「エール」29話 裕一(窪田正孝)が何もしなくても大手レコード会社との高待遇契約に導かれていく才能

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第6週「ふたりの決意」29回〈5月7日 (木) 放送 脚本・吉田照幸 演出・松園武大〉



鈴木の結婚相手

アバン(主題歌前)は軽快にコント調。
心地よいクラシックが流れるなか、川俣銀行の鈴木(松尾諭)の結婚が決まった話。相手はなんとダンスホールにいた、裕一(窪田正孝)に「あのぐらいがちょうどいい」と勧めた女性(椎名琴音)だった。それを知って怒ってしまう結婚相手を鈴木は慌てて追いかける。つまり鈴木の好みだったということか。それとも本当に身の丈に合っていると妥協したということか。

支店長は「失敗は誰にでもあるが、失敗から学ぶ人間は少ねえ。逃げんなよ自分の心から」と良いことを言っているようで何も言ってないようなことで裕一を諭す。
鈴木の心も支店長の真意もさっぱりわからない。でも日常ってそんなものという可笑しみのある1分であった。


高待遇の契約をとりつける音

主題歌明けは音(二階堂ふみ)が光子に背中を押され、もう一度コロンブスレコードにやって来る。
「お願いするんじゃない。契約してやるくらいの勢いでいくの。金の亡者に頭なんか下げるな!」と光子の言葉どおりに、相手に門前払いをくらわれそうになっても、はったりをかまして居座る。

「あっ、うそです」「もちろんうそです」とナレーション(津田健次郎)がツッコみ、社員・杉山あかね(加弥乃)が見てないときの音の顔のこわばりが可笑しかった。こういうの二階堂ふみ、ほんと、うまい。

とそこへ、28回、志村けん(重鎮作曲家役)に契約しろと言われた古田新太(胡散臭い音楽プロデューサー役)が猛スピードでやって来て(壁にぶつかるところがさすがの古田新太)、高待遇(月3500円)で契約すると言う。

トントン拍子。だが、こと“契約”に関してだけ登場人物(関内家のみ)は立ち止まって確認を怠らない。三郎が契約書で騙されたが、関内家は契約書によって救われた。裕一のはじめての演奏会のときも結果的に持ち逃げされたとはいえ音は契約書を確認している。そして今回は吟が契約書をチェック。どんなことがあっても契約書にさえ注意すれば災難に合わないということをさりげなく伝えているように感じるのは気のせいか。


音 VS まさ

なぜか、三郎ではなく、まさ(菊池桃子)が相手をする。結婚を反対しているからだとは思うが、三郎は放っておいてどこに行ってしまう。

母としては厳しい世界で子供が傷つくのを見たくないというまさに対して、「諦めた今が一番傷ついています」と返す音。
「成功を求めて傷つくより身の丈にあった幸せをつかんでほしいの」と言う母。

おお、これは、アバンの鈴木の嫁探しと呼応しているではないか。単なるミニコントではなかったのだ。すばらすぃ〜。その証拠に、音とまさのシーンのあとに、職場で愛妻弁当を食べている鈴木が出てきて、そこに三郎が駆け込んでくるといううまくできた構成。それに免じて、古山裕一と社会的にはいまは未だ何も関係のない学生の音が勝手に大きな会社と契約してくる謎は許すことにしよう(何様)。

契約書を確認するように流れをチェックすると、吟の見合い相手が紹介してくれたわりには最初、廿日市は簡単に断ってしまう。そこは、結果ありき(裕一がレコード会社と契約することになる)でさくっと進めているとしか思えないのだが、まあいい(何様)。

お母さんになる人

「彼の身の丈は世界にとどろく音楽家です」と信じる音が裕一のために奮闘しているとはつゆ知らず、裕一は養子縁組を本格的に進めようとしていた。茂兵衛(風間杜夫)は容体が悪くなった妻・絹子(村上里美)に裕一を会わせる。

「お母さんになる人だろう」と。裕一にはわからないちょっとした妻の変化に大騒ぎする茂兵衛の人間臭さと、何も感じられない裕一の差異の残酷さ。こういうところをさらっと入れてくるところがニクイ。窪田正孝はこういうヒリヒリするところのほうが似合い、音が来たと呼びに来る三郎に冷たく「もう来んといて。僕は権藤裕一になる」と言うときの絶望と孤独感がたまらない。


「おまえ、何言ってんだ」「誰?」

教会でたそがれる裕一のもとに音がやってきて契約の話をしていると、裕一の留学が駄目になったことを聞いた鉄男(中村蒼)が駆け込んでくる。
「おまえ、何言ってんだ」
「誰」とツッコむ音に、真面目に鉄男の説明をする裕一。

ものすごーくシリアスな場面なのにコント台本みたい。でも、そのあとはいたってまじめな話になる。コントと普通の人間ドラマが混在したシュールなドラマなのだが、「選ばれた人は導かれていくもの」とまさが言うように、裕一は知らず知らずに売れっ子音楽家の道に導かれていくのである。
(文/木俣冬、タイトルイラスト/おうか)

(これまでの木俣冬の朝ドラレビューはこちらから)


番組情報

連続テレビ小説「エール」 
◯NHK総合 月〜土 朝8時〜、再放送 午後0時45分〜
◯BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜、再放送 午後11時〜
◯土曜は一週間の振り返り

原案:林宏司
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和