爆音がペットに及ぼす影響とは?

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 夏になると全国各地で開催される、野外音楽フェス。野外という環境から、会場では犬などのペットを連れている人も見られます。音楽フェスといえば、スピーカーから発せられる「爆音」が特徴ですが、ネット上では「ペットの耳に悪影響では」「聴力の低下が心配」と懸念する声も上がっています。

 音楽フェスのように爆音が鳴り響く環境は、ペットの耳にどのような影響を及ぼすのでしょうか。獣医師の増田国充さんに聞きました。

「音響外傷」による聴力低下

Q.まず、犬の耳の基本的な仕組み(聴覚)や、聴力について教えてください。

増田さん「耳は『外耳』『中耳』『内耳』の3つから構成されています。外耳と中耳の間にある『鼓膜』が、音を振動として感受します。中耳には『耳小骨(じしょうこつ)』という骨があり、鼓膜で受け止めた振動を内耳に伝えます。

内耳には『蝸牛(かぎゅう)』というカタツムリに似た形の部分があり、そこで中耳から伝導された振動を電気的な刺激に変換し、聴神経を通じて脳に情報が送られます。蝸牛の内部にはリンパ液があり、リンパ液が音による振動に反応したものを外有毛細胞が感知して、神経に伝えているのです。

動物種によって聞き取れる音の高さ(周波数)が異なり、犬はヒトよりも高い音域を聞き取ることができます。ヒトの可聴域は20〜20000ヘルツといわれますが、犬は20〜50000ヘルツといわれます。

これとは別に、音を聞き取る能力は犬が優れています。諸説ありますが、犬は音を聞き取れる能力が人のおよそ6倍高いといわれます。一方で、言葉など細かい音域の差を聞き分ける能力は、言語を用いる人間の方が高いといわれます。個体差はあるものの、犬種によって大きな差があるわけではありません」

Q.一般的に、犬の聴力が低下する要因として、どのようなことが考えられますか。

増田さん「要因はいくつか存在します。まず『外耳炎』をはじめとした感染症です。外耳炎が重度になると、鼓膜自体が損傷することがあります。異物や耳あかによって外耳道がふさがれてしまうような物理的原因で、聞こえに影響することもあります。

加齢による聞こえの低下は、中耳にある耳小骨の振動能力の低下に由来するといわれます。また、外傷や腫瘍などによる脳や神経の機能低下により、聴力に影響が出ることがあります。さらに『音響外傷』と呼ばれる原因もあり、これが野外フェスやライブハウスなどの大きな音に長時間さらされることによって生じるものです」

Q.「音響外傷」は、犬の聴力にどのような影響を与えるのですか。

増田さん「音響外傷は、音の大きさとそれに接触している時間によって発症します。大きな音によって、内耳の蝸牛内にある外有毛が損傷を受けます。外有毛細胞は再生能力が乏しいため、ダメージを受けた後は難聴が続いてしまうことにつながります。ヒトであれば、難聴の他、耳鳴りが自覚症状として現れます。犬の場合は、猟銃の音に長時間何度もさらされることによって引き起こされることがあります。

犬が音を聞き取っているかどうかは、飼い主さんが声を掛けた際に振り向く、あるいは耳をピクッと動かすなどの反応で判断することができます」

Q.野外フェスなど大きな音のする場所にペットを連れて行くことについて、獣医師としてどのように思われますか。

増田さん「音響外傷は長時間、大音量にさらされることによって生じます。耳への影響が心配されますが、他にも気にしておかなくてはならない点があります。野外フェスの会場は、普段聞き慣れない大きな音が発生する他、大勢の人が参加します。これらは、普段生活している中で経験する機会があまりない状況と考えられます。また、日中に開催するイベントであれば、熱中症にも気を付けなければなりません。

日中の野外のイベントは、犬が置かれる環境として過酷となる場合があり、特に、神経質な犬や持病のある犬にとっては厳しい条件となることがあるので、犬を連れて行くことは強く推奨するものではありません。イベントによっては、静かな場所での一時預かりや専用スペースの確保など、動物に優しい条件が備わっている場合があるかもしれません。事前に確認しておくとよいでしょう」

Q.やむを得ず、大きな音のする場所に犬を連れて行く場合、飼い主が注意すべきことはありますか。

増田さん「音のエネルギーは、音源からの距離の2乗に反比例します。これをデシベル(db)で表すと、音源からの距離が2倍になると6デシベルほど減衰するといわれます。犬たちの耳を守る動物専用の耳栓があればよいのですが、存在しないと考えてよさそうです。

どうしても大音量の環境下で過ごさなければならない場合は、極力音源から距離を置きましょう。それでも、普段と異なる音や雰囲気に戸惑うことがあるかもしれません。極度の恐怖心によって、普段と異なる行動や体調不良を起こすことがあるので、よく様子を確認しておく必要があります」

Q.その他、日常生活において、犬の正常な聴力のためにすべきこと/すべきでないことはありますか。

増田さん「日常生活で人間が不快と感じるような大きな音は、犬にとっても耳の聞こえに影響を及ぼす可能性があります。犬もわれわれと同様、聴覚から得られる情報は生活する上で貴重なものです。従って、年を取ってもできるだけ聞こえを維持するためには、耳に与える刺激に配慮をする必要があります。

同時に、耳そのものの健康を保つことも、聞こえを維持する上で気を配っておきたいことです。『耳の汚れがないか』『耳に炎症が生じていないか』などの他、日頃の何気ないしぐさから聞こえの具合をチェックすることができるので、ご自身の耳をいたわるのと同様に、動物たちの耳への気遣いもしていただけたらと思います」