鉄道の大事な役割である貨物輸送。企業や運送会社が、鉄道用のコンテナに貨物を入れて列車で運ぶのが一般的ですが、実は個人でも鉄道の貨物輸送を利用できます。どれくらいの量を、いくらの料金で運べるのでしょうか。

長距離輸送で実力発揮 鉄道の貨物輸送

 鉄道の役割には大きく分けてふたつ、旅客輸送と貨物輸送があります。昭和30年代ごろまで、鉄道は船とともに物流の主役でしたが、高速道路の整備が進むにつれて激減し、2020年現在、貨物輸送のシェアは、トン(t)ベース(貨物の輸送重量を基に算出)でわずか1%未満になっています。


コンテナ貨車をけん引するJR貨物のEF200形電気機関車(画像:photolibrary)。

 しかしながら、多くの貨物を長距離輸送する場合、鉄道はトラックに比べて多くのメリットがあります。

 鉄道輸送で使われるコンテナにはいくつかの大きさがあり、街なかでよく見かける「5tコンテナ」は、その名の通り最大積載量が5tです。日本で走っているコンテナ貨物列車は、最長が26両編成(機関車を除く)で、コンテナ貨車1両には5tコンテナを5個積載できますから、1列車でコンテナ130個、最大650tの貨物を一度に運んでいます。これは、長距離輸送で使われる大型の10tトラック65台分で、それだけ運転手の数を減らすことができるのです。

 ただ、鉄道貨物輸送はあくまでも送り元に近い貨物駅から届け先に近い貨物駅までの輸送です。送り元から貨物駅、貨物駅から届け先までは、どうしてもトラックで運ぶ必要があるため、近距離輸送なら「トラックで直接運んだ方が効率的」ということになります。つまり、鉄道貨物輸送がその実力を発揮するのは、長距離輸送なのです。

 このほかにも、渋滞や交通事故の心配がない、CO2(二酸化炭素)の排出量が少なく環境にやさしいなど、鉄道貨物輸送には様々なメリットがあります。近年は、佐川急便や福山通運、自動車メーカーであるトヨタの専用貨物列車が運行されているほか、アサヒビールとキリンビールが鉄道を使った共同輸送を行ったり、キューピーと伊藤ハムが同じ鉄道コンテナを片道ずつ使って効率化したりするなど、鉄道貨物輸送は再び注目を集めています。

運賃+集荷・配達料金を払えば個人利用可能

 ところで、鉄道貨物輸送は企業だけが使えるもの、というわけではありません。実は、個人でも利用できます。

 そういわれると、気になるのはその料金です。鉄道でコンテナ貨物を運ぶ場合、どれくらいの費用がかかるのでしょうか。ここでは5tコンテナをひとつ運ぶ場合を例として、計算してみます。


5tコンテナを載せた状態のコンテナ貨車。1両のコンテナ貨車に、5トンコンテナが5つ積載できる(2013年3月、伊原 薫撮影)。

 まず必要になるのが、貨物列車でコンテナを運ぶための「鉄道運賃(貨物運賃)」です。この鉄道運賃は、人が列車に乗る場合の「旅客運賃」と同じように、距離によって決まります。たとえば、東京貨物ターミナル駅から大阪貨物ターミナル駅までは3万8500円、福岡貨物ターミナル駅までは6万6000円、札幌貨物ターミナル駅までは7万500円です。このなかにはコンテナの使用料金も含まれており、列車の時刻表とともに、JR貨物のWEBサイトに公開されているので、誰でも見ることが可能です。

 余談ですが、大阪地区にある4つの貨物駅(大阪貨物ターミナル駅、吹田貨物ターミナル駅、百済貨物ターミナル駅、安治川口駅)は、旅客運賃の「都区市内制度」のように、運賃計算上は同一駅として扱われます。

 次に、上記の鉄道運賃は貨物列車で運ぶ部分に対する費用ですので、これにプラスして「送り元から貨物駅までの集荷料金」「貨物駅から届け先までの配達料金」がかかります。こちらは事業者によって違いますが、とある運送会社の場合は、貨物駅から10km以内は1万円、そこから10kmごとに2500円、という形で加算されます。

5tコンテナは軽自動車が納まる大きさ

 また、集荷や配達をしてもらうのではなく、貨物駅に自分で貨物を持ち込み、コンテナに積み込むことも可能です。この場合でも、コンテナを貨物列車に積み込む作業は運送会社が行うため、その費用がかかりますが、集荷や配達をしてもらうより安くなります。

 この「鉄道運賃」と「集荷料金・配達料金」が、鉄道でコンテナ貨物を輸送するために必要な料金です。このほかに、積み下ろしにかかった時間に応じた加算料金などが必要な場合もあります。


イベントで展示された5トンコンテナの内部。畳を4枚敷いてもまだ余裕がある(2010年5月、伊原 薫撮影)。

 では、1個のコンテナでどれくらいの荷物を運ぶことができるのでしょうか。

 5tコンテナの内寸は、長さ3.64m、幅2.27mで、畳およそ5畳分に相当。高さは2.25mあり、なんと軽自動車がまるまる1台入ります。ミカンの段ボール(40×30×25cm)だと63箱×8段、引っ越しで使われる大きめの段ボール(55×35×40cm)でも40箱×5段と、かなりの量を積むことが可能です。冷蔵庫や洗濯機、本棚なども余裕で入りますので、単身での引っ越しはもちろん、荷物が少ない夫婦ならコンテナ1個で済むでしょう。

 実は、筆者(伊原 薫:鉄道ライター)もコンテナを使った鉄道貨物輸送を利用したことがあります。このときは引っ越しではなく、鉄道イベントで展示する模型レイアウトや鉄道部品などを、大阪貨物ターミナル駅から福岡貨物ターミナル駅まで運んでもらいました。

コンテナの留置きサービスは無料で利用可能

 その際、筆者自宅から大阪貨物ターミナル駅までは、筆者自ら荷物を何回かに分けて自家用車で運び、福岡貨物ターミナル駅からイベント会場へはトラックでコンテナをそのまま輸送。筆者自身は数日後に福岡へ移動し、イベント会場でコンテナから荷物を下ろしました。

 宅配便では運べないような大きな荷物も、コンテナ貨物なら輸送することができ、荷物を積んでから配達先で下ろすまでは「封印環」と呼ばれるシリアルナンバー入りの器具で封印されるため、荷物がなくなる心配もありません。費用は総額で6万円弱と、トラックで運ぶより安く済みました。


貨物駅。写真は、東海道貨物線(羽沢線)の横浜羽沢駅(2015年9月、草町義和撮影)。

 そして、鉄道輸送で意外と便利だったのが、コンテナの一時留置サービスです。列車で運ぶ前や運んだ後に、貨物駅で輸送当日を含めて6日間、コンテナを無料で保管してくれるのです。これを使えば、コンテナを数日前にあらかじめ送り、自分たちは列車や自動車で移動して荷下ろしをする、ということが可能。通常の引っ越しやトラック輸送では、不可能だったり追加費用がかかったりしますので、とてもありがたいサービスです。

 個人でも利用できる、鉄道のコンテナ輸送。JR貨物のWEBサイトでは、個人利用の相談も受け付けていますので、もし引っ越しや多くの荷物を運ぶことがあれば、考えてみてもよいかもしれません。