日本国民を驚かせた衆議院議員・小泉進次郎さんとフリーアナウンサーの滝川クリステルさんの結婚会見。コラムニストの辛酸なめ子さんは「滝川さんはキャスター時代『斜め45度』で知られ、東京五輪招致では『おもてなし』で有名に。そして今回の結婚発表では首相夫人(ファーストレディー)を窺(うかが)う雰囲気がありました」という--。
イラスト=辛酸なめ子

■進次郎&滝クリのデキ婚がバッシングされなかったワケ

その速報は、ご先祖さまをお迎えするお盆直前の日本列島を駆け抜けました。8月7日に突如開かれた、自民党の衆議院議員・小泉進次郎さんとフリーアナウンサーの滝川クリステルさんの結婚・妊娠報告会見。首相官邸という権力の中枢での結婚発表は、そのまま伝説になって後世に語り継がれそうです。

知名度抜群のおふたり。お互い仕事も充実していて、それぞれ恋愛経験も豊富そうです。最終的に選んだのが最高スペックの相手という、非の打ちどころがないカップリングといえるでしょう。デートもほとんどしなかったそうで、家にこもって一体何を……なんて下世話な妄想も封じるような神聖な雰囲気さえ漂っていました。

通常、デキ婚だと少なからずバッシングがあるのが普通ですが、そうした動きはほとんどありませんでした。それは知性あふれる滝川クリステルさんだから、「きっと深い意味(政治家の妻としての跡継ぎへの責任感など)があるのだ」と好意的に見られたのでしょうか。

■あざとい「劇場型結婚」が「おもてなし婚」へと評価が変わった

そうした滝川クリステルさん効果もあったのでしょう。プライベートな会見・発表をわざわざ首相官邸で開いて生中継されたことや、誰よりも先に安倍首相と菅官房長官に報告しオヤジ転がしぶりを発揮したことに関して、一部ネット上には、小泉進次郎さんによる「劇場型結婚のあざとい戦略だ」と評する声もありました。

しかし、お相手が滝川クリステルさんということもあり穏便な形でスルーされたように見えます。批判より、むしろ、かつてオリンピック招致のプレゼンテーションの時に彼女が発した有名なフレーズから「おもてなし婚」と名付けられ、世間に祝福されています。

■「斜め45度」「おもてなし」の次のセールスポイントとは

その滝川クリステルさん、もともとはフジテレビ系列の「ニュースJAPAN」のキャスターを務め、斜め45度からのカメラアングルで世のおじさまたちの心をつかんでいました。

今回の会見では、その「斜め45度」や「おもてなし」に加え、新たなセールスポイントをさりげなく披露していました。首相官邸での記者会見、さらに小泉進次郎さんの地元横須賀の実家前での記者会見とも、滝川クリステルさんが福島県から引き取った保護犬の「アリス」と一緒でした。

彼女は動物愛護が目的の一般財団法人「クリステル・ヴィ・アンサンブル」を立ち上げ、代表理事として積極的に活動しているのです。その団体のあか抜けたネーミングや博愛精神が、滝川クリステルというブランドとオーラをさらにアップグレードさせているようです。

■「よろいを脱いでいいんだな、武器を置いていいんだな」

一方の小泉進次郎さんは、政治家としてのサラブレッド的な要素と、切れ長の目のイケメンぶりによってかなりモテまくっていたことは想像に難くありません。「自民党をぶっ壊す!」などワンフレーズの決めセリフで知られた父親の小泉純一郎さんを彷彿(ほうふつ)とさせるような、細かく区切るしゃべり方も特徴的で、独特なインパクトと魅力を人々に与えます。

実際、政治活動でも応援演説で力を発揮して、マダムのファンに囲まれているイメージです。そんな彼でも、「政治の世界はいつ命を落とすか分からない戦場にように感じていた」と会見で語っていました。そうした中で滝川クリステルさんと出会い、「この場所はよろいを脱いでいいんだな、武器を置いていいんだな、無防備でいいんだ」と思うようになったとか。

過去に交際してきた女性たちの前ではそこまでリラックスできなかったかもしれません。年上で落ち着いていて、そこまで野心を表に出さない滝川クリステルさんだからこそ、よろいを脱げたのでしょう。

会見を見た多くの結婚願望のある未婚女性は、「男性のよろいを脱がせられるかどうかが結婚の重要な決め手になるのだ」と学んだのではないでしょうか。

■20代の頃は意外にキャピキャピなのに、今は低音かすれ声の謎

「戦う男の身も心も無防備にさせる女」滝川クリステルさん。その魅力については先ほども述べましたが、あのテンションの低さもそのひとつではないでしょうか。男性の心を落ち着かせる。最近の言葉でいうと、チルに入らせる女というわけです。「チル」は英語の「chill out」(チルアウト)に由来した言葉で「くつろぐ」「まったり」「落ち着く」といった意味です。

ただ、今回の結婚会見関連のニュースで、20代の頃の彼女の映像が流れましたが、思いのほか、嬌声をあげキャピキャピしていて、それはそれで新鮮でした。いつからテンションが低めになったのか、今では時々かすれ声というか、声を全然張るつもりがない話し方であるのもまたミステリアスです。

以前、所属していた共同テレビ時代は、フジテレビと同じグループでありながら大きな給料格差があるのではないかという報道もありました。もしや、それを知って、自ら声を省エネモードに切り替えたのでしょうか。

かつては“低待遇”に甘んじていた滝川クリステルさんですが、今回の結婚で、いろんな人々を一気に逆転し勝利した感じです。

■「フジテレビ」に勝利した滝クリの戦略と恋愛哲学

まず、かつて小泉進次郎さんを狙っていたとの噂(うわさ)がある、元フジテレビのエースアナ・加藤綾子さんに勝利。また、LINEでつながっているキャスター安藤優子さん(フジテレビ系「直撃LIVEグッディ!」司会)にも今回のことを事前報告せず、出し抜いた形です。結果的に、「フジテレビ」に完全勝利しリベンジを果たしたのかもしれません。ああ見えて負けず嫌いなのかもしれません。

今回の結婚・妊娠を知り、悲しみに暮れる男性も多いでしょう。美貌と知性とフランスの血を引いたアンニュイさでモテまくってきたはずですから。少し前には世界的指揮者・小澤征爾さんの息子で俳優の小澤征悦さんと交際していた噂(うわさ)がありました。

今回、小泉進次郎さんとの結婚では、ツイッターで「滝川から小泉になったら水量が減る」というつぶやきを見かけましたが、「小澤」も「沢」で水場と縁があるのかもしれません。「滝川」から滝のようにほとばしる愛を「小澤」という沢に降り注がせてもそのまま流れていってしまいますが、「小泉」ならそのまま愛が泉にたまっていくイメージ。きっと、ふたりはうまくいきそうです。

ただ滝川クリステルさんの著書『恋する理由』(講談社)には、「フランスの女性たちは、結婚したからといって、けっして恋愛をあきらめません。昔から、フランス映画の題材には、妻子ある夫、夫と子ある妻の恋など、いわゆる『禁断の恋』も数多くあります」と書かれていたのが気になりますが……。完全に夫に依存しないどこかに行ってしまいそうに自由な雰囲気で、ますます小泉進次郎さんの心をつかみそうです。

■「首相&首相夫人(ファーストレディー)」を狙っている可能性

ミステリアスといえば、滝川クリステルさんの笑いのセンスもそうです。仲が良いというモデルでタレントのアンミカさんがテレビ番組内で、「ダジャレとか言い合ったり。メールで『バッチグー』って打ったら『高木ブー』とか、言い合うんですよ」と語っていました。どの部分がダジャレで笑いになるのか私にはちょっとわかりませんが……韻を踏んでいるという知的な言葉遊びなのかもしれません。

とにかく素晴らしくお似合いのおふたりです。このところ日本では「映え」が重視される風潮ですが、完璧なルックスのカップルなので「映え」から説得力を持たせるビジュアルの力を感じます。

小泉進次郎さんは今回の会見後、「おもてなし入閣するのか」といった報道もありました。もしかしたら、ふたりは「映え」の勢いも借りて、将来的には「首相&首相夫人(ファーストレディー)」を目指そうとしているのかもしれません。それは少し危険な流れな気もしますが、とりあえず映えすぎるおふたりを祝福したいと思います。

----------
辛酸 なめ子(しんさん・なめこ)
漫画家/コラムニスト
武蔵野美術大学短期大学部デザイン学科卒。雑誌連載、執筆活動の合間を縫ってテレビ出演も。
----------

(漫画家/コラムニスト 辛酸 なめ子)