努力できない人は、なぜそうなのか。現役東大生の西岡壱誠さんは、「先天的に脳が努力に向かないタイプである可能性がある。ただ、そういう人は集中力が高い傾向があり、東大生の半数もそのタイプと考えられる」という--。
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■東大生の中にも、努力できない脳の持ち主がいる

みなさん、「努力できる」か「努力できない」かというのは、実は先天的に、脳の機能によって決められている可能性があるという話をご存じでしょうか?

実は、「努力できない脳」というのが存在する可能性があることが、脳科学の研究によって明らかになっているのです。

アメリカのテネシー州のヴァンダービルト大学の研究チームが、こんな実験を行って、努力できる脳とできない脳の違いを調べました。

「被験者に、21秒間で100回、ボタンを小指で押してもらう。その際、このタスクをやり遂げたものには1ドルの報酬を与えることを告げ、クリアできるかどうかを試す」

この実験を、被験者の脳波を調べながら実施しました。21秒間で100回というのは、やってみればわかるのですが結構苦痛を伴うものです。だからこそ、最後まで作業をやり切る人とそうでない人とに分かれる結果になりました。

そして、最後まで作業ができなかった人は、脳のとある部分が活性化していることがわかったのです。

■努力できる脳とできない脳の違い

それは、島皮質と呼ばれる、損得勘定を計算する働きをする部分です。つまり実験で作業を最後までやりきれなかった人たちは、「努力したってなんの意味があるんだ?」「こんなのやったってなんの意味もない」と、脳が損得勘定をして努力を無駄だと判断していたということです。

この他に、作業を最後までやり切ることのできない人たちは「左線条体」と「前頭前皮質腹内側部」と呼ばれる部分が働きにくくなっていることも明らかになっています。この部位は、報酬を得た時に快楽を得る「報酬系」と呼ばれる脳の一部で、何か報酬があった時に「やったー!」と喜ぶ部分です。この部分が活発化すると「頑張ろう!」と努力する原動力となってくれるわけですが、そこがうまく働いていないからこそ、最後までタスクをやり切ることができなかったというわけです。

このような、島皮質の働きが活発な人や、左線条体と前頭前皮質腹内側部の働きが活発でない人は、努力を続けるのが難しい脳だと判断できる……。これが、努力できる脳と努力できない脳の違いだと言えるわけです。

■努力できない人は「努力しない努力」をしている

さて、この実験の話を聞いて、「頑張れる人と頑張れない人は生まれつき分かれるんだ!」「じゃあ、努力できない脳の持ち主はどう頑張ったって成功しないってことなんだな」と考えるのは間違いです。

実は、上記の実験や個別のヒアリングでわかったことは、東大生の中にも半分程度、「努力できない脳」の持ち主がいる可能性があるということです。

例えば東大工学部に通っている友達は、「自分は努力が長続きしないタイプだ」と語っていました。「長時間勉強したり、無駄な努力をしたりするのは自分は大嫌いだ。受験勉強も、いかに効率的にやるかを追求して合格した」と。

当然、彼は先ほどの実験も最後まで作業を続けませんでした。この他にも、先ほどの実験で作業を最後まで継続しない東大生というのも多く、言ってしまえば「努力できない脳の東大生」というのも一定数存在していたわけです。一体なぜ彼ら彼女らは、それでも結果を出すことができるのでしょうか?

それは、彼ら彼女らが「努力しない努力」をすることに対して非常に強い集中力を発揮できるからだと考えられます。

一般的に、集中力が続く人というのは「努力できる人」だというイメージがありますよね。努力家の方が優秀で集中力がある人、逆に「努力できない人」は結果も出せず、集中に向いていない……と思われがちです。

■「努力できない人」は集中力がある?

しかし実は、「努力できない」人の方が集中力がある可能性があるのです。「努力できない」というのは、「無駄なことをせずに効率的に行動できる」という能力があるということも示しています。努力できない人の方が、無駄な努力をせず、必要最低限の努力量で目的を達成することができるかもしれないのです。

例えば東大生の中には、無駄な勉強はしないと決めて、必要最低限の勉強時間で合格した学生も実は結構います。

驚くべきことに、とある東大生は、1日1時間の勉強しかしないで東大に合格したと僕に語ってくれました。勉強時間を1日1時間と決めて、その1時間の効率をいかに上げるかを考え続けることによって結果を出すのだそうです。

「努力できない脳」の持ち主は、努力をするのが嫌いだからこそ、このようにして「最低限の努力量で、最大の結果をつかむ」ということのために非常に優れた才能を発揮します。努力すると決めた1時間は誰にも負けないくらい集中することができ、それは「努力できる脳の持ち主」や「努力家」の1時間を軽く凌駕し得るのです。

■自分の脳タイプに合わせた頑張り方を

オススメなのは、自分がどちらの脳の持ち主なのかをしっかりと自覚することです。

効率的に努力する方が合っているのか、しっかりと努力する方が合っているのか。

どちらのタイプなのかをしっかり認識できるようになれば、自分に合った頑張りをすることができます。逆に、自分がどちらなのかを理解していないと、努力するのが難しいタイプなのに無理をして努力をしようとしたり、逆に効率的にやるのは性に合っていないのに効率的にやろうとしたり、自分に合っていないチグハグな行動をしてしまうかもしれません。

もちろん、「努力できる脳」か「努力できない脳」かなんてはっきりと分けられるものではないかもしれません。しかしそれでも、どちらかというとどちらなのかをしっかり認識し、自分なりの努力の仕方を見つけられるようになれば、きっと結果を出すことができます。

そして大切なのは、「努力できない脳だからといって、自分のことをダメ人間だと思わないこと」です。長時間集中することができないタイプだったとしても、1時間集中することで結果を出そうと考えればいいのです。

■「努力したくない」から人類は進歩した

何度も言いますが、東大生だって半分は努力できない脳です。また、恐らくは努力が難しいタイプの脳の持ち主だったのではないかと思えるような偉人だって数多く存在しています。

西岡 壱誠『東大集中力〜やりたくないことを最速で終わらせる』(大和書房)

例えば歴史を振り返ってみると、多くの発明品というのは「より楽をしたいから」「無駄な努力をしたくないから」という理由で作られた物が多いです。火をおこすのが面倒だから白熱電球やコンロができて、郵便が面倒だから電話やメールができて、運転が面倒だから自動運転の技術が進む。努力したくないからという理由で人類は進歩してきたと言っても過言ではないでしょう。

無駄を省き、効率的に結果を出そうとすることに心血を注ぐのも人間として必要なこと。恥じる必要はありませんし、むしろだからこそできることがあるのだと思います。

いかがでしょうか? 努力できるかできないか、きちんと自分がどういうタイプなのかを自覚すれば、より良い結果を出すことができるようになるはずです。みなさんぜひ頑張ってみてください!

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西岡 壱誠(にしおか・いっせい)
東京大学4年生
1996年生まれ。2浪から「暗記術」「読書術」「作文術」を開発し、東京大学経済学部に合格を果たす。全国4つの高校で「リアルドラゴン桜プロジェクト」を実施し、高校生に勉強法を教えている。近著に『現役東大生の世界一おもしろい教養講座』(実務教育出版)など。
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(東京大学4年生 西岡 壱誠)