先課題として掲げ、2021年夏までには人口カバー率を96%にすると、大風呂敷とも言える目標を掲げている理由もここにあります。
採算を度外視した突貫工事を行ってでも、通信エリアを広げなければ勝機と商機が遠のくからです。


他社とて楽天モバイルの動きをただ静観しているわけではない


5年も前倒しできる計画というのも随分と雑に感じるが、しかしそれを断行しなければいけないほど状況は切迫しているという証拠でもある


●2021年が勝負の年となる
2020年11月現在、楽天モバイルのMNO契約数は約160万と発表されています。
この数字は他社の契約数(ユーザー数)の30分の1から50分の1程度となります。

同社は自社回線のメリットとして顧客満足度の高さを挙げてアピールしていますが、料金プランの分かりやすさやコストパフォーマンスの高さで高い評価を得られている一方、データ通信の品質と安定性では若干スコアが下がる印象でもあります。
現在はまだユーザー数が圧倒的に少ないために回線品質もある程度の高さを維持できていますが、これが10倍、20倍となっても同じ通信品質を保てなければ、信頼や支持を失う危険もあります。

そのためにも、基地局建設とインフラ整備がすべての要です。
このことは同社自身が一番よく分かっていることでしょう。


楽天モバイルは割り当てられている電波の周波数帯も少ない。今後ユーザーが増えてきたときにどこまで通信品質を保てるだろうか

NTTドコモやKDDI、ソフトバンクがモバイル通信を軸とした経営であるのに対し、楽天は先に自社経済圏が確立しており、その動力の1つとして通信事業の楽天モバイルを打ち立てようとしています。

先行する他社と楽天モバイルの経営姿勢や戦略の違いは非常に面白く、モバイル業界に新しい風を吹き込むことは間違いありません。
今後、MNO各社も自社経済圏の確立と拡大を最大の目的として戦略に掲げているだけに、アプローチや手順の違いはあるものの、目指す先は同じです。

楽天モバイルが抱く野望と未来は、他社も目指す未来であり、実現可能な未来でもあります。

楽天モバイルの底力が改めて示されるのか。
それとも畳みきれない大風呂敷であったのか。

2021年夏というあまり遠くない時期に、最初の判断が下されそうです。
執筆 秋吉 健