家族に「終活」を勧められてキレる高齢者の心理 死と向き合いたくないのが人情

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準備するのは気が進まない

「人間というやつは、いま死ぬという土壇場にならないと、気のつかないことがいろいろある」

作家・山本周五郎の言葉だ。菅原脳神経外科クリニック院長・菅原道仁氏も、「余命宣告を受けたり、寝たきりにならないと、死ぬということを意識して行動できない人が多い」と話す。

菅原氏によれば、人間の死に方には5つのパターンがある。

(1)90歳過ぎまで元気で生きる「大往生」
(2)心臓疾患や脳疾患で突然死ぬ「コロリ」
(3)脳血管障害などで後遺症が残り、肺炎などで亡くなる「長期介護」
(4)がんで死ぬ「闘病」
(5)末期がんが見つかり、2〜3ヵ月で死ぬ「末期」

(3)「長期介護」や(4)「闘病」といったパターンであれば、人は否応なく時間をかけて死を意識し、準備を迫られる。しかし、(2)「コロリ」のように明日亡くなるとは誰も予想できない。健康な人が、死を前提に生きることはできない。それほど人間は、悲観的には生きられない生き物だ。

「問題は『正常性バイアス』です。死という恐ろしいものとは向き合わず、『自分は大丈夫だ』『明日死ぬことはない』と思ってしまうのが人間の考え方の癖なのです。

心筋梗塞やくも膜下出血などの突然死は、血圧や血糖値が高い生活習慣病の人ほどリスクが高くなります。しかし自分の身体にリスクがあるとわかっていても、明日死ぬことはないと信じこんで、何もしない人もいるのです。死を直視することは簡単ではありません」(菅原氏)

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突然死の「ピンピンコロリ」を理想的な死に方だと言う人もなかにはいる。最後まで元気で、闘病に苦しむこともなく死ねるからだ。それは、死の準備をするのは気が進まないことの裏返しでもある。

一方で、元気なうちに死ぬ準備をする「終活」に手を付ける人も多い。家族に迷惑をかけたくないという思いからだが、どれだけ真面目に取り組んでも、やり切れる人はそう多くない。

「エンディングノートを買っても最後まできちんと書いた人は、たったの2%しかいないというデータもあります。結局、死のイメージがわかないとか、この先何があるかわからないと思って、手が止まってしまうのです」(葬儀・お墓・終活ビジネスコンサルタントの吉川美津子氏)

妻や夫、さらには老親に、死の準備を進めてほしいと思っている人もいるだろう。それにも、大きな壁が立ちはだかる。

「死を考えたくないという意識が強く、奥さんや家族が身辺整理を勧めても、『何を言っているんだ』と癇癪を起こすような方もいます。

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特に男性は、定年退職後も70歳くらいまでは働こうという人が多いため、死の準備を始めるのが遅くなりがちです。80歳近くなってから身辺整理をしようと思っても、気力や体力が落ちていて、手遅れになってしまう可能性があります」(老前整理コンサルタント・坂岡洋子氏)

かつては隠居という言葉があった。それは次の世代に席を譲り、ゆっくりと死を受け入れることと同義だった。しかし、「生涯現役」というフレーズが当たり前になった現在、死を前提に生きることはますます難しくなっている。

『週刊現代』2020年4月11・18日号より