「エール」19話 ミュージック ティーチャー御手洗が人気 ミュージカル俳優・古川雄大の存在意義
第4週「君はるか」19回〈4月23日 (木) 放送 演出・松園武大 脚本・吉田照幸〉
手紙だけの女
国際作曲コンクールに入賞した裕一(窪田正孝)の新聞記事を読んだ音(二階堂ふみ)は感動して裕一に熱烈な手紙を書く。だが、裕一からの返事を待てども、なかなか来ない。歌のレッスンに身が入らない音だったが、ついに返事が来た!
たくさん来た手紙のなかで、音の手紙が響き、音の好きな詩に曲をつけたいという返事に音は夢心地。
こんな展開……ある? いや、モデルの古関裕而と妻・金子も手紙がきっかけで結婚したそうだから、事実は小説より奇なりなのかもしれないが、ドラマはかなり誇張しているようである。
もっとも三郎だって、夢のような儲け話に騙されたわけで……。この父子、似ているような気がする。
可哀想なのは、弟・浩二(佐久本宝)である。自分が望んだこととはいえ、次男なのに継いだ喜多一は裕一が権藤家の養子にならないと潰れてしまう。にもかかわらず、留学に行こうとするなんて。「母さんの意見も聞かせてよ」と浩二が聞くと、母・まさ(菊池桃子)は言葉を濁す。どうやら留学させてやりたいと思っているようで、父も母も裕一のことばかり心配しているように描かれているので、浩二の立ち位置がもろく見える。彼が浮かばれるエピソードがあるといいなあと願うばかり。
まさは、裕一が養子になるときも「母さん、なんて言ってるの?」と聞かれる存在。この時代、女はあまり意見を言えなかったのかもしれない。
ミュージック ティーチャー
裕一と音は文通を通して、信頼と尊敬と愛情を育んでいく。家の事情で留学できないかもしれないという悩みまで裕一は音に伝えていた。そんな音の手紙の交流を、“ミュージック ティーチャー”こと御手洗(古川雄大)は「ロマンティック」「ファンタスティック」「ビューティフル」と賞賛する。
最初は、裕一にとって音の手紙は「数の子のなかの一粒」(このときの動作が最高)なんて言っていたが、音の情熱が裕一の心を動かしたと知るや、がぜん応援モードに。
こういうキャラがいると裕一と音の離れた思いがより強烈に伝わってくる。いかんせん、裕一と音が目下、リモート交流のため(タイムリー)、二人の情熱が描き辛い。どんなに二階堂ふみが一人で熱演しても、窪田正孝は内気なナイーブな演技をしているので、二人が出会わない限り、轟々とは燃えないであろう。そこで、ミュージック ティーチャーである。彼がいちいち英語交じりで反応することで、二人の恋が弾んで見えるのである。
ここでミュージカル俳優である古川雄大は大活躍。ミュージカル俳優はキラキラとして、世界をまさに「ロマンティック」「ファンタスティック」「ビューティフル」に増幅する力を持っている。世界を歌や踊りでいっぱいにしてしまう、その立ち振舞だけで「エール」の初回に出てきた、フラッシュモブみたいな華やいだ空気を出せるのがミュージカル俳優である。もちろんそうなるために研鑽を積んだ実力派だからなのであるが。
古川雄大は「ミュージカル テニスの王子様」で人気を獲得し、その後、着々と実力をつけて本格ミュージカル「モーツァルト!」や「エリザベート」で大役をつとめるまでになった。本当なら、この4月から7月にかけて、「エリザベート」のトート役を、「エール」の不思議少年・久志役で登場予定の山崎育三郎と、ミュージカル界のプリンス・井上芳雄とトリプルキャストで出演する予定だったが、新型コロナ感染予防のため上演が中止されてしまった。帝国劇場での山崎育三郎と古川雄大のトート対決、見たかった。本当に残念。
ところで、「エール」で二人が絡む場面はあるんだろうか。「エール」に華やかなミュージカル俳優が参加することで、裕一のモデル・古関裕而の育ったクラシックの音にあふれた優雅で絢爛豪華な世界観を感じさせることに寄与しているのだと思う。
ちなみに、馬具職人・岩城役の吉原光夫も劇団四季を経て、「レ・ミゼラブル」などに主演するミュージカル俳優のひとり。彼が出演予定だった「VIOLET」も公演中止になっていて残念。
「ミュージック ティーチャー」があっという間に定着した御手洗だが、19回では、「ミュージック ティ…」までで主題歌にぶち切られる演出が施されたことでさらに美味しいキャラに。でもこのぶったぎり演出、目新しいものではないとあえて書いておきます(俳優には罪はないです)。
(文/木俣冬、タイトルイラスト/おうか)
(これまでの木俣冬の朝ドラレビューはこちらから)
番組情報
連続テレビ小説「エール」◯NHK総合 月〜土 朝8時〜、再放送 午後0時45分〜
◯BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜、再放送 午後11時〜
◯土曜は一週間の振り返り
原案:林宏司
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和