大学の実就職率ランキング(卒業生1000人以上)で金沢工業大学が4年連続で1位。

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2020年卒生を対象にした実就職ランキングで1位になったのは、金沢工業大学。4年連続でトップを維持している (撮影:尾形文繁)

2020年卒の大学生の就職活動も売り手市場が続いた。リクルートワークス研究所が公表している求人倍率は前年並みの1.83倍となっていた。その求人倍率の高さを背景として、大学通信が医学部と歯学部の単科大学を除く全大学を対象に実施している就職状況調査では、平均実就職率が88.9%と限りなく9割に近い数字になっている。

工科系大学が軒並み高い就職率

もっとも平均実就職率は高いものの、前年並みで伸びてはいない。求人倍率の高さに加え、採用予定数に満たない場合は、採用基準を緩める企業が増えているといわれ、大学生にとって好ましい就活環境が続いているにもかかわらず、である。平均実就職率は右肩上がりを続けてきたが、高止まりの状況になっている。


大学別の実就職率ランキングを見ていこう。1位は4年連続で金沢工業大学となった。教員の5割が企業出身者であり、企業の事業内容や求められる人材ニーズを捉えたうえでの指導や、東京、名古屋、大阪などへの就職支援バスの運行など、手厚い支援を行うことにより、2020年3月の学部卒業生は、6割以上が大手・上場企業に就職したという。

大阪工業大学は、表中の実就職率が金沢工業大と同じながら、小数点第2位以下の違いで僅差の2位となった。1922年(大正11年)設立の関西工学専修学校を前身とする伝統の力が高い就職率を後押ししている。

4位の愛知工業大学は、12年(大正元年)設立の名古屋電気学講習所。7位の名古屋工業大学は、05年(明治38年)設立の名古屋高等工業学校。8位の東京理科大学は、1881年(明治14年)設立の東京物理学講習所と、上位の工科系大学は、起源となる学校の設置年度が古い伝統校という特徴がある。愛知工業大を除き、前年の順位を上回った。

これらの伝統校も含め、工科系大学に実就職率が高い大学が多い背景には、情報化社会の進展にともないテクノロジーと無関係な業界はなく、理数能力を持った人材が広く求められていることもある。

3位の福井大学も工学部の定員が大きいことが高い実就職率を支える。工学部以外にも就職に強い教育学部と医学部を持ち、2020年3月に最初の卒業生が出た国際地域学部も高い実就職率になったことから、昨年の5位から順位を上げた。同大は、卒業生が1000人以上で、複数の学部を持つ国公立大の中で、13年連続で実就職率ランキングトップを続けている。

工科系もしくは、工学部の定員が多い大学が優位な中で、5位に入ったのは昭和女子大学。卒業生が1000人以上の女子大の中では、10年連続でトップに位置している。高い実就職率の背景には、学科やゼミの教員とキャリアセンターの連携による、丁寧な就活支援がある。ベスト20位に入った女子大には、東京家政大学(14位)と安田女子大学(15位)がある。

就職支援力が高い女子大

東西の女子大御三家は、東京女子大学が23位で日本女子大学が26位。津田塾大学は卒業生が656人のためランキングにはないが実就職率は92.5%だった。西の御三家は、京都女子大学が63位、同志社女子大学が106位。卒業生が599人でランキング対象外の神戸女学院大学の実就職率は90.3%だった。

女子大の就職支援力の高さは、総合大学を含めたすべての女子学生の数値と比較するとよくわかる。2020年卒の女子大の平均実就職率は91.4%で、すべての女子学生の平均実就職率89.3%を上回っているのだ。

難関大の状況を見ると、旧七帝大に一橋大学東京工業大学神戸大学を加えた難関10大学中、最も実就職率が高いのは一橋大(35位)で次位は東京工業大(85位)となった。両大学は、日経平均株価指数の採用銘柄や会社規模、知名度、大学生からの人気度などから大学通信が選定した「有名企業400社実就職率ランキング」において、常に50%前後の実就職率でトップ2を分け合う。

一橋大と東京工業大以外は100位以下で、名古屋大学(115位)、神戸大(122位)、東北大学(133位)、大阪大学(147位)、北海道大学(149位)の順となった。実就職率83.1%の九州大学と76.3%の京都大学はランク外で、東京大学は現時点で未公表だ。

私立の難関大を見ると、早慶上智で最上位は、132位の慶應義塾大学で、上智大学は145位、早稲田大学は実就職率84.1%でランク外となった。

MARCH(明治大学青山学院大学立教大学中央大学法政大学)で最上位は56位の法政大で、青山学院大(76位)、中央大(87位)、明治大(107位)、立教大(139位)が続く。

関関同立(関西大学関西学院大学同志社大学立命館大学)では、51位の関西学院大が最上位。同大は、卒業生5000人以上の大規模大学に絞ったランキングでは1位だ。以下、関西大(86位)、同志社大(116位)、立命館大(119位)が続いた。

国立大と私立大ともに、難関大は平均実就職率を下回る大学が多い。これは、起業や公務員試験受験準備、大学進学など、将来の選択肢として一般企業や公務員、大学院進学以外の道を選ぶ学生が一定程度いるためで、多様性の裏返しといえる。

難関大に次ぐ入試レベルの大学群では、日東駒専(日本大学東洋大学駒澤大学専修大学)の実就職率は、高い順に専修大(96位)、東洋大(100位)、駒澤大(104位)、日本大(130位)。産近甲龍(京都産業大学近畿大学甲南大学龍谷大学)は、甲南大(32位)、龍谷大(58位)、近畿大(59位)、京都産業大(70位)の順に並ぶ。日東駒専に比べて産近甲龍の方が実就職率は高く、両大学群の比較では西高東低といえる。

就職率は高止まり

大学別実就職率ランキング中、大きく実就職率が伸びている大学は少なく、前年を1ポイント以上上回った大学は、日本福祉大学(6位)や東京理科大、電気通信大学(10位)、九州工業大学(16位)など、150大学中、33大学にとどまる。

リクルートキャリア就職みらい研究所の就職プロセス調査によると、8月1日現在の就職内定率は81.2%で、前年同月比で文系が12.9ポイント、理系は3.5ポイント低い。

新型コロナウイルス禍の影響で就活が後ろ倒しになった影響が大きいが、リクルートワークス研究所による21年卒の大学生の求人倍率が前年を0.3ポイント下回る1.53倍と、市場が縮小しているのが気になる。2021年卒は、2020年卒以上に実就職率が上がる大学が少なくなるかもしれない。