ドコモ、2年縛り見直しに「値上げはしにくい」:吉澤社長インタビュー(石野純也)
電気通信事業法の改正に先立ち、新料金プランを導入したドコモですが、省令やガイドラインは想定を上回る厳しさになり、予断を許しません。端末購入補助の条件が2万円までに設定されたほか、2年縛りの違約金に関しても、1000円という基準が示されました。いずれも10月までに準拠する必要があるほか、このタイミングでは、楽天のMNO新規参入も控えています。

こうした状況を踏まえ、ドコモの吉澤和弘社長は、筆者のインタビューにこたえる形で、現行の料金プランに何らかの改定を加える可能性を示唆しました。吉澤氏は、楽天の様子を見つつ、10月までに何らかの対応策を検討することを語っています。一方で、新料金プランと同時に開始された「スマホおかえしプログラム」については、例外はありつつも、そのままの形で継続できる見通しを示しました。

さらに、ドコモは9月には5Gのプレ商用サービスを開始します。ここでは、商用環境と同じ周波数を使い、実際の端末をユーザーに貸し出す予定。春に商用化される際には、容量無制限のプランなど、今とは異なる料金体系についても検討しているようです。ほかにも、吉澤氏はMNOが展開するドコモ回線を使ったMVNOや、dポイント、d払いについてなど、ドコモの最新戦略を語っています。その主な一問一答は、以下の通りです。

■端末値引き「上限2万円」解約金「上限1000円」の対応


──端末購入補助の上限が2万円と規定されましたが、スマホおかえしプログラムへの影響はどう出てくるでしょうか。

吉澤氏:今のスマホおかえしプログラムは、端末代から24カ月分を払ってもらって、残りの1/3を免除する形です。端末の2年後の下取り価格が厳密にいくらになるのかが分かりませんが、ある程度の金額に仮定した場合でも、かなりのケースで2万円以内に収まります(注:省令では、市場での買取価格よりアップグレードプログラムの方が高くなる場合、その差額が補助と見なされる)。仮に入らない場合に、どういう工夫をすべきかというのはありますが、スマホおかえしプログラムは、9月に出ると思われる新型のiPhoneでも、同じスキームでやれると思います。

──ファーウェイ端末は、買取価格が安くなっているケースもあり、計算によっては、2万円を上回ってしまうケースもありました。ドコモは「P30 Pro」の予約受付を停止していますが、あれはどうなるのでしょうか。

吉澤氏:トランプ大統領の発言で動きが出ると思いましたが、まだ商務省は(制裁解除の)声明を出していません。今は、状況を注視している段階です。現状では、何らかの形で出すことができても、バージョンアップができないとなると、お客様にご迷惑をおかけしてしまいます。(MVNOで)出しているところがあることは把握していますが、我々はそういうわけにはいきません。

▲危惧されていたスマホおかえしプログラムだが、新ルールでも継続できる見通しだという

──次に、2年契約の解除料についてうかがいます。これは1000円に引き下げる予定でしょうか。

吉澤氏:もともと9500円という解除料は、2年契約をしたときと、期間拘束がないときの差分という考えでした。料金の差を1500円にしていますが、これは2年の契約をお約束していただき、ある程度の収入が入ることを前提に、安くしていたものです。半年から1年の間で解約されてしまったときの逸失利益や逸失収入を考え、9500円にしていました。

その意味でいえば、(解除料が1000円になると、拘束ありのときの料金を)1500円引けなくなってしまいます。ロジックとしては、2年契約なしの1500円高い料金から、(差分として許容されている)170円を引いたものが期間拘束ありの料金になります。

とは言っても、今の料金をそのまま高くするわけにはいきません。論理的には、その間(今の料金と、単純計算で導き出した1330円高い料金)になりますが、値上げはなかなかやりづらい。「新料金プランをやるなら省令が出てからにすればよかったのに」といわれてしまうかもしれませんが、我々としてもそこまで読んでいるわけではありません。たまたま今回、解約金がそうなってしまいました。ただ、1000円ということであれば、やはり対応は考えなければなりません。料金に影響がまったくないというと嘘になりますが、どうすればいいかは、今、検討しているところです。

──値上げの可能性もあるのでしょうか。

吉澤氏:ロジック的には、その選択肢もありますが、世の中を見ると、値上げはしにくいですね。楽天がどう出てくるのかも、まったく分かりません。それを見なければいけないと思っています。10月1日の前には何らかの対応をしたいと思っていますが、その都度何回も新料金を出すわけにはいかないので、楽天の状況も見てからになります。

▲新料金プランの金額は、今の2年縛りを前提に設計されていた。これが崩れると、見直しも必要になるという

■楽天参入への対応


──新料金プランも、かなり楽天を意識していたようですが、実際、どの程度影響があるとお考えですか。

吉澤氏:あれだけネットワークコストが安く、料金も安くするとおっしゃっていて、さらに期間拘束がなく、出入りも自由という発言もあり、関心はあります。とはいえ、MVNOの料金もありますし、あれもそもそも3年契約が前提です。auとのローミングもあり、その料金も加算しなければならないため、そこまで簡単に、ドラスティックなものを出せるのかどうかですね。

──楽天モバイルといえば、先日DMM mobileを買収することを発表しました。ただ、MVNOとしての楽天モバイルも、DMM mobileも、ともにドコモ回線を利用しています。今後、MNO(無線通信設備を自前で持つ携帯事業者)として競合になるわけですが、こういった関係についてはどうお考えでしょうか。

吉澤氏:楽天モバイルとしてMNOを始めるからには、MNOとしてやるのが基本です。MVNOは解消してもらいたいですね。

──具体的に話はされているのでしょうか。

吉澤氏:まだこれからです。また、(楽天以外にも)グループでMVNOを持つ会社があります。たとえば、BIGLOBEはKDDIの子会社ですが、ドコモ回線が数十万回線あり、これは今話をしているところです。ただし、どういうふうに移行させていくのかは、まだこれからです。

──ドコモ回線を使うLINEモバイルも、ソフトバンク傘下になりました。

吉澤氏:本来は、そこ(MNO)に合わせるべきではないかと思います。このままだと、いいとこ取りをするところも出てきてしまう。MNOとしてやられる方が、MVNOを同時にやるのは本来おかしいと思っています。そこはきっちり分けるべきですね。

▲MNOが他社の回線を使ってMVNOをすることに対しては、否定的な見方を示した

──ただ、それを規制するルールは特にありません。総務省でルール化する必要があるとお考えでしょうか。

吉澤氏:もっと影響が出てくるのであれば、声を上げていこうと思っています。今すぐに話題にするというわけではありませんが、一度整理することも必要です。

■新料金プラン「ギガホ」「ギガライト」の反響


──新料金プランですが、現状、どのぐらいのペースで移行が進んでいるのでしょうか。

吉澤氏:7月6日で約301万の申し込みがありました。年度末には、これが1700万ぐらいになると見ています。前回のカケホーダイ&パケあえるのときは、最初の1か月で500万まで行っていましたが、これは理由が分かっています。前回は通話料が定額になり、元々通話料が高かった人が一気に料金プランを変更しました。今回は、月々サポートがなくなるまでは、変えなくてもいいと言っています。月サポが終わり、プラン変更をする方が今後も一定程度出てくるため、年度末には1700万までいけると思っています。

──カケホーダイのときは、想定を上回るスピードで移行した結果、収益も予想以上に悪化してしまったと思います。その意味で、今回は想定通りということでしょうか。

吉澤氏:(以前は)対象の方がすぐに新プランに移り、その影響が10か月続いてしまいました。あれが痛かったですね。営業利益も、1200億円ぐらい下方修正することになりました。料金を見直すと必ず減収になるため、失敗とは言いませんが、想定が甘かったところはありました。今回は、月サポの関係で、こうなることは考慮に入っています。

──料金についてですが、ここまで制約が多くなってくると差別化が難しくなるのではないでしょうか。

吉澤氏:キャリアを移るとき、何を見るかというと、まず料金です。ただ、我々は料金だけなのかとも思っています。楽天の場合、彼らがやっている色々なサービスやポイントの加入条件があった上でいくらとやるかもしれない。そういう料金設定も考えられます。クレジットカードを持っていただくことや、証券に入っていただくことで、料金がさらに安くなるとうたうかもしれません。

料金そのものが、モバイル役務の中だけで完結しない。そういう考え方は、(改正電気通信事業法や省令でも)否定されているわけではありません。そういうことも、考えなければならないと思います。

■5Gに向けての展望

──次に、5Gのプレ商用サービスについて伺います。先日ソフトバンクがフジロックでのプレサービスを発表しましたが、ドコモの場合は商用環境という理解でよろしいでしょうか。

吉澤氏:(プレ商用サービスは)周波数も、すべて商用免許をいただいたものでやります。ラグビーワールドカップの8会場をエリア化して、会場では5G対応スマートフォンをお貸しします。そのスマートフォンでは、マルチアングルの映像や、反則があったときのルール解説、選出のデータなどを出せるようにしていきます。こういったデータは、ほぼリアルタイムで出てこないと意味がないですからね。また、それらを遠隔で見られるようにするため、何らかの施設でパブリックビューイングができるようにしていきます。

ラグビーワールドカップ前ですが、東京ゲームショウでも、5Gをやることになりました。メインの5Gスポンサーとして、5Gを使ってゲームそのものを楽しんでいてだきます。ほかにも、コンシューマーへの対応では、サッカーのスタジアムなどでの5Gも仕込んでいるところです。B2Bで言うと、新人研修や工場の作業支援として、グラス上にARでコンテンツを出すようなこともやります。遠隔での教育や観光などで、法人向けにやろうと思っています。

春には正式ローンチになりますが、そのときには、サービスとしてお金をいただいていく形になります。そこでは通信料も出しますし、場合によってはソリューションとして、まとめて利用料をいただく形になると思います。

▲ドコモのプレサービスは、商用環境と同じ周波数帯を活用するという

──料金ですが、コンシューマー向けはいかがですか。

吉澤氏:ギガホの30GBはLTEだと十分かもしれませんが、やはり無制限プランはある程度考えていかなければいけないと思います。ただし、それはギガホよりちょっとだけ、高くなるかもしれません。同等はやはり厳しい。ギガホも、5Gを出したときに値付けがしやすいよう、ああいう金額設定にさせていただきました。

──とは言え、当初のエリアを考えると、5Gスマートフォンを持っている人が、LTEで使うことも多くなると思います。

吉澤氏:確かに、1か月間ずっと5Gで使うというわけにはいかないと思います。LTE側で消費されるデータ量もあるため、最初はある程度キャップを設定し、それを超えたらギガホの1Mbpsではなく、もう少し速度を出せるようにするということもあると思います。auの「auデータMAXプラン」にも、テザリングの20GBや、短期間の利用に制限がありますが、ああいった条件をどこまでつけるのか、つけないのか、ですね。

──4月には、マイネットワーク構想を発表されました。あれは今後、どういった形になっていくのでしょうか。

吉澤氏:スマートフォンとの連携の中で、周辺にデバイスが出てきて、そこに映像空間や体験空間ができるというイメージです。アップロードの観点では360度カメラがありますが、今よりもうちょっといいものがないのか、探しているところです。また、ダウンロードでは、やはりウェアラブルやXRですね。VRゴーグルもありますし、Magic Leapにも出資しました。Magic Leapはすでにデバイスを出していますが、あれはまだ開発用のものです。春には間に合わないかもしれませんが、来年には実際に販売できるものも出てきます。スタートの時期にはいくつかに制限されますが、来年の夏や秋以降には、さらに充実させていく予定です。


▲スマートフォンをハブとする、マイネットワーク構想を掲げ、周辺機器を充実させていく方針

──dポイントを軸にした会員基盤に転換しているところですが、これについて詳しく教えてください。

吉澤氏:回線契約そのものを軽視しているわけではありませんが、会員基盤で言うと、dポイント会員は7000万を超えました。2021年には、それを7800万人にしていきます。一番いいのは、回線契約をしていただくことですが、必ずしもそうでなくてもいい。ドコモのサービスを使っていただく基盤を増やすということです。我々だけでなく、ドコモのdポイントやd払いのようなサービス基盤はパートナーも使えます。

我々はお客様のデータを分かっています。たとえば渋谷に住んでいる30代の女性に、こういうものを進めたいというとき、クーポン付きで情報を配信し、お店にくれば買えますとなれば送客効果があります。それで商流を拡大することはどんどんやっていきたいですね。相互にマーケティングするところは、今、力を入れて進めています。


▲dポイントやd払いを軸に、パートナーのデジタルマーケティングを促進する

──とは言え、大手チェーンの中には、すべて自前でやろうとしているところもあります。自前でやろうとして失敗した例もありますが......。

吉澤氏:コンビニチェーンで言うと、dポイントやd払いはローソンでやっていますし、ファミリーマートにもdポイントは導入予定です(d払いは導入済み)。どこかとだけやるのではなく、幅広くやりませんかと言っています。ただ、なかなかセブン-イレブンさんは固いですね(苦笑)。「7Pay」もああなってしまいましたが、得意なところとやればいいのに......と思います。セブン-イレブンは自らの力や会員基盤がありますが、そうは言っても、自分たちだけでやるのではなく、パートナーと組みながらやっていった方がいいのではないでしょうか。