英語は若いうちに勉強すべきという意見はよく耳にしますが、具体的に「何歳までなら英語を習得しやすいのか」は明言されていないものです。「人は何歳までなら楽に英語を習得できるのか」に焦点をあてた調査が、ボストン大学・ハーバード大学・マサチューセッツ工科大学共同の調査チームにより実施されました。

At What Age Does Our Ability to Learn a New Language Like a Native Speaker Disappear? - Scientific American

https://www.scientificamerican.com/article/at-what-age-does-our-ability-to-learn-a-new-language-like-a-native-speaker-disappear/

調査チームは、オンラインで誰でも参加できる文法テスト「Which English」を公開し、不特定多数の回答者を集めることで調査を実施しました。文法テストでは英語の名詞や動詞、代名詞、前置詞などの理解力を測定し、テストの結果から回答者の英語理解力だけでなく、地域ごとの方言なども予測できるようになっています。

Which Englishはテスト終了後、「あなたはドイツ系アメリカ人です」のような判定結果が表示されるようになっています。この判定精度が非常に高かったことからWhich Englishはアメリカ中で話題を呼び、最大で1日10万アクセスを記録したこともありました。また、Which EnglishはFacebookで約30万回シェアされ、数々のウェブサイトでも話題となったそうです。最終的に、Which Englishは38カ国語を母語とする約100万人に使用されました。調査チームは回答の中から有効なものだけを抽出し、最終的に60万人分の回答を分析に使用しています。

調査チームは、回答者のスコア・居住地・年齢・英語を学び始めた年齢といった英語学習に関する情報に基づいて、英語を第二言語として流暢に話せるようになるまでの時間と、学習を始めるのに最適な年齢を予測。その結果、英語を習得するのに適した能力があるのは「18歳まで」であり、ネイティブスピーカーのようによどみなく英語を話せるようになるには「10歳まで」に学習を始めるのが最善であることが示されました。



調査チームによると、18歳で言語学習能力が低下する理由としては、「社会的変化」「母国語の干渉」「脳の発達」という3つの考え方があるとのこと。「社会的変化」は、多くの人々が18歳で高校を卒業し、大学に進むかフルタイムで働く社会人になるため、子どもの頃のように勉強する時間や機会、学習環境がなくなってしまうことを意味します。「母国語の干渉」は母国語の言語規則が外国語とかけ離れているために習得の妨げになる可能性。「脳の発達」は10代後半から20歳前半にかけての脳の変化が学習を難しくする可能性を指しています。

「20歳を過ぎると新しい言語を学ぶことができない、というわけではありません。人生の後半に母国語以外の言語を習得した人の例は数多くあり、新しい言語を学ぶ能力は一定して存在しています。しかし、ほとんどの人はネイティブスピーカーのように文法を習得することができないでしょう」と調査チームはコメントしています。

また、調査では「ネイティブスピーカーでも言語を完全に習得するには30年かかる」という結果も得られたとのこと。テストのスコアから、英語を母国語として30年話している人は20年話している人よりも、文法を正確に理解できている傾向が見られたそうです。



一方、調査結果に対して否定的な意見を述べる研究者も存在します。ジョージタウン大学で神経言語学を専門とするエリッサ・ニューポート教授は、「多くの文献では、言語を完全に習得するには30年でなく、約5年かかるとされています。言語を学ぶのに30年かかるという主張は、他のどの調査結果とも一致しません」と語っています。

さらにニューポート氏は、Which Englishの内容には一部欠陥があるとし、60万人をテストしても信頼できる結果は得られないと指摘しました。ニューポート氏は、新しいテストを作るよりも既存の信頼できる言語能力評価手法を使って、人々がどれだけ英語を理解しているかを測定するべきだと述べています。

過去の研究でも「20歳を超えた大人でも、英語の習熟速度は子どもとほとんど差がない」「7年前後でネイティブ相当の能力を得られる」ということが示されており、今回の研究結果とは主張が異なる結果となっています。

外国語をネイティブレベルまで習得する速度は大人も子どももほとんど変わらないという研究結果 - GIGAZINE

なお、ボストン大学・ハーバード大学・マサチューセッツ工科大学による調査は英語のみで行われましたが、調査チームたちはWhich Englishを他の言語にも応用できると考えており、今後はスペイン語と中国語で文法テストが実施される予定です。