最新テクノロジーを採用していないiPhoneがなぜ強いのか(佐野正弘)
日本ではアップルのiPhoneの人気が非常に高いだけあって、毎年新iPhoneの登場は大きな注目を集めています。そして今年も新しいiPhoneとして、「iPhone 11」「iPhone 11 Pro」「iPhone Pro Max」の3モデルが発表されたことが、大きな話題となっているようです。

既に多くの報道があることからご存知の人も多いかと思いますが、簡単にその内容を振り返っておきましょう。iPhone 11は6.1インチの液晶ディスプレイに広角・超広角のデュアルカメラ、そして新しいチップセット「A13 Bionic」を搭載し、なおかつ6色のカラーを取り入れた「iPhone XR」の後継というべきモデルです。

▲6色カラーが特徴の「iPhone 11」。デュアルカメラと強化されたチップセット「A13 Bionic」が搭載されている

一方のiPhone 11 Pro/Pro Maxは、それぞれ5.8インチ、6.5インチの有機ELディスプレイとA13 Bionicを搭載。さらにカメラに広角、超広角、そして望遠のトリプルカメラ構造を採用し、切り替えて幅広いシーンの撮影に対応できることが大きな特徴となっている、「iPhone XS/XS Max」の後継機といえます。

▲「iPhone 11 Pro/Pro Max」は、iPhoneで初めてトリプルカメラ構造を採用するなど、カメラの強化が注目される機種でもある

トリプルカメラを搭載したiPhoneは両機種が初となるだけに、カメラ機能を中心として注目を集めているようです。ですが一方で、トリプルカメラ構造は2019年にサムスン電子が「Galaxy S10」シリーズで、ソニーモバイルコミュニケーションズが「Xperia 1」で既に採用しているものでもあり、iPhone以外に目を移せば既に珍しいものではなくなっています。

さらに言えば、ファーウェイ・テクノロジーズは2018年の「HUAWEI P20 Pro」で既にトリプルカメラ構造を採用済みで、なおかつ3つのカメラを連動して画質が落ちないズーム撮影ができる「ハイブリッドズーム」を実現。オッポも「Reno 10x Zoom」で同様の機構を採用し、超広角カメラを基準にすれば10倍のハイブリッドズームを実現するなど、トリプルカメラの使い方という面では中国メーカーが一歩先を行っている印象です。


▲ファーウェイ・テクノロジーズは「HUAWEI P20 Pro」で既にトリプルカメラ構造を採用しており、画質を落とさずズームができるハイブリッドズームも実現している

またA13 Bionicの特徴の1つとなっている、機械学習を高速に処理できるということも、クアルコムやファーウェイ傘下のハイシリコン・テクノロジーがしっかりキャッチアップしていることから、iPhoneだけのメリットとは言えなくなりつつあります。さらに言えば、大手スマートフォンメーカーの多くは既に5G対応のスマートフォンを提供していますが、(さまざまな経緯もあり)5G対応のiPhoneはまだ登場しておらず、技術トレンドという意味では遅れを取っている部分があるように見えます。


▲「IFA 2019」のサムスン電子プレスカンファレンスより。同社は5G対応スマートフォンを4機種揃えるなど、いち早く5G対応機種を提供していることをアピールしている

iPhoneは現在のスマートフォンの形を作り上げた存在でもあることから、スマートフォンのトレンドリーダーとして常に大きな注目を集め、他のスマートフォンメーカーにも大きな影響を与えてきました。ですが技術トレンドという側面で見ると、トリプルカメラに代表されるように他のメーカーが先行し、iPhoneが後からそれをフォローするというケースが多いようにも感じます。

しかしだからといって、もちろんiPhoneの人気がないという訳ではありません。確かに最近はiPhoneの販売が伸び悩んでいますが、それでもよくよく考えてみれば、必ずしも他社より進んだテクノロジーを備えている訳ではなく、新機種が軒並み高額の値付けであるにもかかわらず、これだけ世界的に支持を得ているというのはかなり驚異的なことです。

ではなぜ、技術面で他社に先行を許しながらも、iPhoneが高い人気を博し続けているのでしょうか。それはやはり技術とインターフェイスのバランスが良く、使い勝手を重視しているが故といえるでしょう。最近であれば折り曲げられるディスプレイを採用したスマートフォンなどがそうであるように、先端のテクノロジーを採用したスマートフォンは確かに"凄さ"を感じさせますが、一方で粗削りな部分も多く、実装の仕方によっては逆に使い勝手を損ねてしまうケースも少なからずあります。


▲ディスプレイを折り畳める「Galaxy Fold」は先端技術で注目されているが、一方で構造上の問題から販売が延期となったほか、コンテンツの利活用という面ではまだ課題もある

ですがiPhoneは元々、必ずしも先端を追わずにユーザーの使い勝手に配慮しながら機能を追加していくのが上手く、機能と使い勝手のバランスの良さが支持を集める要因となっていました。実際、日本では未発売の初代iPhoneは2Gのネットワークにしか対応していませんでしたし、カメラは200万画素と、当時の国産フィーチャーフォン(ガラケー)より低い性能でした。にもかかわらず、全面タッチのディスプレイと使い勝手の良いインターフェースによってそうした性能差を感じさせることなく、大きな支持を得たのです。

▲筆者所有の「iPhone 3G」。初代「iPhone」と同様カメラは200万画素で、まだフロントカメラも備わっていないなど、カメラ性能は決して高い訳ではなかったものの、大きな支持を得ている

その使い勝手とバランスの良さを支えているのが「iOS」の存在です。チップセットだけでなくOSも独自で用意し、機能とインターフェースの融合を細かなレベルまで調整するというのは、汎用のAndroidを使っている他のスマートフォンメーカーには難しいもの。それだけに、ハードとOSを一体で開発し、ユーザビリティを高めていることこそが、ある意味でiPhoneの最大の強みといえる訳です。

それに加えてApp Storeによるアプリなどのエコシステムをしっかり構築し、ハードだけでなくプラットフォームとしても大きな存在感を示していることも、iPhone、ひいてはアップルの強みといえるでしょう。他のAndroidスマートフォンメーカーにはない二重、三重の強みを持っているからこそ、iPhoneは必ずしも最新のテクノロジーにこだわる必要はないといえる訳です。

裏を返せば、プラットフォームをAndroidに依存している他社がiPhoneと差異化して特徴を打ち出すには、ハイエンドモデルでは特に最新テクノロジーを積極的に取り入れる以外に手段がない、という見方もできるでしょう。サムスンやファーウェイなどが最新テクノロジーの採用にこだわるのは、強いプラットフォームを持たないハードウェアメーカー故の弱さがあるからこそ、ともいえそうです。