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 ドラフト1位──。高い契約金を得て、将来を嘱望されてプロ野球界へと入ってきた金の卵。だが、弱肉強食のプロの世界では、その力を発揮できずに停滞している逸材も少なくない。

「期待外れ」と切り捨てるのは簡単だ。それでも、ドラフト1位という評価を勝ち取った選手には、大いなる可能性が眠っていることを忘れてはならない。堅い殻を破れずにいるドラフト1位選手のなかから、とくに夢を抱ける大器を紹介したい。

 真っ先に名前を挙げたいのは、田中正義(ソフトバンク)である。


ソフトバンク工藤監督(写真右)から指導を受ける田中正義

 2016年ドラフトの目玉であり、5球団の競合の末に、ソフトバンクが当たりくじを引いた剛腕である。入団から4年目を迎えたが、プロ通算未勝利が続く。なお、同年ドラフト1位で入団した投手(広島・加藤拓也、DeNA・濱口遥大、ヤクルト・寺島成輝、中日・柳裕也、日本ハム・堀瑞輝、ロッテ・佐々木千隼、西武・今井達也、楽天・藤平尚真、オリックス・山岡泰輔)のうち、0勝は田中だけだ。
※加藤拓也は2019年に登録名を矢崎拓也に変更

 創価大時代の状態のいい田中のボールを知る者からすれば、歯がゆくて仕方がない。メンタル面の弱さを指摘する声も聞こえてくるが、田中本来のボールを投げられれば、メンタルなど問題ではないとさえ思える。それくらい、田中のストレートは飛び抜けていた。

 同じ150キロ台のボールにしても、田中の剛球は重量感も加速力も違う。投球練習を1球見ただけで「モノが違う」とうならされる。

 大学3年の6月には、大学日本代表としてNPB選抜と対戦。当時若手だった山川穂高(西武)に対してうなりをあげるストレートを続け、詰まったレフトフライに抑える名勝負を演じた。その後の7打者からは連続三振を奪い、ひとりだけ格の違うところを見せつけた。そんな田中本来の強いボールは、プロではお目にかかれていない。

 アマチュア時代から肩・ヒジの故障が続いていたことも響いているのだろう。関節への負担を考慮してか、ややおとなしいフォームに見える時期もあった。

 ドラフト会議直後のインタビューで、田中はこんなことを語っていた。

「今のままでは通用しないことはわかりきっています。一番は、真っすぐと変化球で腕の振りが違うこと。プロに行けばボコボコにされると思います。牽制やフィールディングも課題。大学では『ホームに還さなければいい』と思っていましたけど……」

 当時は思わぬ自己評価の低さに、周囲からちやほやされても自分を見失わないクレバーさを感じたものだった。だが、今となってはこの繊細さ、慎重さが田中の足かせになっているように思えてならない。

 とはいえ、希望の光はある。昨冬はプエルトリコのウインターリーグに参加し、好結果を収めるなど手応えをつかみつつあった。今春キャンプでは早々にコンディション不良で離脱したものの、秋までに何らかの兆しを見せたい。

 田中らしいボールが1球でも戻ってくれば、それだけで球界の希望になるはず。それだけの才能の持ち主だと断言できる。

 田中と同期入団の佐々木千隼(ロッテ)も、桜美林大時代の状態を思えば「こんなものではない」と強く訴えたい投手のひとりだ。

 ドラフト会議直前には田中と評価を二分する勢いだったが、いざフタを開けてみるとエアポケットにはまったかのように1回目の入札で佐々木の名前は呼ばれなかった。ところが、「外れ1位」の入札では全5球団が佐々木を指名。これは史上初の出来事だった。

 当時、アマチュア野球を取材する多くの関係者は、佐々木を翌年の新人王候補に挙げていた。それだけ佐々木の完成度は高く、ゲームメイク能力は高かった。また、大学4年時は春秋のリーグ戦に夏の大学日本代表と、年間通して安定感のある投球を見せていたことも、佐々木の評価を決定的にした。

 とはいえ、全国準優勝を飾った秋の明治神宮大会では、疲労の色は隠せなかった。ヒジの位置は下がり、球速は140キロにも満たない。プロ入り後は1年目に開幕ローテーション入りを果たし、プロ初登板初勝利をマークしたものの、4勝7敗と数字は伸びなかった。2年目には右ヒジの手術を受けている。

 今春キャンプでの練習試合で佐々木の投球を見たが、スピード、キレともに乏しく、本来の姿からは程遠い状態だった。まずは投げられる体へと調整できるかが、佐々木の今後を左右しそうだ。

 2014年のドラフトの目玉だった安樂智大(楽天)も苦しい時期が続いている。

 高校時代のマウンドで踊るような躍動感のある投球フォームが影を潜め、プロ入り後の5年間で5勝14敗。高校2年時に最速157キロを計測したスピードは、プロでは常時140キロ台前半にとどまっている。

 高校2年春の選抜高校野球大会で準優勝を遂げた際に、5試合で通算772球を投げたことは、国内外で大きな論争を呼んだ。プロで活躍できなければ、高校時代の投球過多が「酷使」と論じられる大きな根拠になる。それは自らの意思でマウンドに立った安樂本人にとって不本意だろう。それだけに、一層の奮起が求められる。

 投球時に軸足を折らずに角度を出そうと試みた時期や、ウエイトトレーニングの成果で体は大きくなったものの、動作にキレを感じない時期もあった。一方で毎年のように故障に襲われ、昨年10月には右ヒジのクリーニング手術を受けている。

 6年目の今季は中継ぎとして7試合に登板し、3年ぶりの白星を挙げるなど防御率0.87と奮闘中(7月20日現在)。球速は140キロ台前半でも空振りを奪うだけのキレがあり、両コーナーを丁寧に突く細心さとカットボールやフォークを織り交ぜる器用さで新境地を見せつつある。

 ほかにも、野手では2015年ドラフト1位の平沢大河(ロッテ)、オコエ瑠偉(楽天)、2017年ドラフト1位の清宮幸太郎(日本ハム)、中村奨成(広島)といった高卒の好素材が殻を破れずにいる。

 また、2018年ドラフトで指名が集中した根尾昂(中日)、藤原恭大(ロッテ)、小園海斗(広島)といった有望株も、高卒2年目の今季はまだ二軍暮らしが続いている。彼らのポテンシャルを持ってしても、順応するまでには時間がかかる。プロ一軍のレベルの高さには脱帽するばかりだ。

 とはいえ、野手はきっかけひとつで大化けするもの。とくに清宮はチャンスを与えられている今季、なんとかきっかけをつかんで野球人生の分岐点にしたいところだ。

 プロ入り後に投球感覚を見失いどん底を味わいながら、今季ブレークの兆しを見せている寺島成輝(ヤクルト)のような例もある。たとえ足踏みが続いたとしても、ドラフト1位のポテンシャルを信じて、じっくりと開花の時を待とう。