コロナの影響で新しい働き方が必要となってきた中、「永久在宅勤務」の社員を増やしていこうとする動きが出てきているようです(写真:kou/PIXTA)

5月、6月とは比較にならないほど、街中で見かける人の数が増えてきました。筆者が住む東京都内は6月12日に東京アラートがステップ3に移行して以降、飲食店の営業は夜0時まで可能となり、「飲みに行って」ストレス解消する人でにぎわう様子も見かけるようになりました。

リモート勤務を活用しながらも段階的に出勤日を増やす会社が増え、オフィス街にも人がかなり戻っています。

そうした中、東京では1日に200人を超える感染者が出る日が続き、再びの自粛懸念もささやかれています。経済活動を本格化させるためにも、感染を最小限に食い止めつつ仕事も止めない、新しい働き方がいよいよ必要となってきています。

そこで出てきたのが、「永久在宅勤務の社員を増やしていこうとする動きです。この動きについて、この記事では一緒に考えていきたいと思います。

経営者に在宅勤務のリアルさがなかった

コロナの影響が起きる前から在宅勤務する会社員は一定数いました。ただ、数にすればごくわずかなもの。日本テレワーク協会の調査ではコロナ前は週に1日テレワークを利用している人の割合で16.6%程度。8割弱の人が在宅勤務を未経験でした。

管理職が自分の目の届く状況でマネジメントをしたい、社員自身も職場で対話しながら勤務することを希望している――。そうした理由もありましたが、それ以上に、在宅勤務ではパフォーマンスが下がると考えられていたことが大きかったように思えます。

システム開発会社を経営する知人も、コロナ前までは「在宅だとサボるに違いない」との懸念から在宅勤務に反対派でした。同じように反対する発言を(主に経営者から)聞くことがよくありました。

同じオフィスで密につながりを感じながら仕事することで働く意欲が高まり、パフォーマンスが出たという成功体験を自らが持っているからかもしれません。逆に言えば在宅勤務の成功体験を持つ経営者には、ほぼ遭遇したことがありません。組織運営を行うキーマンにとってリアルさがないことも、活用を阻む壁になっていたかもしれません。

ところがコロナの影響で在宅勤務を容認せざるえない時期が数カ月続き、在宅でもパフォーマンスが下がらないパターンがおぼろげながらみえてきました。在宅勤務を継続できうる「人物×職種」の定義が検討され始めているのです。

タイプ的には、自発的に動けて指示待ちにならず、わからないことは積極的に聞いていける人。周りとの作業ペースを確認しながら仕事を積極的に取っていける人。与えられた仕事にきちんと優先順位をつけて取り組める人。困ったときや疑問を感じたら、しっかり言語化して質問できるコミュニケーション力のある人。あるいは個人作業で集中力を維持できる人。

職種としては、ネット環境があれば1人でできる仕事で、成果物が明確なもの。これらの条件がそろう場合、半永久的な在宅勤務を認める会社が増えていくかもしれません。

例えば、エンジニアやデザイナーという職種で、前述したタイプの人に対して、在宅勤務の継続を決定する会社がすでに出てきています。コロナに関係なく、出勤不要の“永久在宅社員”に転換するのです(もちろん、本人との面談で希望を聞いて決定するというプロセスは必要です)。

反対派だった知人経営者も、幹部社員の発案で、エンジニア職の一部に永久在宅勤務制度を導入しました。時代の変化を感じる決断です。

在宅に適さない「人物×職種」の場合

ただ、在宅に適さないと判断された「人物×職種」の社員などは、コロナ感染の不安を感じながら出社を再開しています。

例えば、情報を自宅に持ち出せない財務など、管理部門の職種の社員。加えて、育成段階にある若手社員なども在宅に適さないと判断し、出社を促している会社も多いのではないでしょうか。

この状況に対して「本当は怖いから出社したくない」と強い不安を感じる人も少なくありません。「感染を回避する対策を明確に提示してほしい」といった意見が出たり、中には「出社が必須なら辞める」と言い出す人も出て、人事部を中心に対策の検討を強いられている会社もあります。

オフィスビルの管理をする会社に聞いたところ、コロナの影響でオフィスレイアウトの大幅変更を依頼してくる会社も急増しているとのこと。マスクの着用や手洗い励行を前提として、オフィス内での2mの身体的距離の確保をするため、

・これまでの倍くらいの間隔で席を配置
・向かいあう状況ではアクリル板を立てる
・お誕生日席に位置する上長席は使わない(感染リスクが高いと思われるから)

といった、変更のニーズが多いのだそうです。

コロナで業績も厳しく、オフォスの一部を返すつもりだったのに、出社する社員のスペースを十分に確保するため変更できない――。そう嘆いていたのは、ネット系広告代理店の総務部長。そこで、永久在宅社員をもっと増やして、出社する社員は最小限にする方向で検討が進んでいるとのこと。“永久在宅”を増やす要因が、経済的判断でも出てきたのです。

例えば、営業職における在宅社員の新規採用。求人サイトを眺めてみると「在宅勤務が基本」と書かれた営業職の募集が増えています。ある企業では、入社後の研修から会議にいたるまで出社は不要。営業成績のみで評価が行われる職種として採用をすることにしたとのこと。永久在宅社員が増える傾向が、加速するのは間違いないでしょう。

多くの企業は、この流れに逆らうことは難しいかもしれません。その理由のひとつは、人材の確保です。

「転職するならリモートワークの会社」というニーズ


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ある金融系企業では、コロナが拡大した後に同業からの転職応募が急増したとのこと。転職理由を聞いたところ「いまの会社は出社を強いるから」と回答する応募者が多かったようです。

密な環境で会議や打ち合わせが行われる。コロナ感染を恐れる姿勢を示すと「仕事に意欲的でない」と思われる雰囲気があり、続けていくことに不安を感じたことが転職を決めた要因。

転職先は社員の健康を考えて、無理な出社を強いない、リモートワークの環境整備を進める会社を探したようです。

応募が増えたある会社では、入社後の勤務形態はリモートが前提で、面談も最終プロセスまでリモートで行っています。在宅社員には交通費に変わるリモート手当てが支給され、自宅のPC環境の整備にも補助金が出るとのこと。

その会社ではリモート推進に否定的な役員もいたようですが、社長の決断で業界に先駆けて取り組みを行いました。人事部の担当者は、応募数が減ったり、辞退になるリスクがあるのではと懸念していたそうですが、ふたをあけてみれば、応募数が増えて、優秀な人材の確保にも寄与しそうなので驚いている……と語ってくれました。

「転職するならリモートワークの会社」とのニーズを無視していては今後、人材確保もままならないかもしれないことは踏まえておく必要がありそうです。