「 D2C 分野において、持ち株会社が現れるのは必然だ 」:ティム・アームストロング氏
ティム・アームストロング氏は、Googleなどのテック企業で長年働き、AOLを率いてベライゾン(Verizon)とヤフー(Yahoo)を統合し、オース(Oath)を立ち上げたのち、D2C(Direct to Consumer)の世界に惹きつけられた。彼は、15年後の未来を考えたときに、コンシューマーカテゴリが、データを貯めこんだわずかなプレイヤーに支配されているような状態はあり得ない、と考えている。アームストロング氏は、ゆくゆくはすべてD2Cになっていくと信じている。そして、現在D2Cカテゴリの足かせとなっている問題は、新興市場として成長しようとしている兆候なのだという。もちろん、テック系企業で起こっていたような企業淘汰も起こるだろう。だが、この市場で成功したブランドは、既存のコンシューマー企業の商品開発や顧客向けのマーケティングの手法を刷新しはじめている。なぜなら、彼らは本質的に、自身の顧客が誰かを知っているからだ。それを達成できるような企業は、P&Gやユニリーバ(Unilever)の牙城を崩し、競争力のある企業として成り立つことができるだろう。
6月第2週の木曜夜にベータワークス・スタジオ(Betaworks Studios)で開催されたアメリカン・マーケティング・アソシエーション(AMA)の公演でアームストロング氏は、テック企業とコンシューマー企業の違いや、創設者が抱えるしかるべき問題、そして彼が知るすべての起業家たちにとって、ユニットエコノミクス(ビジネス最小単位における収益性)がいかに重要であるかについて語った。分かりやすくするため、多少編集している。
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――多額の資金を調達してきた、D2C企業の未来はどうなると思う?
こうした企業を、私はあえてふたつのカテゴリに分類してみようと思う。ひとつは、D2Cブランドが自身のメトリクスやユニットエコノミクスを熟知しているか、あるいは自身のユニットエコノミクスを理解していないか。そしてもうひとつは、企業が調達した資金が適切な額か、そうでないかの差だ。我々に売り込みをかけてくるブランドは、概してこのうちのひとつ、またはふたつに属している。
ユニットエコノミクスのことが分かっていて、顧客と一緒にそこにどっぷりと浸かっている企業は成功する見込みがある。その企業規模が5000万ドル(約54億1400万円)なのか、1億ドル(約108億円)なのか、それとも10億ドル(約1080億円)になるのかはわからない。ただ、現在の状況を見てみると、オンラインでもオフラインでも、顧客が持つ力のほとんどを吸い上げている企業が多くいる様子が見て取れる。さらに、さまざまなカテゴリに渡って膨大な数の小規模の企業がひしめくD2C業界がある。15年後には、数多くのD2Cブランドを統合した新興の持株会社組織が出てくるだろう。さらに、昔ながらの「エコノミーブリッジ」出身の企業のいくつかは、こうしたD2Cブランドを買い漁っているだろう。
過剰な資金調達の問題が表面化しているが、その背後には、新しいビジネスの形や、根本的に顧客の理解に長けた企業の姿がある。これまでの経済と、D2C経済のどちらかに賭けなければならないとすれば、私は持っているチップのすべてをD2Cに賭けるだろう。なぜなら、D2Cブランドはより顧客との距離が近く、商品開発においても優れており、分子レベルでビジネスを理解しているため、時間とともに規模が拡大していくだろう。
――D2CのDNAを兼ね備え、これまでのブランドが持ち合わせていなかった顧客との関係性に根付いたブランドを持っている場合、規模の拡大に応じて、特にユニリーバなどの企業に目をつけられているような状況のブランドは、どのように維持していくべきか?
ビジネスが成功していれば、問題はつきものだ。その問題がしかるべき問題なのかどうかが鍵だ。成功しているD2C企業は、顧客のニーズを解決するところからはじめている。その背後には素晴らしいストーリーがある。成功すれば、生産規模も拡大する。サプライチェーンが破綻した際には、それを構築し直す必要が出てくる。そして次に直面するのは、彼らが得意とするチャンネルで顧客が足りなくなってくる問題だ。そうするとオムニチャンネル展開を強いられ、多チャンネル化が進むと、次は商品のポートフォリオを拡大しなければならなくなる。だが、その商品のポートフォリオは、もともとの企業理念とは必ずしも合致しなくなってしまう。このような問題を心配する者は多いが、私は、D2Cから生まれている昨今のこうした問題は、しかるべくして起きる、適切なものだと見ている。成功者は、多大な努力を続けることで成功を収め続けるものだ。
――あなたはテック系出身だが、企業淘汰や顧客と直接繋がることに対する重要性など、その業界で目にしてきたことと、コンシューマーカテゴリで起こっていることとの共通点は?
テック業界で見られた企業淘汰は起きると見ているが、その形態は異なるだろう。P&Gのやり方を模倣して成功を収めるブランドや企業が数多く出てくるだろう。世界中のありとあらゆるデータを所有する、大規模で独占的な、単一のデジタル企業は、D2Cの市場では出てこないのではないかと思う。
私がこのカテゴリに足を踏み入れた理由は、15年後には、顧客のありとあらゆるデータを10社が握っているというような状況などあり得ない、という揺るぎない信念を持っているからだ。同時に、最終的な顧客と繋がっていないうえに、彼らのことを理解していないような「超」大企業を経営する、ということもあり得ないと考えている。これらのことを考え合わせると、D2Cは今後長い年月をかけて成功を収める可能性がとても高いと、私は見ている。D2Cに対して、「これは結局なんの価値もない弱小企業の集まりだ。規模拡大なんてあり得ない」と、ある意味あざ笑うものいる。彼らは、商品開発のサイクルや、顧客との距離がどれだか近いか、という現実を見逃している。そしてこれこそが、大企業にひと泡吹かせて食べていける力の源であり、私がこの世界に飛び込んだ理由だ。
――少なくとも現在まで、D2C企業が成長や新規顧客獲得においてFacebookやGoogleに依存度してきたことについて、どう思うか?
こうした企業をパートナーにするというのはD2Cにとって自然なことだ。なぜなら、D2Cの創設者たちは、顧客の理解においてデータ絶対主義的なところがあり、そうした企業は多くのデータを提供してくれるからだ。顧客が獲得できる別の場所を求めて、こうしたプラットフォームから離れれば離れるほど、データがほとんど得られないということもある。そこにブランドの価値はあるかも知れないが、ユニットエコノミクスに重点を置く、データ絶対主義的なブランドにとっては、これは非常に厳しい。(オフラインでの)動きには満足かも知れないが、データがなければ、そこへの継続投資は難しくなる。
また同時に、人々は(ほかのチャンネルでの)価値に気付きはじめている。実店舗は概して「超データ絶対主義」ではないが、これは驚くべきことだ。そして、D2C企業はまさに「超データ絶対主義」だ。つまり、データ絶対主義であり、同時に顧客第一であるこうした企業は、ほかの場所で徐々に大きな痛手を受ける前に、自然とデータプラットフォームへと傾倒していくだろう。そして、そうしたほかのスペースにも、D2Cにとっては多くのチャンスがある。
――ブルーエプロン(Blue Apron)などの企業での経験を踏まえて、一般市場に向けて展開を検討しているD2C企業の悪い先例はあると思うか?
いや、私はそうは思わない。結局のところ、成長と拡大を望んでいる企業にとって、やり方さえ間違えなければ、一般市場は素晴らしい「金のなる木」だ。資金流動性がある場所で、徐々に投資を増やしていくことは、私は間違いだとは思わない。だが、必要な正しいユニットメトリクスを持たずに行うのは間違いだ。なぜなら、ある時がくると、莫大な経費を支払う必要が出てくるからだ。つまり、私の考えでは、一般市場へ進出するべきかどうかが問題なのではなく、ユニットエコノミクスを持っているかどうかが問題だ。私はこれを起業家全員に強調して伝えている。ユニットエコノミクスこそが大事だ。それを知らない限り、一般市場へは進出するべきではない。
Hilary Milnes (原文 / 訳:Conyac)
