ヨーロッパ時間の1月31日は、サッカー界にとってひとつの区切りである。冬の移籍マーケットの締め切りのタイミングだ。

 日本サッカー界には驚きがもたらされた。サウサンプトンの吉田麻也が、イタリア・セリエAのサンプドリアへレンタル移籍することが発表されたのである。

 ロンドン五輪後の12−13シーズンに加入したサウサンプトンで、吉田は激しい定位置争いをくぐり抜けてきた。バックアップの立場からスタートしたシーズンも、最終的には首脳陣の信頼をつかみ取ってきた。

 今シーズンもここまでリーグ戦8試合に出場しているが、先発は昨年10月までさかのぼらなければならない。ケガ人が出たりすれば序列を変えられるかもしれないが、プレミアリーグで8シーズン目を迎えた経験者である。何ができるのかは内外に示してきた。引き続き競争を続けていくのは美しく勇敢だが、より多くの出場機会を得られるクラブを探してもいい立場である。

 シーズン途中の移籍は簡単でない。リーグが変われば適応のハードルはさらに上がる。他方、冬の移籍市場でクラブが求めるのは即戦力だ。降格ゾーンのすぐ近くにいるサンプドリアでは、効き目のある薬のような活躍が期待されている。

 31歳はDF登録では最年長で、チーム内でも37歳のFWファビオ・クアリャレッラ、35歳のエドガル・バレートに次ぐ。日本のように「年上の選手=リーダー」といった画一的な考え方ではないものの、オランダとイングランドでキャリアを重ね、日本代表として2度のW杯に出場し、現在はキャプテンを務める吉田の経歴は、期待を抱かせるものである。

 プレミアリーグとはまた違うサッカー文化へ飛び込むことは、円熟期に差し掛かっているキャリアに磨きをかける。簡単ではないが、刺激的であることは間違いないだろう。

 今冬の移籍が実現しなかった日本人選手もいる。ガラタサライの長友佑都だ。

 現地の報道をもとにした記事を追いかけると、外国人枠の問題で登録メンバーから漏れてしまう、とある。つまりは今シーズンの公式戦には出場できない、ということだ。冬の移籍が模索されていたことを考えれば、ガラタサライで構想外のような扱いになってしまうのはしかたがない。

 3月からはカタールW杯アジア2次予選が再開する。空白期間を作らない善後策としてJリーグ復帰が噂されているが、日本代表のためだけに所属先を慌てて決める必然性は、実はそれほど大きくない。

 2次予選で対戦するミャンマーやモンゴルは、長友を欠くことになっても勝てる相手、勝たなければいけない相手だ。ヨーロッパの市場に止まり、シーズン終了後に改めて移籍先を探してもいい。

 もっとも、今年9月で34歳になる彼への需要が、国際的にどこまであるのかは不確かだ。需要がないというわけではなく、長友自身が納得できるオファーが届くのか、ということである。左サイドバックは、世界的にも需要のあるポジションだが……。

 かつてインテル・ミラノでもそうしたように、試合に出場できなくてもハードなトレーニングを重ねることで、フィジカルのレベルを保つことは可能だろう。問題はゲーム感覚である。実戦から離れてしまうデメリットは、長友でも避けられない。日本代表から一時的に離れる間に、左サイドバックに新たな人材が登場する可能性もゼロではない。

 そうやって考えると、Jリーグ復帰が選択肢に加わってくる。

 経験と実績を積んできた彼なら、国内でプレーしながらレベルを維持向上することもできるはずだ。新しい環境を求めるという意味では、Jリーグだって刺激になるはずである。

 いずれにしても、彼が下す決断は尊重されるべきだ。クラブレベルで示してきた貢献はイタリアでもトルコでも評価され、もちろん日本でも称賛に値する。他でもない自分自身が引き続き意欲的にキャリアを過ごすことが、日本サッカーの活力となっていくのだろう。