撮影: 源 賀津己

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大ヒットした映画『愛がなんだ』をはじめ、昨年は出演映画が6作も公開されたいま最も勢いに乗る若手の実力派俳優、成田凌。

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2020年のメモリアルイヤーもその快進撃は続き、現在公開中の『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』を皮切りに注目作が続々待機中!

そんな彼にとって、人気脚本家・遊川和彦が監督した『弥生、三月 -君を愛した30年-』の現場はどんな時間だったのだろう?

直撃インタビューでその特殊な撮影現場の裏側を振り返ってもらいつつ、成田凌の現在と見据えている未来を探ってみた。

『弥生、三月 -君を愛した30年-』は「家政婦のミタ」(11)、「過保護のカホコ」(17)、「同期のサクラ」(19)などの大ヒットドラマで知られる脚本家・遊川和彦の『恋妻家宮本』(17)に続く監督第2作で、自身のオリジナル脚本の映画化に初めて挑んだ激動のラブ・ストーリー。

高校時代に出会った男女の30年にわたる運命の恋を〈3月だけで〉描く少し特殊な構成も話題だが、成田が本作で扮したのは、波瑠が演じたヒロインの弥生と心を通わせながらもすれ違い続ける、天性の明るさを持った山田太郎こと通称サンタ。

果たして成田は、このトリッキーにして純粋なラブ・ストーリーで何を手に入れたのか? その眼差しが見つめているものは何なのか? 短い言葉から、成田凌の素顔がゆっくり立ち上がってきた。

“30年を3月だけで描く話”に面白さを感じた

――成田さんは『弥生、三月 -君を愛した30年-』のどこにいちばん惹かれたんですか?

僕は実はオーディションで山田太郎役に選んでいただいたのですが、本当に脚本が面白かったんです。

前情報なしで読んだんですけど、すごく泣けたし、さすが、遊川さんだな〜って思いました。

と同時に、弥生と太郎の30年を3月だけでどうやって描くんだろう? 自分にできるのかな? ということもやっぱり考えました。

でも、こんなチャンスはなかなかないので、決まったときは純粋に嬉しかったです。

――30年を3月だけで描くことにいちばん面白さを感じたんですね。

その特殊な設定にも興味がありましたけど、それより、普通ならそんなに交わらないだろう清く正しく強い弥生とただただ明るい太郎がなぜか交わって、支え、支えられながら生きていく物語がシンプルだけど、単純に面白かったんです。

しかも、ふたりは高校生のときに、共通の友人のサクラ(杉咲花)という人からおもりを持たされてしまい、その十字架のようなおもりが年を重ねるに連れてどんどん重くなっていく。

それをどうするのか? という清いふたりの綺麗な物語が1年の中でもいちばんいろいろなことがある3月を背景に描かれるんですけど、弥生と太郎がクライマックスで聞くサクラの声が僕はこの作品のいちばんの魅力だと思いましたね。

――遊川監督がインタビューで「成田さんがやる気満々だったので嬉しかった」みたいなことを言われてました。

オーディションには、もちろんやる気満々で行きましたよ(笑)。

逆にオーディションのときは、監督も話し方やテンションがいまと少し違いましたね(笑)。

――遊川監督にも「俺は妥協しないから、覚悟しろよ」って言われたんですよね。

そうです、そうです(笑)。でも、撮影が実際に始まってからは、監督といろいろな話をしながら一緒に作っていけたので、面白い経験でしたね。

――遊川監督は現場ではどんな方なんですか?

すごく気を遣う方ですね。

――監督に言われたことで、印象に残っていることは?

「元気で、いわゆる王道のラブストーリーのドラマに出てくるとしたら、三番手みたいな明るい感じで」って言われました。

――それ以外は?

必死だったということもあり、あまり覚えてないですね。

ただ、遊川さんはご自身で脚本も書かれているので、そこの面白さはありました。

脚本ってたぶんそのシーンの画がまず浮かんで、それを文字にするから、脚本を自分で書かない台本から画を想像する監督とは考え方が逆なのかなと思うんですよ。

しかも、脚本と監督の両方やるわけですから見据えている確かなビジョンが遊川さんの頭の中にはあるんですけど、それを現場でいろいろ試しながら崩していくんです。

そのときに面白くできなかったらこっちのせいになっちゃうので、監督の想いもありながら、僕も色々と提示しながら何回も何回も同じシーンのテイクを重ねていくんです。

でも、遊川さんが求める演出が日々アップデートされるので、それに答えるのに必死でした。

立っているだけで何かが伝わるのが理想

――でも、最初に言われたように、3月だけで30年を描くというのは難易度が高かったと思うんですけど、どんな風に表現されたんですか?

撮影に入る前に監督と「特殊メイクとかするんですかね?」「どうするかな〜」という話をしたときに、「でも、韓国映画の『ペパーミント・キャンディー』(99)は1人の男の20年を描いていたけれど、全然変わってなかったですよね」という話題になって。

――成田さんからその話をしたんですか?

僕からしました。そしたら、監督も「そうだよね」という反応で、「しわを足したり、白髪ぐらいですよね」という意思の疎通がとれたんです。それに、40歳も50歳も若いですからね。

だから、年をとろうと思わないことが肝なのかな〜、こういう経験をしたからこうなるという考え方でいいんじゃないかなという結論に至ったんです。

――その年齢その年齢の出来事を経験して変化していくという感じですか?

意識して40代はこのぐらい腰を曲げて、50代ではさらに曲げてっていうことではなく、その年齢ごとの弥生と対面したら、こうなるよねっていうことです。やっぱり、立っているだけで何かが伝わるのが理想なので、あまり余計なことはしないってことですね。

――そういう意味では弥生を演じた波瑠さんに助けられたところもあるんじゃないですか? 波瑠さんは弥生に似た人のような気もしますし。

そうですよね。弥生に似ていると僕も思いました。撮影の合間も弥生としてしか見てなかったですから。でも、それで自然にできたのはよかったと思います。自然にできるってスゴいことなので。

「ほかに誰か弥生に似てる人はいる?」って聞かれても、ちょっと想像できないですね。

――『弥生、三月 -君を愛した30年-』という作品そのものに対しては、ご覧になってどんな感想を持たれました?

ドラマチックだな〜と思います、本当に。ラブ・ストーリーは基本的にすれ違いですもんね。そこにはツッコミどころがいっぱいあるし、傍から見たら簡単なのにな〜と思うどこにでも転がっているエピソードの連続で。

実際、これも大きな話ではないけれど、弥生と太郎にとってはすごい激動の人生なんですよね。ただ、特にこの作品は自分では客観的に観られないんですよね。

なかなか難しかったし、大丈夫かな〜? と思いながらやっていたので、逆に観た人の感想を聞くのが楽しみです。

待機作続々。いまはすごく充実している?

――それにしても、去年から今年にかけて成田さんの出演作が次々に公開されて、待機作も何本か控えてますね。

“弥生”の後、『糸』(4月24日公開)、『街の上で』(5月1日公開)、『窮鼠はチーズの夢を見る』(6月5日公開)『まともじゃないのは君も一緒』(11月公開)がありますね。

――『街の上で』は成田さんの主演作『愛がなんだ』に続く今泉力哉監督の作品ですけど、まさかあんなに出演シーンが多いとは思わなかったです。

そうですよね。僕はまだ観れてないんですけど、自分でもまさかあんなに出るとは思っていなかった(笑)。

――でも、実際に俳優を仕事をしている成田さんが“あの役”で出ているのがいいですよね。

そうそう、面白いですよね。

――ふたりの男性の揺れ動く恋を描く『窮鼠はチーズの夢を見る』に出演されたのはちょっとした驚きでしたけど、不安や戸惑いはなかったですか?

ないですね。素直にやりたいなと思いました。この仕事をしていたら、行定勲監督に誘ってもらえるのはやっぱり嬉しいことですから、「どっちの役でもいいから、やりたいです」って言いました。

――作品ごとに違うキャラや顔をしているけれど、どの成田さんもイキイキしていて、芝居を楽しそうにやっているなという印象を受けます。

楽しいです。

――いまはすごく充実しているんじゃないですか?

そうですね。でも、新しい作品に入る度に自分の足りない部分が実感できるし、面白い人たちと一緒になると面白いことが起きるなと思うので、これからはより丁寧に作品を選んでやっていきたくて。

最近まで放送していたドラマ「アリバイ崩し承ります」の現場もすごく楽しかったし、安田顕さん、勝村政信さんが本当に面白かったから、学ぶことばかりでした。あの現場で学んだことをどこかで披露したいと思っているんです(笑)。

――成田さんと仕事をしたいと思っている監督も多いでしょうから、そのチャンスはすぐに来るんじゃないですか?

たくさんの作品に出させてもらったので、僕のことを知ってくれている監督さんも増えました。

でも、僕自身はここからだと思っていて。いまはいろいろチャレンジさせてもらっていますけれど、ここからどうやっていくのか? がとても大事だと思っています。

――今年のヨコハマ映画祭の授賞式で、助演男優賞を受賞された成田さんが「大好きな“映画の世界にいてもいい”と言われたような気がする」とスピーチされたのも印象的でした。

デビューして何作目かのドラマの現場でセリフをぶつぶつ練習していたら、ひとりのスタッフさんから「うるせ〜な〜!」って怒鳴られたことがあって。

「このモデル上がりが!」って言われたこともあるんですけど、そのときに思った、その言い方はどんなんだろう? という気持ちを一生忘れないようにやっているので、自分のやっていることが認められると安心するんですよね。

今年、『愛がなんだ』『さよならくちびる』(19)、『カツベン!』(19)などで7個の賞をいただいたんですけど、受賞したときの正直な気持ちは“嬉しい”ではなく、“ありがとうございます”位のニュアンスで。

自分だけの賞ではない気がするし、作品ありきと言うか、僕が演じた人物はそれぞれの映画に作ってもらったものなので、そういう不思議な感覚に自然になりました。

演じたいだけでなく、いつかは映画を撮りたい

――『弥生、三月 -君を愛した30年-』の現場でも、遊川監督から「成田さんは役者として演じたいだけではなく、映画に関わりたい、映画を作りたいという気持ちで現場に臨まれているんじゃないですか?」って聞かれたみたいですね。

そう言われたんです。撮影中に何人かの監督からそう言われたことがあるんですけど、それはすごく嬉しい言葉ですね。

自分がどう演じるのか? より、自分がどうしたら作品が面白くなるのか? をやっぱり最優先に考えたいと思っているので、そう言ってもらえるのは嬉しいです。

――で、自分でも映画を撮ってみたいんですよね?

いつかは撮りたいという気持ちはあります。そのためには自分もある程度力をつけないといけないないし、力がついてきたら周りの人に「映画が撮りたい」って言えると思うので、人に話せるようになったら撮ってみたいです(笑)。

何も考えずに観られる映画が好き

――先ほども『ペパーミント・キャンディー』の話が出ましたけど、映画はけっこうご覧になるんですか?

いや〜全然ですよ。日々観てはいるんですけど、同じような作品を観ちゃうんですよね。

――どんなジャンルが好きなんですか?

何も考えずに観られる映画が好きです。『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』(09)が大好きなんですけど、ああいうのがいい。俳優ではジム・キャリーが好きですね。

――何となく分かります(笑)。

でも、しっかりした作品も好きですよ。いまも、ポン・ジュノ監督の作品をいろいろ観たいな〜と思っているところです。

――『パラサイト 半地下の家族』(19)は当然ご覧になりましたよね?

観ました、観ました。あと最近、昔の映画が映画館でやっていたりするのがちょっといいなと思っていて。

小津安二郎監督の特集を渋谷のユーロスペースでやっているときも観に行ったんですけど、めちゃくちゃ面白かったですね。

――どの作品がいちばん面白かったですか?

『麦秋』(51)です。面白いし、スゴい。撮影も芝居もあそこまでスタイルが確立していると、誰も真似ができない。僕も最近、スタイルが欲しいなって、ちょっと思っているんですよ。

「いろんな役をやられますよね」ってよく言われますけど、そこに一貫した自分のスタイルが欲しくて。それは必要なものなんじゃないかなと考えているんです。

――いまのお話を聞いていても、成田さんが映画や芝居に夢中になっていることが伝わってきますが、以前お話を聞いたときは「この世界に入ったのは友だちが応募してくれたから」って言われてませんでした?

それは若干違います(笑)。オーディションの書類を書いてくれたり、教室にバーンって入ってきたと思ったら「早く行くぞ!」と言って閉まる直絶の郵便局にその書類を一緒に投函しに行ってくれたり、いろんなきっかけを作ってくれる友だちがいて。高校も一緒で、専門学校もその友人と一緒に入ったという人任せの人生だったんです。

――では、自分の中にもともとこういう世界で仕事をしたいという思いはあったんですね。

やっぱり、あったんですかね。テレビっ子だったし、映画も好きで、人前に出るのも好きだから、目立ちたがり屋なんだと思います(笑)。

言葉は少ないものの、独自のワードを時折挟みながら、悪戯っ子のような笑みを浮かべる成田凌。

その人懐っこい愛すべきキャラと多彩な役を違う顔で演じ分けられる振り幅の広さが多くの映画監督が彼を起用したくなる理由だろうが、インタビューからも分かるように、素顔の成田は真面目で謙虚で、浮足立ったところがまるでない。

静かな闘志も感じられたし、映画の現場や芝居をしている時間が大好きだということが、これまで以上にビシビシ伝わってきた。

『弥生、三月 -君を愛した30年-』では、そんな彼のスキルと経験が最大限に活かされている。よ〜く観ていれば、映画の感動とともに、成田凌が波瑠ととんでもないことにチャレンジしていることが分かるはずだ。