2020年5月、元慰安婦の李容洙さんは記者会見で慰安婦支援団体を批判した(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

慰安婦問題をめぐる疑惑に韓国が揺れている。

元慰安婦が支援団体の活動に疑問を呈し、告発を行ったためだ。告発したのは元慰安婦の李容洙(イ・ヨンス)氏(92)。李氏は、元慰安婦としてさまざまな活動に参加してきた代表的な人物だ。

李氏から疑惑の目を向けられたのは、尹美香(ユン・ミヒャン)氏。尹氏は慰安婦支援団体を長らくリードし、日本政府に対しても強く抗議し、元慰安婦への国家的謝罪と賠償を強く求めてきた運動家だ。2020年4月15日の韓国総選挙で当選している。その尹氏をはじめ支援団体に向けて、現在さまざまな疑惑の目が向けられている。

浮かび上がった正義連の不正会計疑惑

「お腹が空いたのでおいしいものでも買ってくれないかと言っても、『金がない』と言われた。そんなものか、と思い、自分を納得させてきた。ところが、教会に行けば金をくれたのに、そんなことも知らず30年間生きてきた」

元慰安婦の李氏は5月25日に行った記者会見の場で、このように打ち明けた。李氏は16歳の時に台湾の日本軍部隊に慰安婦として送られた。この事実を1992年、当時の挺対協の幹事をしていた尹氏に打ち明けた。挺対協とは、現在は「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯」(正義連)の前身となる組織だ。

その後、2人は30数年間をともに過ごした。日本政府による公式謝罪と賠償を要求するため、毎週水曜日にソウルの日本大使館前で集会を開いてきた。そんな2人が今なぜ対立しているのか。

最初の問題は、正義連の不正会計疑惑だ。李氏は5月7日に最初の記者会見を開き、正義連が集めた支援金の使途が不透明だとの疑惑を提起した。

正義連と挺対協が国税庁に提出した資料について、「支援金と国庫補助金総額を誤って記載、あるいは記載漏れがあった」と疑われている。

例えば正義連は、2019年の決算資料に前年度からの繰越金として処理すべき寄付金残額である約22億7000ウォン(約2億円)が記載されていなかった。また、被害者支援事業の寄付金を受け取る人数を不正確に記載していた。

挺対協は2014年から2019年まで、ある企業から6億ウォン(約5200万円)以上の寄付を受けてきた。しかし、1億1000万ウォン(約1000万円)分しか記載していなかった。

相場より高値で住宅を購入

政府補助金に関する公開資料からも金額の記載が漏れていた。慰安婦問題の支援団体などは2016年から2019年までに、国庫補助金から13億4300万ウォン(約1億1700万円)を受け取っていた。このうち、正義連は2018年に1億ウォン(約900万円)、2019年に7億1700万ウォン(約6200万円)の補助金を受け取っていた。しかし、公開資料には2018年に0ウォン、2019年に5億3800万ウォン(約4700万円)としか記載していなかった。

挺対協も2016年から2019年まで毎年、政府の補助金を受け取っていたが、決算資料にはすべて0ウォンと記載されており、総額8億ウォン(約7000万円)程度が消えていることになる。このような疑惑について、正義連は「会計処理の過程で誤記があった」と釈明している。

2つ目は、正義連が2013年に韓国・現代重工業が社会福祉共同募金会を通じて寄付した10億ウォン(約9000万円)を使って、京畿道安城市にある7億5000万ウォン(約6500万円)の住宅を購入。これを元慰安婦のための保養施設「平和と癒やしが出会う家」として整備した問題だ。

これは、当時の周辺の不動産相場からすれば高値で購入したと見られている。さらに、安城市は水曜集会を行っているソウル中心部から約80キロメートル離れており、交通も不便だという理由で、当初の目的だった保養施設として利用されなかった。

さらに、挺対協が2012年、ある教会からソウル市麻浦区にある施設を無償で譲り受け、元慰安婦らの住居として使っていることがわかり、疑惑はさらに高まっている。これが事実だとすれば、巨額の寄付金を受け取り、安城市に施設を設置する理由がないためだ。

もし挺対協が相場より高値で住宅を購入したことで団体に損害を負わせ、転売した際に購入者に利益を図ったとすれば、これは業務上の背任に当たる。

3つ目の疑惑は、受け取った支援金を尹氏が個人の口座になぜ入金したのかだ。尹氏は2018年と2019年に元慰安婦2人が死亡した際、SNS上で葬礼費用の募金活動を行ったが、その際に尹氏本人名義の口座を指定していた。別の元慰安婦がヨーロッパで慰安婦活動をする費用として同じような形で募金を求めたことがある。

寄付金や物品の募集と使用に関する法律によれば、寄付金や物品を1000万ウォン(約90万円)以上募集する際、募集方式と使用計画書を作成し、該当機関の許可を受ける必要がある。また、受け取る寄付金はそのときに明示した口座でのみ入金できる。

寄付金と補助金の2重受け取り疑惑も

であれば、尹氏はこのルールに従わず、個人口座を利用したことになる。個人口座は法人口座ほど厳格に管理されにくく、個人の金と寄付金が混ざり、私的かつ不当に流用しても発覚しづらい。正義連は「尹氏が元慰安婦らの実質的な喪主であり、弔慰金用の口座として利用した」と主張している。

このほかにも、正義連と挺対協は事実上同じ団体であるにもかかわらず、寄付金と補助金を2重に受け取ったのではないかとも疑われている。1990年に設立された挺対協と、2016年に設立された「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶財団」は、2018年に正義連として統合された。統合後も、それぞれ別法人として寄付金や補助金などを2重に受けてきたのではないのかという問題だ。

冒頭の李氏が記者会見を開いた後、市民団体は尹氏と現在の理事長である李娜栄(イ・ナヨン)氏らを横領と背任、寄付金品法違反などの容疑で検察庁に告発した。ソウル西部地方検察庁は5月20日、正義連と挺対協の事務室も兼ねる「戦争と女性人権博物館」(ソウル市)を家宅捜索した。翌21日には元慰安婦が住んでいた施設も家宅捜索した。

5月30日から尹氏は国会議員としての活動を始めることになる。国会議員には不逮捕特権が与えられる。現行犯ではないので、会期中は国会の同意なく逮捕・拘束することはできない。検察がスピードを上げて捜査している理由だ。

今後注目すべきなのは、正義連が故意に横領・背任を行ったとすれば、その決定を下した者は誰なのか。そして消えた資金はどこに、どのように流れていったのかだ。(韓国「ソウル新聞」2020年5月27日)