■110番は減少傾向だが……

4月7日、全国7都府県に発令された緊急事態宣言。さらに17日、その対象地域が全国に拡大された。外出自粛要請の効果はいかほどか。

NTTドコモの分析によると、感染拡大以前との人口を比較すると、渋谷センター街(東京)では−66.8%、梅田(大阪)では−73.1%、天神(福岡)で−57.5%と、各地の主要繁華街での人口が減少しているのを確認することができる(数字は2020年4月27日午後3時時点)。

国民が外出を自粛することで、基本的には犯罪や交通事故は減少すると考えられる。実際に交番勤務の警察官に聞けば110番は減少傾向にあり、飲み会等の酔っ払いのけんかでの出動要請も明らかに減っているようだ。

写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

しかしながら、外出自粛を逆手にとった犯罪が増える可能性がある、と警鐘を鳴らすのは弁護士法人サリュの籔之内寛弁護士だ。人々の外出が減れば、必然的に犯罪発生件数は減ると考えられる。しかし、その中で起こりやすい犯罪をランキング形式で紹介する。

■第1位は詐欺罪。「オレコロナ詐欺」が急増する

第1位 詐欺罪

オレオレ詐欺ならぬ、オレコロナ詐欺は増加してもおかしくないでしょう。詐欺集団は、人が抱くあらゆる不安をネタに人をだまそうとします。「オレだけど、コロナ不況で会社を解雇されて日銭が足りないから援助してくれないか」「お母さん、オレ、実はコロナにかかっちゃってさ。コロナに効く薬が100万円で買えそうなんだけど、100万円援助してもらえないか!」と泣き落とすなど、さまざまなパターンのオレコロナ詐欺が想像できます。

詐欺の手口は、電話だけにとどまりません。外出自粛要請でネットショッピングが増えていると思いますが、そこにも危険な落とし穴が。すでに「マスクを購入したけど自宅に届かない」という話もちらほら聞かれています。サイトには「●月●日入荷予定」と書いてあるが大丈夫なのかという不安を抱きながら購入された方も多いでしょう。

コロナの混乱を隠れみのに、ネットショップで詐欺を働くやからにも気を付けなければなりません。詐欺罪の罰則は、10年以下の懲役です。

■テレワークで増える不正アクセス、DV

第2位 不正アクセス禁止法違反

外出自粛要請によりテレワークを行っている方も多くなってきています。ただ、万全のセキュリティで仕事をしているかと問われれば、いまいち自信が持てない方もいらっしゃるのではないでしょうか。仕事中、私用のモバイルWi-Fiを使っているときに、何者かにアクセスされてウイルスにかかってしまう恐れもあるでしょう。「先生、パソコンまでコロナウイルスにかかるのですか」という質問は当方ではなく医師またはエンジニアの方にしてくださいね。多分かかりませんが(笑)。いずれにせよ、リモートワーク中のビジネスパーソンは、安全性の高いネットワーク環境で仕事をするべきです。不正アクセス禁止法違反の法定刑は3年以下の懲役または100万円以下の罰金です。

第3位 傷害罪

諸外国では外出禁止でドメスティック・バイオレンス(DV)が増えているという報道がされています。一緒にいたいと思って家族になったのに、一緒にいる時間が増えることでストレスがたまり、暴力的になるというのは悲しい話です。思わず、「そこに愛はあるのかい?」と尋ねたくなります。

とはいえ、ドメスティック・バイオレンスで家族にけがをさせれば、立派な傷害罪です。普段よりも長く時間を共にすると、配偶者の嫌なところも見えてくるかもしれません。また、仕事に出るときは保育園に預けていた子どもを、毎日面倒を見ることになると、普段とは違うストレスを感じる親御さんもいらっしゃるかもしれません。ですが、家族に悲しい思いをさせないように、上手にストレスを解消していきましょう。傷害罪の法定刑は15年以下の懲役または50万円以下の罰金です。

■コロナ陽性者への中傷は名誉棄損に発展

第4位 窃盗

外出自粛要請で、仕事ができず収入が低下して、生活が苦しくなる人もいるでしょう。苦しいあまり、魔が差して、物を盗んでしまうというのは、ありうる話です。また、営業自粛中に無人となった店舗を狙ったとみられる窃盗も増えてきています。店舗を経営している人はくれぐれも注意が必要です。法定刑は10年以下の懲役又は50万円以下の罰金です。

第5位 名誉毀損

外出自粛の話とは別に、コロナウイルスにかかってしまった人に対する名誉棄損(きそん)は増えるかもしれません。特に著名人がコロナウイルスにかかってしまった場合、陽性と認められるまでの行動にやましいことがあるケースでは、批判の度が過ぎて、名誉毀損に発展してしまうこともゼロではありません。ただし立件されるかというと、また別の話にはなりますが。

■外出自粛期間に狙われやすいのはこんな人

実際、これらの犯罪に巻き込まれやすい人は、どんな人なのか。

「外出自粛要請がされているにもかかわらず、それを簡単に無視してしまうような人たちは危ないですね。そもそも、外出をして他人と関わるからこそ、犯罪に巻き込まれる可能性が高まるのです。個人的には、こんな時期にのんきに外出している人は、そもそも規範意識が鈍麻しているとも思います。コロナが流行していても今までと同じような生活をしている人は、『自分だけは大丈夫』などと思いがち。そういう人こそ、犯罪の被害者になりやすのです。

では、ずっと家の中にいれば、犯罪の標的にならないのでしょうか。通信手段の発達した現代において、そうだとは明確に断言できないものの、標的になりづらいのは間違いないでしょう。」

■不況になれば犯罪は増えるのか

今回のコロナ禍の後には大恐慌が待っていると指摘する専門家は少なくない。不況と犯罪には関連性はあるのか。

「犯罪の種類によっては関係があるでしょう。たとえば、殺人や傷害のように他人の生命身体を侵害するような犯罪であれば、不況が犯罪発生率に大きな影響を与えるとは思えません。

一方、窃盗や詐欺などの財産犯については、影響があると考えられます。窃盗については、先ほども述べたように、不況が招く貧困が動機の形成に大きく影響を与えると個人的にみています。詐欺についても、なにか社会的な事変が起きるときには、その事変自体が詐欺師にアイデアを提供する結果となるでしょう。

経済的に苦しくなれば、その経済状況を一発逆転するために、詐欺師の話にだまされやすくなる人もいます。今回は外出自粛という特殊事情が関わっているので犯罪の発生が増加するとはいえないですが、不況という点に焦点を絞れば、増える犯罪もあるので注意が必要です。

外出自粛で間違いなく増えるのは、経済活動が大幅に縮小されるため、特に中小企業の資金繰りは業種によっては非常に厳しくなってきます。国や知事から休業の要請を受けている業種については、労働者に対する賃金未払い、売掛金が回収できないというトラブルが増えることは予測できます」

予期せぬ不安は、よからぬ犯罪を招いてしまうこともある。今後も気を引き締めて生活をしていきたい。

(プレジデント編集部)