羽生結弦氏今季初戦は「ミスはガッツリ引かれる」という傾向を学び、完璧を目指す気持ちを一層高めるいい経験となった件。

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「なるほどーーー」という初戦!

羽生結弦氏が出場するフィギュアスケートオータムクラシック、男子シングルの戦いが終わりました。昨季から持ち越したプログラム「Origin」を披露した羽生氏は180.67点とスコアは低調であったものの試合としては勝利をつかみ、まずは今季初戦を無難に滑り出しました。

リンクに登場した羽生氏は黒から紫にカラーリングを変更した新衣装で登場。表面には薔薇の花があしらわれていたり、全体的に透け感を高めてきたりと、衣装の面でも進化を見せてきています。持越しプログラムならではのアップデート。1年をかけて煮詰める過程で「やっぱり、こうしよう」と見えてくる部分もあったのでしょう。「薔薇の精」になりきることで、もともと意識しているところであるエフゲニー・プルシェンコさんの「ニジンスキーに捧ぐ」を、より演目のなかに取り入れているのかもしれません。さらにOrigin感を増してきました。

↓「めちゃめちゃ加工が上手いインスタグラマーかな?」と思ってしまう肌の透明感!

薔薇の精×雪肌精!

今なら信じられる、昔の錦絵の美人画とかに出てくる「そんなやつおれへんわ」レベルの美男美女が、きっといたんだろうなということを!



滑り出した羽生氏、冒頭の4回転ループ・4回転サルコウはいずれもステップアウトしますがこらえてのスタート。滑りこまれたプログラムだけあって、ひとつのひとつの動きが明確で、振り付けの意味もより鮮やかになっています。楽曲のバイオリンに合わせて弓を「弾く」動きも大きく明瞭になりました。

世界選手権ではループとした中盤の3回転はルッツへと戻し、足首の状態も含めてより本来意図した演技へ近づけているのかなという感触も。後半の4回転が連続する場面は単独の4回転トゥループ、4回転トゥループからトリプルサルコウにつなぐ3連続とキレイに決めますが、こちらは回転不足があったとのこと。

そして、昨季組み込んでいた「4T+3A+SEQ」のジャンプを今回は止めたことで、終盤にはトリプルアクセルのコンビネーションが2本つづく形に。ここでもセカンドのトリプルトゥループに回転不足が指摘されるなど、この日はジャンプが鬼門となる格好に。

それでも最後までしっかりと滑り切り、初戦としては悪くない出来栄え。昨季は怪我などもあり、途中からは滑ることそのものが困難であったプログラムが、世界選手権で仕上がったところをスタートラインとして、さらに先へと向かっていることをうかがわせます。

やや疲れ、やや安堵といった穏やかな表情で滑り終えた羽生氏。今大会はプレゼントの投げ込み禁止ということでしたが、いくつか投げ込まれてしまったプレゼントを自ら拾い、お客さんの興奮を鎮めるようにして引き上げていきます。得点は伸びないものの、一応優勝ということでもありますので、まずはひと安心というところです。

↓プーさんに囲まれてのキス&クライでは渋い得点に「ん?」という表情も!


おっ、おなじみのプーさんが大集合だ!

左からじゃんぷこーちのプーさん、くまのプーさん、こーちのプーさんです!

くまのプーさんのほうが顔がデカくて遠近感が狂う!




表示されたスコアは180.67点と世界選手権からは26点ほど下のもの。もちろんステップアウトや回転不足がありますので技術点は伸びないのが当然ですが、演技構成点…PCSの部分でも100点満点中の89.70点とかなり低めのスコアが出ました。世界選手権比較では6点ほど下がる形で、羽生氏としてはかなり低いもの。この大会の演技者のなかでも「1位」ではありませんでした。

ひとりふたりのジャッジではなく全員がおしなべて低いという状態は、何らかの改善点があるという示唆です。考えられるとすれば、今季のルール改定のなかで「プログラムコンポーネンツとGOEに関する諸注意」として改定された部分でしょうか。

IV.プログラム・コンポーネンツとGOEに関する追加の諸注意

プログラム・コンポーネンツ
転倒が1回あるいは重大なエラーが1つあった場合,下記を最高点とする.
スケーティング技術,トランジション,構成:最高9.75.
パフォーマンスおよび音楽の解釈:最高9.50.

転倒が複数回あるいは重大なエラーが複数あった場合,下記を最高点とする.
スケーティング技術,トランジション,構成:最高9.25.
パフォーマンスおよび音楽の解釈:最高8.75.

重大なエラーとは,プログラムが中断されるものや技術的なミスで,構成および/または構成と音楽の関係の健全性/連続性/流れるような美しさに影響を与えるものを言う.

この制限は,稚拙なスケーターから卓越したスケーターまで,あらゆるレベルのスケーターに適用する.

※リンク先にある「comm2254j S&P Levels of Difficulty and Guidelines for markingGOE 2019-20.pdf」を参照
https://www.fsk-results.com/s/mHXR5eerwqCajAq?path=%2F01%20ISU%E3%82%B3%E3%83%9F%E3%83%A5%E3%83%8B%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%2F01%20%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%9A%E3%82%A2#pdfviewer

冒頭の2連続ステップアウトが「複数回の重大なエラー」に該当するのだとすれば、今回の演技におけるPCSの各項目…スケーティング技術とトランジションそして構成では最高点を9.25とすることと、パフォーマンスおよび音楽の解釈の最高点を8.75とすることについては記載通りなのかなとも思います。(※ジャッジによって割れている模様ではあるが…)

「渋いな」とは思いつつも、ステップアウトふたつ、回転不足の指摘が3つある演技で満点付近が出るようであれば、それはそれで違うなとも思います。この演技がということではなく、大きな傾向としては低調な演技に低調なスコアをつけることは、まったくもって正しいのです。

とは言え、ステップアウトが「音楽の解釈」や「構成」の上限を大きく下げるほどの重大なエラーなのかなと言う点と、それの有無によってジャンプ合戦とは違う尺度を持つべきPCSがより「ジャンプ次第」という状態になる点については、演技の多様性を損なう運用のようにも思われます。

昨季までも同様の記載はありましたが、その際は重大なエラーに対する「これ以上つけたらアカン」の上限がより高かった(※複数の転倒または重大なエラーがあっても、PCSの各項目の上限は9.50および9.00だった)ことで、この規定を意識しないといけないほどの運用ではありませんでしたし、この規定によってPCSが本来評価すべき部分での巧拙を逆転するようなことは見受けられませんでした。この先の競技会で、ちょっと波乱を生みそうな項目ですね。

どういった傾向での採点となるのかも見極めながらの戦いとなりそうな今季。もう少しほかの大会での傾向も見ながらにはなるでしょうが、まずはステップアウトも含めて「ミスらしいミスを複数回しない」という気持ちでいく必要がありそうです。目指すは「完璧」であることに何の変化もありません。「完璧」ならばどんな規定も関係ない。その意気込み。「圧倒的に勝ちたい」の心があれば何の問題もありません!




重大なエラーって「演技中に靴紐が切れる」とかじゃないんですね!