犬と飼い主のおじさんのほっこりしたコミュニケーション、そして“犬友”との交流をゆるゆると描く人気のドラマ『柴公園』が、劇場版として公開中だ。日常の中のちょっとしたこと、さざ波を会話劇で見せる本作において、主演の渋川清彦、共演の大西信満のさりげない演技は癖になり、映画でも心ゆくまで堪能できる。

新築タワーマンションで柴犬を飼っているという共通点を持つ3人の男たち。彼らは本名さえ知らないが、犬の名前に「パパ」とつけて呼び合い、毎日のように散歩ついでに公園で集っていた。ある日、あたるパパ(渋川)が、真っ白な柴犬を連れたポチママ(桜井ユキ)と恋模様になっていきそうだと気づいた、じっちゃんパパ(大西)、さちこパパ(ドロンズ石本)は、ふたりを応援しようとするのだが……。

劇場版だからといって、何かが壮大にパワーアップするわけではない。『柴公園』ならではの空気感をきっちりと纏う本作なだけに、会話の量は膨大。とにかく台詞量に苦労したと苦笑した渋川と大西は、旧知の仲だからこその練習背景なども明かしてくれた。長い付き合いというふたりの、息の合った屈託のないクロストークをお届けする。

ーーおふたりは、お付き合いが長いんですよね?

渋川 長いっちゃ長いよね。

大西 『連赤(※『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』)』のときから、だよね?

渋川 そうそう、初めて会ったのは『連赤』。そこから、すぐ飲む関係というわけではなかったんですけどね。

大西 たまに、どちらからともなく連絡を取って、季節にいっぺんくらいは会って、ただ飲む、みたいな仲になっていきました。

ーーそうやって飲むときは、役者さんならではのお話をするんですか?

大西 ……全然しない(笑)。

渋川 しないですよ(笑)。どんな感じかな? 芝居に対しての話はしないですけど、「○○組、どうだった」とか、「○○組は大変だったらしいよ」とかの話はしますね、やっぱりね。

ーーお二方が、『柴公園』のような、「犬を飼っている気のいいおじさん」という役どころを演じるのは珍しい気もするのですが、面白さはありましたか?

渋川 そうですね。俺はじっちゃんパパの役が大西でよかったな、と思っていましたね。大西の普段みたいというか……。

大西 普段じゃないでしょう(笑)?

渋川 大西は大体、暗いというか、心に何か秘めた役ばかりのイメージでしょう? 本当は大西が面白いところを知っているので、うん。

大西 僕自身、「どうしてこの役は自分にしてくれたんだろうな?」とすごく不思議でしたけど、演じていると面白かったです。気張らずにできたといいますか。KEEさん(渋川)の役に関しては、ほぼ当て書きというか、KEEさんありきの企画なので、その辺はイメージしやすかったので僕はすごくやりやすかったです。自分が「どういたら面白いかな」というのは、全然知らない人だと、こういう風にはいかなかったので。

ーー渋川さんご自身、役に近しいところはあったりするんですか?

渋川 ありますね。物腰がやわらかそうな人物に見えて、ちょっと偏屈だし、頑固なところ……じゃないかな(笑)。偏屈なところ、自分はあると思いますよ。わかりやすく言うと、未だに携帯はガラケーのままだし。

大西 でもさ、最近iPad、手に入れたらしいじゃん?

渋川 あ、弟にもらった(笑)。でも、ICカードとかは持ってないよ! まだ切符を買ってるもん。いつも電車に乗るときは人を待たせるから、迷惑をかけるんですけどね。

ーー文明の利器には迎合しない、的な精神がややありますか(笑)?

渋川 ちょっとありますよね(笑)。無駄な抵抗ですけどね。

大西 えっ、食べログとか見てるじゃん!

渋川 食べログは……、すごい便利だからね(笑)。

ーー(笑)。本作、台詞の量がとにかく多いですよね。そのあたりのご苦労は?

渋川 背負い込んだのは台詞だけでした。とにかく量がすごいから、余分なことはあまり考えられなかったよね。

大西 全然酒も飲まんかったしね。

渋川 うん。

ーー覚え方の秘策は何かあるんですか?

大西 カラオケで1日何時間も閉じこもって、ふたりでやっていたよね。

渋川 そう、うん。ここの(大西さんとの)会話が一番長かったから、俺が「やろうよ」と言って。

大西 ひとりでブツブツ言っていても、覚えられないんですよ。だから、おじさんふたりでカラオケに行って、毎日4〜5時間閉じこもっているから、バイトの子とかは相当怪しく思っていただろうね……。実際、最初の何日かがうまくいけば、結構転がっていくものなんですよ。ここまで台詞が多いと、最初がやっぱり不安で。

渋川 現場でも読み合わせをしてました。朝行って、着替えてから、始まるまでの間は犬を散歩に連れて行くのと、台詞を今日の撮影のところを合わせたりして。そこは大変でしたね。

ーー最後に、本インタビューは映画好き、映画業界を目指す若者たちが多く見ているFilmarksがおくるマガジン「FILMAGA」にて掲載されます。これからの人たちに、おふたりから「今やったほうがいいこと」などのメッセージをいただければ、ありがたいです。

渋川 ……法に触れない程度に、何でも経験することじゃないですかね。いいことも悪いことも……どう糧にして、どう形になるのかはわからないですし、どう映るかもわからないですけど。でも、なんか、背景にはなるのかなと感じていますね。

大西 結局、経験も偶然の積み重ねなんですよね。「続けていれば、いいことあるよ」と思います。続けるのが一番難しいわけなので、目先の損得に一喜一憂しがちだけど、「いつか、いいことあるよ」と思ってやっていればいいんじゃないですかね。……ないかもしれないけど(笑)。(取材・文=赤山恭子、撮影=映美)

映画『柴公園』は、全国のイオンシネマ・シネマート新宿ほかにて公開中。

出演:渋川清彦、大西信満、ドロンズ石本 ほか
監督:綾部真弥
脚本:永森裕二
公式サイト:https://shiba-park.com/
(C)2019「柴公園」製作委員会