地方の繁華街を我が物顔で跋扈し始めた半グレ

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 数年前から、他拠点居住や地方移住が高齢者だけでなく若者の間でも話題だ。技術や知識を身につけた人たちが、都市部から地方へと広がっていくのは喜ばしいことだ。ところが、"半グレ"というありがたくない特殊技能を地方へ持ち帰る迷惑な流れがいま起きている。ライターの森鷹久氏が、取り締まりが厳しくなり都会にいられなくなったUターン半グレに混乱させられている地方の苦悩についてレポートする。

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「アッチで偉くなって帰ってくるならまだしも…。とんでもなか連中さ!」
「私たちを田舎者と思って舐めてるんでしょう。実際に警察も手出しが出来ん」

 九州北部某市の居酒屋でこう捲したてるのは、地元A商店街の幹部を務める正木太郎さん(仮名・60代)と、同じくA商店街でスナックを経営する水田洋子さん(仮名・50代)だ。2018年もいよいよ終わり、最後くらい穏やかに飲めばいいものの、彼らはいったい何に怒っているのか。

 遡ることちょうど一年前。

 水田さんの経営するスナックで、常連のXさんが二〜三名の若者客に殴られるという“トラブル”が起きた。連絡を受け、水田さんが駆け付けると、顔を腫らした、血だらけのXさんが横たわっていた。

「若い子たちは18〜20歳くらいの金髪、いかにも“不良”って感じで店の中にまだいたんです。すぐに警察を呼ぼうってことになったけど、Xさんが勘弁してくれ、と」(水田さん)

 実はこの常連客のXさん、元々は地元の暴力団に所属し、地元の祭りや商店街の催しなどを取り仕切るような立場にいた人物であった。昔風にいうところの「田舎のヤクザモン」であり、今ほど暴力団に対する風当たりが厳しくなかった時代背景もあってか、Xさんの顔は広く、だれもが「〇〇組のXさん」と慕い、また畏れた。

 そんなバックグラウンドを持つXさんだからこそ、数人の子供に袋叩きにされ警察沙汰になるとは、プライドが許さなかったのかもしれない。この件は事件にはならず、知る人ぞ知る「酒場のトラブル」として忘れ去られるかに思われたが、間もなく、同様のトラブルが起きたのである。

「また同じ連中が別の居酒屋で客を殴ったんです。今度の被害者は、地元の土建屋の社長さんですね。コッチ(暴力団)ではなかですが、彼らとは付き合いもあるし、地元では有力者です。さすがに気が付きましたね。ああ、こいつら“そういう人”ばっかり狙いよるな、と」(正木さん)

 正木さんの読みどおり、“そういう人”たちを繁華街から暴力で追い出して、指定暴力団なら法律や条令で禁止されていること、たとえば、みかじめ料の徴収などを始めた。

 筆者が関係者に聞き取りを続けたところ、この若者たちは地元の“半グレグループ”であり、彼らをまとめるのは、地元出身で関西地方の広域指定暴力団に所属していたが、トラブルを起こしUターンしてきたという男(40代)であることが判明した。

 男は元々不良少年でもなく、地元暴力団に所属していた経歴もない。ただ、同級生など近しい人々によれば、あまりにも身勝手で、友人と呼べる人はいなかった。地元に居場所がなかった男は、都会に出てヤクザになり凱旋したかと思えば、自身が"暴力団ではない"のをいいことに、10も20も年下の子供や若者をそそのかし、半グレ集団を組織し、やりたい放題にやっている、という実情なのだ。

「奴らは“自分は元××組の○○さんと知り合い”と吹きまくって、肩で風を切って街を歩いている。彼らは暴力団じゃないと、警察も手出しが出来んようです」(正木さん)

 実は同じような事例は、すでに都市部では数年前から起きていた。それが年月を経て、地方でも同様の事態になっているのではないか。神奈川県内に本部を置く、広域指定暴力団の元幹部・A氏(50代)が指摘する。

「暴力団が条例やらで規制されて、一時期は暴力団より半グレが強いのではないか、というような時期がありました。東日本大震災の頃です。東京や大阪でその頃に半グレメンバーになっている、もしくは半グレを経て暴力団になり、その後に地元に帰った連中が、いま全国各地で"暴力団の代わり"みたいなことをやっているようです。田舎のおまわりも、不良少年やヤクザなら対処方法もわかるでしょうが、相手が“半グレ”となるとね…。どうしようもできないのでしょう」(A氏)

 筆者が聞き取りをしたところ、同じような事態は九州の中小都市のほかにも、山陰地方、東北地方日本海側、そして北海道道東でも発生している。暴力団がいなくなった場所にボウフラのごとく沸きあがりやりたい放題、好き放題で地域住民に迷惑をかける。半グレだから手が出せない、取り締まるための法律が未整備という当局、法律の隙をついた卑劣さは、暴力団以上ともいえるのかもしれない。加えて彼らには、地域を思う、先輩や高齢者を敬うといった感情が欠如している。義理人情など知ったことではなく、ただ自分たちだけが良ければ良いのだ。こうした地方の“半グレ”達に、みな戦々恐々としているのだ。