アラブ首長国連邦(UAE)はこの約1年、宇宙探査の世界的な競争にかなり力を入れてきた。2020年7月には無人の探査機「HOPE(ホープ)」を打ち上げ、現在この探査機は火星を目指して孤独な旅を続けている。火星着陸後は火星の大気の状態を調査する予定だ。

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昨年9月25日には、UAE初の宇宙飛行士ハザ・アル・マンスーリが国際宇宙ステーション(ISS)に8日間滞在すべく宇宙へと飛び立った。さらに、この画期的な日の1年と1日後、UAEが新たな宇宙探検に乗り出していることが明らかになった。月探査ミッションである。どのようなミッションなのか、具体的に見ていこう。

UAEの月探査ミッションについてわかっていることは?

ミッションが進行中であるということ以外、わかっていることはあまりない。UAE副大統領兼首相でドバイ首長国首長も務めるムハンマド・ビン・ラシードのウェブサイトに掲載された声明によると、UAEの月探査計画は2024年までにアラブ諸国初の月面探査車の打ち上げを目的としているという。この声明では人間が宇宙に送られるかどうかは明らかにされていないが、「国家の総力」が結集されると説明されている。

月探査ミッションに関する発表は、ムハンマド・ビン・ラシード宇宙センター(MBRSC)の10カ年計画の一環となる。この計画には宇宙飛行士養成の新たなプログラム、特殊な人工衛星の開発、訓練および教育のための「宇宙シミュレーションセンター」の開設が含まれている。UAE国営通信(WAM)によると、この計画の目的は「UAEの宇宙探査や宇宙開発技術分野など関連産業における新たな人材の構築」にあるという。

2024年はかなり近い目標ではないか?

確かに「2024年」という目標は、かなり近いと言っていい。このミッションの性質や作業の進捗にもよるが、24年は厳しい期限かもしれない。それに比べて月に未来の住民を送るという米航空宇宙局(NASA)の計画は17年に初めて大統領に承認されており、さらに既存の宇宙プログラムを基盤としている。

だが、UAEが宇宙計画を超高速で進められることを示す先例がひとつある。14年に打ち上げが発表された火星探査機HOPEが、21年初めには火星の軌道に到達する予定なのだ。UAEの先端科学大臣サラ・アル・アミリは昨年『WIRED』中東版の取材に対し、このミッション最大の難題のひとつは構想から打ち上げまでたった6年という短いスケジュールだと語っていた。

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これに対してほかの国の火星ミッションは、おおむね10〜12年かけて実施されている。

UAEの月探査ミッションの科学的な目的とは?

まだ科学的な目的はわからない。MBRSCも現時点では、より詳細な情報を発表する準備はできていないようだ。しかし、月に関してはさらなる科学的研究を要する謎が多くある(人類が最後に月を訪れたのは50年以上前だ)。月における水循環や氷の生成の特徴、火山の噴火の歴史、放射性物質が存在する可能性のほか、月の本当の年齢の特定までさまざま謎があるのだ。

UAE以外で進行中の月探査ミッションは?

NASAは「アルテミス計画」によって24年までに再び月に米国人宇宙飛行士を送ると発表した。その際の宇宙飛行士には、今回は初めて女性が加わっている。NASAはウェブサイトで「人類が月に滞在するための計画を進めている」と明言している。

民間宇宙企業も月探査に意欲的だ。イーロン・マスク率いるスペースXは、人類が地球以外の惑星や同社の宇宙船「スターシップ」内で生活できるようにするという究極の目標を掲げている。スターシップはロケットと宇宙船からなり、乗組員や貨物を月や火星、さらに遠くの惑星へと運べるように設計されている。NASAはアルテミス計画の一環として、月の周回軌道と月面を往復して乗組員を運ぶべく、月探査向けに最適化されたスターシップの開発のためにスペースXを選定した。

マスクと同じ億万長者で宇宙スタートアップのブルーオリジン創業者でもあるジェフ・ベゾスも宇宙へと目を向け、月に貨物を運ぶために月面着陸船「ブルームーン」を準備している。また24年までに人間の乗組員を月面に着陸させるために、ブルームーンより大型の宇宙船を開発中だ。

人類は月で暮らせるのか?

人類は月で暮らせるが、サングラスとトレーナーを持参しよう。月での気温は昼は120℃まで上がり、夜はマイナス173℃まで下がる。月の自転の周期は27日なので、昼と夜はそれぞれ地球の13.5日分となり、人間の概日リズムが乱れる可能性がある。

だが、月の地下には溶岩洞があり、その内部に広大な都市をいくつも建造できる。こうした洞穴は太陽放射から保護された閉鎖空間で加圧されて地球の大気と似た状態となり、寒暖差は著しく縮小することになる。

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