軽自動車ブームは都市部にも浸透!? ホンダ「N-BOX」が圧倒的に有利な訳

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どんなモデルからもライバル視されるホンダ「N-BOX」

 国内で販売台数のもっとも多い車種は、軽自動車のホンダ「N-BOX」です。2019年度(2019年4月から2020年3月)の届け出台数は、24万7707台(1か月平均で2万642台)に達しました。

新車販売のトップを独走するホンダ「N-BOX」

 2位のダイハツ「タント」は17万2679台(同1万4390台)でしたから、1か月平均で6000台以上の差を付けています。比率に換算すると、N-BOXの届け出台数はタントの1.4倍以上なので「1人勝ち」の独走体制といえるでしょう。

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 ちなみに3位以下は、スズキ「スペーシア」が15万9799台、日産「デイズ」が15万4881台、ダイハツ「ムーヴ/ムーヴキャンバス」が11万8675台、トヨタ「カローラシリーズ」が11万4358台と続きます。

 国内販売の上位5車種は軽自動車で占められ、1位から3位は、すべて全高が1700mmを超えるスライドドアを備えた車種になります。

 それにしてもなぜ、N-BOXの販売がここまで好調なのでしょうか。ホンダの販売店で、N-BOXの人気について尋ねると、以下のような返答でした。

「N-BOXは先代型(初代モデル)から人気が高く、現行型に乗り替えるお客さまも多いです。長年にわたって他メーカーの軽自動車を乗り継いできたお客さまも、N-BOXを購入しています。

 軽自動車のお客さまが中心で、『フリード』のような小型車からの乗り替えも加わり、売れ行きを伸ばしました。小型車に乗っていたお客さまも、N-BOXで十分といいます。

 ただし、いまのN-BOXは、価格が同社のコンパクトカー『フィット』とほぼ同じです。そのためにフィットからの乗り替えは、以前に比べると減ってきました。

 N-BOXの売れ筋グレードは、以前はエアロパーツを装着したカスタムが圧倒的でしたが、最近は標準ボディも堅調に売れています。N-WGNもフルモデルチェンジしましたが、N-BOXの人気は衰えません」

 スズキの販売店でも、N-BOXについて尋ねました。

「N-BOXはどのような軽自動車とも競争します。スズキの場合、N-BOXのライバル車はスペーシアですが、実際は『ワゴンR』を買うお客さまもN-BOXを気にします。逆にワゴンRの直接のライバル車となるホンダ『N-WGN』の名前はあまり聞かれません。

 スペーシアの強みは、SUV風の『ギア』を加えたことです。このようなタイプは、ライバル車のN-BOXとタントには設定がないので、スペーシアの販売増加に結び付いています」

 N-BOXは、軽自動車の定番的な選択肢になって堅調に売れています。とくに最近は、N-BOX、タント、スペーシアといった背の高い車種が売れ筋なので、軽自動車を一家に1台のファーストカーとして選ぶユーザーも増えています。

都市部においても軽自動車ブーム到来!?

 軽自動車は都市部でも堅調に売れるようになってきました。2005年まで、東京都における軽自動車の普及率は10世帯当たり1台以下でしたが、いまは1.2台です。

 そしてホンダは都市部に販売店が多いため、軽自動車のファーストカー需要が増えるほど、N-BOXも売れ行きを伸ばしやすくなります。

ホンダ「N-BOX」

 そこで2019年度における軽乗用車の売れ行きを地域別に見ると、もともと軽自動車普及率の高い鳥取県や佐賀県では、ホンダのシェアは20%以下です。いまでもダイハツとスズキの天下です。

 それが東京都や神奈川県ではホンダ比率が20%を超えており、今後も軽自動車は都市部で売れ行きを伸ばすため、N-BOXの販売にも一層の弾みが付くでしょう。

 このほかN-BOXが売れ行きを伸ばした背景には、先代N-WGNの伸び悩みもあります。人気のN-BOXは2017年8月にフルモデルチェンジをおこなって現行型になり、安全装備と運転支援機能を大幅に充実させて、販売台数をさらに増やしました。

 ただし現行N-BOXが採用した安全装備と運転支援機能は、マイナーチェンジで先代N-WGNに装着することはできません。そのためにN-WGNは相対的に設計が古くなって売れ行きを下げ、約2年後の2019年7月に現行型へフルモデルチェンジしました。

 現行N-WGNの衝突被害軽減ブレーキは自転車検知も可能で、運転支援機能も充実させましたが、電動パーキングブレーキに不具合が生じて生産が滞りました。

 2020年にようやく生産が再開され、2月と3月の届け出台数は1万台を超えましたが、4月以降はコロナ禍の影響で再び再び落ち込んでいます。

 ホンダの軽乗用車には「N-ONE」もありますが、2012年の発売とあって設計が古く、2019年度の届け出台数は1万1788台(1か月平均で982台)に留まりました。その結果、ホンダの軽乗用車に向けた需要がN-BOXに集中して、売れ行きを著しく伸ばした事情もあります。

 以上のようにN-BOXは、先代型からの乗り替えを含めて需要が多く、現行型は質感、静粛性、安全装備、運転支援機能も向上させました。N-WGNとN-ONEが販売を伸ばせない事情も重なり、現行N-BOXは国内販売の最強車種になったわけです。

 N-BOXが好調に売れるのは良いことですが、ほかのホンダ車の売れ行きが販売力を奪われて低調になっています。

 2019年度に国内で売られたホンダ車の内、N-BOXが36%を占めました。日本で売られるホンダ車の3台に1台以上がN-BOXです。軽自動車全体では50%を超えています。

 こうなるとホンダのブランドイメージも軽自動車中心に変わり、売れ筋車種のコンパクト化が進みました。2019年度において、軽自動車+フィット+フリードの販売台数を合計すると、ホンダ車全体の75%に達します。

 この傾向は今後さらに顕著になるでしょう。N-WGNの商品力もN-BOXと同等かそれ以上に高く、コロナ禍が終息すれば、売れ行きを伸ばします。2020年秋(販売店によると10月以降)には、N-ONEも新型にフルモデルチェンジします。

 軽自動車が商品力を高める一方で、「シビックセダン」「グレイス」「ジェイド」は国内販売を終了します。

 かつて人気の高かった「オデッセイ」や「CR-V」も伸び悩み、「アコード」は日本仕様を北米に比べて約3年も遅くフルモデルチェンジしました。

 魅力を増す軽自動車と、商品力を下げていく小型/普通車の差が激しく、軽自動車+フィット+フリードの販売比率が80%を超えるかも知れません。そのほかの車種は、すべてを合計しても20%以下になります。

 いまはホンダに限らず、電動化を主体に据えた環境性能の向上、自動運転や安全装備の開発が急務になり、各メーカーともに車種をなるべく減らしたいと考えています。

 ホンダも今後、国内の狭山とイギリスの工場を閉鎖する予定で、いわゆる選択と集中が加速します。国内で売られるホンダ車が、軽自動車とコンパクトカー中心になることは、十分に考えられるでしょう。

 N-BOXやN-WGNは優れた商品で、今後登場するN-ONEも、同様の安全装備を採用して安心して使える上質な軽自動車になると思います。

「ステップワゴン」、オデッセイ、CR-V、シビック、アコードなども、これらの車種に負けないように、商品力を高めて国内販売を続けて欲しいです。