クイズ王、伊沢拓司さん。

東大大学院に籍を置くエリートでありつつ、主催する「QuizKnock」ではYouTubeのチャンネル登録者数44万人超、著書も多数出版されているという大の人気者です。

この人気者に、なんでもいいから1回くらい勝ってみたい…!(出だしから私欲全開ですみません)

そこで私は考えました。

自分の大好きなものにまつわるクイズなら、クイズ王にも勝てるのではないか?

ということで、「このジャンルの知識なら負けない!」と思うカテゴリ限定で、伊沢さんにクイズ対決を申し込みました。

結果、「時間がないときの勉強術」と「答えを知らなくとも正解に寄せていく力」についてお話いただき図らずもたいへん学びのある記事となりましたので、新R25史上最高に大人気ない企画にどうぞお付き合いください。

〈執筆:ライター・サノトモキ〉


【伊沢拓司(いざわ・たくし)】東京大学大学院在学中。中学時代より開成学園クイズ研究部に所属。開成高校時代には、全国高等学校クイズ選手権史上初の2連覇を達成。2017年クイズ番組『東大王』(TBS)優勝。林修先生の教え子でもある、東大の知識モンスター。Webメディア「QuizKnock」を立ち上げ、編集長も務めている

ルール説明!

サノ:
伊沢さん、今日はよろしくお願いします!

我々メンバー3人が、それぞれの得意ジャンルのクイズで挑戦させていただきます! なお、伊沢さんには3日前に「どのジャンルから出題されるか」を伝えております。

伊沢さん:
よろしくお願いします!

勉強できる期間が3日間でしたからね…。本気でいかないと、負ける可能性が結構あると思ってます!

サノ:
今回の対決は、早押しではなくボードクイズ形式です。各テーマにつき3問ずつ出題するので、それぞれ回答をボードに書いて発表していただきます!

挑戦するのはこの3人!




左:宮内
酒に生きる編集者。クイズテーマは「クラフトビール」。

中央:サノ(筆者)
売れないバンドマンっぽさに定評のあるライター。クイズテーマは「Mr.Children」。

右:天野
スポーツをこよなく愛す編集者。クイズテーマは「プロ野球」。

挑戦1人目 テーマ:「Mr.Children」

サノ:
僕は大好きな「Mr.Children」についてのクイズでチャレンジさせてください!

子どものころから聴いていて、ミスチルに憧れてミュージシャンを目指そうと思ったこともあるぐらいなんで、ハッキリ言って負ける気がしません!

伊沢さん:
ミスチルね…。ポピュラーなバンドなので、クイズでもよく出るんですよね…(ニヤリ)

天野:
両者とも気合は十分…! それでは第1問!



Q1.1999年9月8日に、50万枚限定で発売された、Mr.Childrenのライブアルバムのタイトルはなんでしょう?

サノ:
えっ、なんだっけ…(ヤバイ、問題のレベルが結構高い

伊沢さん:
あっ、はいはい。(サラサラ)

サノ:
えっ。

天野:
両者、回答をお願いします!



伊沢さん:
1/42」ですね。僕、これ持ってます。

正解!

サノ:
それだ…

なんで!? なんでこんなマイナーなの持ってるの!?

伊沢さん:
ミスチルは比較的好きでしたし、枚数限定の希少版なんで、BOOKOFFで見つけて買ったんですよ。

サノ:
興味の幅広すぎない…?

Q2.1985年、関東高等学校(現・聖徳学園高等学校)の軽音楽部に所属していた桜井和寿を中心に結成された、Mr.Childrenのもととなる5人組バンドの名称はなんでしょう?

サノ:
サラサラサラ、バンッ(ボードを伏せる音)

天野:
うわっ、サノ氏はやい!


早々に書き終わり敵を全力で威嚇

天野:
それでは回答をお願いします!

サノ:
Beatnits(ビートニッツ)」!

伊沢さん:
THE WALLS」!

天野:
正解は…「Beatnik(ビートニク)」です。



伊沢さん:
ああ、そうだ!「Beatnik」が「THE WALLS」になって、最終的に「Mr.Children」になったんですよね。たしか、ベスト盤のライナーノーツに書いてありました。

サノ:
しっかり覚えたはずなのに…なんて過ちを…

伊沢さん:
ちなみに、Beatnikって1950年代のアメリカの文学運動のことですよね? 桜井さん、そのへんの話題好きそうなイメージありますもんね〜。

サノ:
知らんし!! 次!!

Q3. 1997年4月からのMr.Childrenの活動休止中にベース・中川敬輔、ドラム・鈴木英哉、thepillowsの山中さわお、MY LITTLE LOVERの藤井謙二が期間限定で組んだバンドの名称はなんでしょう?

伊沢さん:
それなんだっけなー!

サノ:
なんかふざけた名前だった気がすんだよなー…

伊沢さん:
そうなんすよね、ふざけてんすよね!

宮内:
仲良しかよ

天野:
それでは、オープン!

サノ:
Acid test」。

伊沢さん:
やるせないさ」。

天野:
正解は…「林英男」!


楽しくなっちゃったふたり「それだーーーーー!!」

宮内:
そんでどっちも不正解なのかよ

天野:
ということで、1-0で伊沢さんの勝利です!

サノ:
まずい…やはりクイズ王に勝つことは不可能なのか…!?

挑戦2人目 テーマ:「クラフトビール」



宮内:
自信ないなあ…

Q1. 2014年7月に「クラフトビール戦略」を発表したキリンビールが、傘下の子会社によって2015年に代官山にオープンしたパブの名称は?

伊沢さん:
代官山…?

宮内:
サラッ…

伊沢さん:
はやい…ッッ!!

うーん、自信ないぞ。

サノ:
それではお二人、回答をオープン!



宮内:
スプリングバレーブルワリー

伊沢さん:
ヤッホーパブ

サノ:
正解は…スプリングバレーブルワリー



宮内:
イエス!!

伊沢さん:
書く勢いに自信がありましたもんね…!

サノ:
伊沢さん、「ヤッホーパブ」全然違うじゃないですか!

伊沢さん:
このカフェのことは知らなかったので、質問文から回答を推測してみました

まず、「傘下の子会社によって」という部分があえて社名を伏せているように感じたので、子会社名にちなんだ名前なんじゃないかと。

そして「2014年」といえばキリンがクラフトビールのトップ企業「ヤッホーブルーイング」を傘下にした年なので、「ヤッホーパブ」にしてみようと。

サノ:
想像の数千倍奥深い推測でした。すみませんでした。

それでは続いて第2問!

Q2.数学と物理の教師をしていたミッケル・ボルグが、デンマークのコペンハーゲンで2006年に「特定の醸造所を持たない幻のブルワー」として立ち上げたビールメーカーの名称はなんでしょう?

伊沢さん:
デンマークか…



宮内:
ミッケラー」でしょ。

伊沢さん:
ボルギアン・オーデンセ」。

サノ:
正解は…ミッケラー



宮内:
よし!!

サノ:
イケる…! イケるぞ!

伊沢さん、こちらの回答は?

伊沢さん:
こちらも知らなったので、社長名×都市名のパターンに賭けて、名字のボルグとデンマークの都市オーデンセを掛け合わせてみました。

なんとか当たるようにやってみたんだけど…悔しいなあ!

サノ:
そんな推測が当たるなんてほぼ奇跡だし、今日ほんとに勝てちゃうかも…?)

それでは第3問

Q3.ビールの香りを表現する3つの要素として、「ホップ香」「モルト香」などがありますが、もうひとつはなんでしょう?

伊沢さん:
こんなこと言ったりするけど…(カキカキ)

宮内:
ええっ、わからん…!

伊沢さん:
ミッケラー気になるなあ。どんなビールなんだろ。猛烈に飲んでみたくなってきたなあ〜。

宮内:
ちょっと、静かにしてください!(笑)

サノ:
それでは回答を、オープン!



サノ:
正解は…エステル香です!

宮内、「苦味」て。

宮内:
全然わかんなかったんだもん!

伊沢さんだって、さすがに適当でしょ!?

伊沢さん:
クラフトビールって、よくバナナの香りとか表現されますよね

あるクラフトビールを評するときに「バナナの香りがフルーティーだ」と言われていたのが頭にあったので、書いてみました。

サノ:
…適当どころか、エステル香は「バナナやリンゴのようなフルーティーなフレーバー」のことみたいなので、想像してる香りは完全に正解ですね…

で、でも何はともあれ、2-0で宮内の勝利です!

宮内:
イエーーッッ!

伊沢さん:
これで1勝1敗か…勝負は最後の1人ですね…!

挑戦3人目 テーマ:「プロ野球」



伊沢さん:
また広いテーマですね。楽しみだなあ。

サノ:
では、第1問!

Q1.今ではセ・リーグとパ・リーグに分かれている日本プロ野球。もともとは一つのリーグでしたが、ある企業の球団のリーグ加盟をめぐって賛否がわかれた結果、二つのリーグに分かれました。その企業の名前とは、いったい何でしょう?

天野:
俺、これわかるかもしれない。

伊沢さん:
企業…分裂…

サノ:
回答をお願いします!


「毎日新聞社」「毎日」

サノ:
おっ! お二人とも正解です!

天野:
毎日新聞がパ・リーグに参入してつくったのが「毎日オリオンズ」。その後ロッテに買収され、いまの千葉ロッテマリーンズになりました。(ドヤッ

サノ:
こちらは、伊沢さんもご存じだったと。

伊沢さん:
いえ、推測です

当時のリーグ会長が読売の方だった気がしたので、反対するとしたら新聞社かなと思って毎日新聞社にしました。

サノ:
えっ、ついに推測で当ててしまったんですか?

伊沢さん:
答えを知らなくても、「答えに寄せていく方法」はあるんです

サノ:
そんな方法が…?

続いて第2問!

Q2.通算本塁打数1位といえば、868本を記録した王貞治選手…ですが、21世紀以降に日本プロ野球での通算本塁打数が500本に到達した選手は一人しかいません。誰でしょう?

伊沢さん:
日本プロ野球のみでの記録ですか? メジャーなど日本以外での記録も含みます?

サノ:
日本プロ野球のみです。

それでは、回答をお願いします!

天野:
清原和博」!

伊沢さん:
清原和博」!

サノ:
こちらもお二人とも正解です!

天野:
たしか、通算525本ですよね

サノ:
合ってる…

伊沢さん:
おお、お見事ですねえ!

やっぱり大卒じゃなくて、高卒でプロ入りしてバンバン打ってかないと500本ってなかなか届かないんですよね。清原は高卒1年目で31本打ってるんで

サノ:
なんで1年目のデータまで把握してんだ…

ここまでお互い2問連続正解。それでは、3問目いきます!

Q3. 21世紀に入ってからの日本シリーズで、最も勝利数が多いのは18勝の巨人ですが、最も敗戦数の多いチームは17敗しています。どこのチームでしょう?

伊沢さん:
巨人が18勝…それに対して17敗…

サノ:
それでは、回答をオープンしてください!


「中日ドラゴンズ」「巨人」

サノ:
ついに回答が割れた! それぞれ、なぜこの答えに?

天野:
中日って、伝統的に「強いのになかなか日本一になれない」って言われてるんですよ。

でも、21世紀に入ってからは落合監督によってリーグ優勝が何度もあった。日本シリーズ自体には出場していながら日本一になれてないということは、敗戦数が多いのではないかと。

伊沢さん:
僕は計算で弾き出してみました。まず、シリーズ戦は先に4勝したほうが勝ちなので、負けると自動的に4敗します

だから、17敗のチームというのは17÷4で、4回くらい日本シリーズに出場して、負けているチームのはず。


わずか数秒でそこまで考えていたんですね。怖いです

伊沢さん:
それくらい出場してるチームとなると巨人か中日かなあと思ったんですけど、巨人って、この時期に二度セ・リーグ3連覇を果たしているのに日本一連覇はないんですよね。

必然的に敗戦数も多くなると思うので、敗戦数も実は巨人が一番なんじゃないかと。

サノ:
逆転の発想ーーー!! 天才っぽいーーーっ!

気になる正解は…

「中日ドラゴンズ」です!

伊沢さん:
うわーマジかーー! 負けたーー! けっこう自信あったーー!!

天野:
でも、勝利数が一番多いチームだからこそ敗戦数も一番多いんじゃないかって発想、すごいですね。

「一番勝っているのは巨人ですが…」って言われたら、「負けも一番多い」って思いつかないですよ普通。

伊沢さん:
この間、金田正一が通算最多勝投手なのに通算最多敗投手でもある、という情報を目にしたんですよ。

それで、そのパターンもあるんだなという経験則が頭にあって、今回適用してみました。

サノ:
3-2の激戦でしたが、見事天野さんの勝利!


めちゃくちゃうれしい

ということで、結論、「好きなジャンルなら、一般人でもクイズ王に勝てる!」でした!!

時間がないときに情報を覚えるには「網羅せずに基礎だけ復習すべき」

天野:
サノくん企画者なのに全問不正解とか、ほんと何やってんの?

サノ:
いや、しっかり予習してこようと思ったんですけど、社会人には仕事が忙しくてどうにも準備の時間が確保できない時があるんですよ…

天野:
テレビ収録にWebメディアの運営、今日だって取材対応もしてて…伊沢さんのほうが確実に多忙だよね。

サノ:
あの…はい…

伊沢先生、時間がないときってどうやって勉強するのがいいんでしょうか…

伊沢さん:
サノさんは今回、どんな勉強をしてきましたか?

サノ:
とりあえずすべてを知っておかなくちゃと思い、Wikipediaの情報は一通り目を通してきたんですけど…

伊沢さん:
僕は逆に、時間がないときは全体を網羅することは諦めて、基礎部分を徹底的に反復学習することをオススメします。

サノ:
でもそれだと、全然わからない範囲もたくさん出てきちゃいません?

伊沢さん:
もちろん全範囲をカバーできることが理想ですけど、僕を含めたいていの人は、一発ですべてを覚えられるような脳みそにはなってないじゃないですか。

だから、下手に全範囲を網羅しようとして1周しか勉強できないと、結局全部知識が抜け落ちちゃって0点を取るリスクが出てくるんですよね。

よほどの天才じゃないかぎり、記憶を定着させるには何度も反復して学習する必要があるんです。


まさに、結局全部抜け落ちちゃって0点を取った人

サノ:
営業時代、自社製品のプレゼンで全機能を網羅しようとなんとか徹夜で目を通した結果、結局どの機能もフワフワした説明しかできず取引先にボコボコにされたトラウマが、たった今蘇りました。

伊沢さん:
それに、基礎知識をしっかり押さえておけば、応用部分についても戦いようがあるんです。

今日も、自分の知っている知識をもとにカフェ名を推測したり、最多勝&最多敗投手のパターンを応用して最多敗球団を絞ったりと試行錯誤しながら、なんとか「毎日新聞社」で1問正解にたどり着くことができました。

可能性は決して高くないかもしれないけど、基礎知識があれば、そこから正解に寄せていく努力ができるんです。

サノ:
「正解に寄せていく力」、仕事においてもめちゃくちゃ大事な気がするな…

今日の伊沢さんみたいに、答えを知らなくてもなんとか切り抜けなきゃならない場面ってたくさんあると思うんですよね。

知識の詰め込みだけで戦うのは、限界があるのかも。

伊沢さん:
勉強すべき範囲が明確に決まっていた学生時代は単純な詰め込みだけで戦えましたけど、社会に出れば、知らないことがあって当たり前ですからね。

僕も、「クイズ王だから全部知ってなきゃ」みたいなのはとっくに捨てました


「知らないことがあって当たり前」。クイズ王がいうと、ものすごく説得力があります

「知っている」ことはもちろん強みだけど、それだけじゃ戦えない。

伊沢さんのお話を聞いて、得意分野で勝っただけで浮足立っていた自分たちが少し恥ずかしくなりました(僕にいたっては勝ってもいませんし…)。

今後は僕も、専門分野だけじゃなくいろんなことに興味を持ちながら、「正解に寄せていく力」を養っていきたいと思います。

そしていつか必ず、対等な勝負で、伊沢さんにリベンジをしたい

サノ:
伊沢さん、またクイズ対決してもらえますか?

伊沢さん:
ぜひ! クイズって、本当に楽しいですよね。

いつでもやりましょう!


ヤッター!

〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=中山駿(@nk_shun)〉