法改正により加入者の範囲が拡大されるiDeCo。積み立てたお金は60歳以降にもらうことができるが、いつから受け取るのがお得なのか?(写真:nonpii/PIXTA)

年金制度改革関連法が5月29日、参議院本会議で成立し、確定拠出年金(DC)法も改正されました。長く働く、そして長く生きる私たちの老後を支えるためにいろいろな項目が改正されましたが、何といっても注目はiDeCo(個人型DC)の「加入可能年齢の延長」です。現在、iDeCo加入は60歳未満が対象ですが、2022年5月1日以降は65歳未満まで延長されることになったのです。

iDeCoに加入するには、会社員として働くといった要件も満たしている必要がありますが(詳細は「『57歳以下の会社員』は今iDeCoに入るべきだ)でご確認ください)、税のメリットを受けながら老後資金を積み増すことができる制度ですから、加入できる年齢が65歳まで延びることのメリットは大きく、多くの方々に活用していただければと思っています。

ただ、今回のiDeCoの制度改正を活用するために、気をつけるべき点もあります。具体的にお話ししましょう。

受け取りを始めた人は「再加入」できない

まず気をつけるべきは、「60歳になったとき、あるいはそれ以降にiDeCoの受け取りができるようになったときに、安易に受け取らない」ということです。

今回の法改正で、加入できる期間が延長された一方、受け取り開始のルールは変更されていません。制度上は加入可能期間と受け取り可能期間が重複しますが、加入して老後資産を積み上げることと、それを取り崩して受け取ることを同時に行うことはできません。つまり、いったん受け取りを始めた人の再加入は認めないことが改正法の中に盛り込まれています。

iDeCoは、60歳時点で「加入者等期間」が10年以上あると、60歳から受け取ることが可能です。ただし、これは受け取らないといけないというわけではなく、受け取りの申請手続きができる権利を得るということです。

加入者等期間が10年に満たない場合は、61歳、62歳と受け取り手続きができる年齢が引き上げられていきます。受け取りの手続きができる権利を得ても行使しないという選択肢もあるわけですから、その時点で受け取る、受け取らないは自由に選択することができます。

60歳の時点でiDeCoを受け取ってしまうと、今回の法改正によりiDeCoの加入者範囲が60歳以上にも広がったメリットを活用できなくなります。60歳以上でiDeCo加入の要件を満たしていても、受け取りを始めている人は再加入できず、「老後資金の積み増し」「掛け金の全額所得控除」「運用益非課税」といったメリットを受けられない、ということになるからです。

とくに、2022年5月1日までに60歳を迎える、現在58歳から59歳のiDeCo加入者は要注意です。こうした方々が60歳になる時点においては、まだ制度上60歳以上の加入は認められていません。いったんは加入資格を喪失して、受け取る権利だけを得るという方も多いでしょう。そうして、60歳以降は積み立てを一切しないということであれば、受け取っても問題はありません。

しかしそこですぐに受け取ってしまうと、2022年5月1日以降iDeCoに加入できる権利を放棄する、ということになります。できるだけ長く積み立てたいと思っていたのに、後で「しまった!」ということになりかねません。「受け取ること」と、「加入すること」は一見関係なさそうですが、受け取りを始めると再加入ができない。この点に注意が必要なのです。

現在57歳以下のiDeCo加入者も、60歳以降に受け取り手続きができるようになると通知が届きます。その際、60歳以降も積み増しするつもりであれば、「受け取りは先延ばしするほうがいい」と覚えておいてください。iDeCoは税制上の恩典が多いですから、それらを最大限活用して、有利に老後に備えていただきたいと思います。

60歳で企業型DCから乗り換える裏技

一方で、企業型DCに加入している方の中には、企業型は60歳までしか加入が認められていないから60歳以降はiDeCoに加入したい、と考えている方も多いと思います。この場合は企業型DCを受け取っても問題ありません。なぜなら60歳で企業型DCを一時金または年金で受け取り始めることは、企業型DCでの受け取りであって、iDeCoとは別物だからです。

もちろん、企業型DCを受け取らず運用の非課税メリットを活かすという考え方もあろうかと思います。その場合には、企業型DCの口座に残高がある間、費用としてかかる口座管理料を自分が負担するのかどうか、自分が負担する場合にはいくらかかるのかを必ずチェックしてください。

iDeCoでは当たり前のように加入者が負担する口座管理料ですが、企業型DCは会社が退職給付制度または福利厚生制度として導入しているため、60歳前の加入者の口座管理料はほぼ会社負担です。しかし、加入者でなくなった後は本人負担となるケースが多いです。

本人負担の場合、その口座管理料は残高から差し引かれます。つまり、新たに徴収はされないものの、いつの間にか減っていたということになりがちです。口座料などのように継続的にかかる費用が本人負担であるなら、長く置いておくべきかどうかは一考したほうがよさそうです。

こういう場合、あまり知られていない解決策として、企業型DCの残高をiDeCoに持ち込みするというのも手です。もし、2022年5月1日以降に60歳以上でiDeCoに加入したいのであれば、そんな方法も一案です。そうすれば、1つの口座で管理も楽ですし、管理料も安くなります。

ただ、注意しないといけないのは、企業型をiDeCoに移すには、いったん現金化しなければならないこと。移換に当たって費用がかかる場合もあります。そのあたりはよく確認しておいたほうがよいでしょう。

いずれにしても今回の改正で、iDeCoを含む確定拠出年金の活用の幅はグンと広がります。これからもさまざまなバリエーションや、ちょっと気づきにくい裏技なども紹介していきますので、皆さんにとってのベストな選択に役立てください。