JR荻窪駅に発着する関東バスの「荻36」系統は、何の変哲もない住宅街をゆく路線ですが、ある珍しい特徴を持っています。終点で、バスが「乗客を乗せたまま回転」するのです。

住宅地にある「名物バス停」

 JR中央線の荻窪駅北口から、北西に位置する東京女子大学近くの南善福寺バス停までを結ぶ関東バスの「荻36」系統。東京都杉並区内の住宅街と鉄道駅を結ぶ、この地域では典型的といっていい路線のひとつですが、ある珍しい特徴を持つ路線として、一部のバスファンに知られています。


ターンテーブルのある南善福寺バス停。ここでバスは方向転換する(風来堂撮影)。

 荻窪駅前を出たバスは、青梅街道(都道4号線)を北西へ。早稲田通り(都道438号線)との交差点で左折し、井草八幡宮や善福寺公園を通って、武蔵野市との境目に位置する南善福寺バス停まで20分ほどかけて走ります。この終点にあるターンテーブルが、「荻36」系統の“名物”です。

 ターンテーブルは「転車台」とも呼ばれる、車両の方向を変えるための装置です。バスの場合、起終点でバックするなどして車両の向きを変えること(転回)がありますが、特に杉並区のような住宅密集地、かつ道路の狭い場所では、それができる十分なスペースを取れない場合があります。そこで使われるのがターンテーブル。車両を載せてスイッチを入れると回転し、いちいちバックさせて切り返さなくても方向転換ができます。

 しかしながら、ターンテーブル自体は特に珍しいものではありません。では何がこの路線の“名物”たらしめているのかというと、「客を乗せたまま」ターンテーブルが回転するからです。

終点に着いてもすぐには降りられない 客を乗せたまま回転のワケ

 南善福寺バス停は、金網で囲われた交差点の一角に設けられており、入口から向かって右に安全柵で仕切られた待合所、左側にターンテーブルがあります。そのターンテーブルを囲むように、地面にはオレンジの区画線が引かれ、大きく「立入禁止」の表示が。

 到着したバスは頭からターンテーブルに突っ込み、停車。そして運転手が窓を開け、上空からぶら下がっているヒモを引っ張ると、ターンテーブルが回り始めます。

 1分ほどかけてバスが180度回転すると、ターンテーブルは停止。運転手がアナウンスし、降車できるようになります。乗客を乗せたまま回転するのは、安全のためです。降車した客がバスの周囲にいては危険なので、必ず降ろす前にターンテーブルを回転させます。


ターンテーブルの周りには、大きく「立入禁止」の表示が(風来堂撮影)。

 ここから折り返しのバスに乗車する客は、安全な待合所内で転回が終わるまで待つことになるので、ターンテーブルでの転回をバス車内から体験したいなら、必ず南善福寺行きの便に乗るようにしましょう。

 ちなみにこのバス停、以前は十分な敷地があり、車体をバックさせて転回できたのですが、敷地内へ関東バスの職員住宅を建設するにあたり敷地が狭まることから、ターンテーブルが設置されました。

※記事制作協力:風来堂

※一部誤字を修正しました(2月16日 10時10分)