米バスケットボール関係者の間で、ゴンザガ大学で3年生を迎えた八村塁の評価が高まっている。

 今季のバスケットボール男子の全米大学体育協会(NCAA)1部で、八村は最初の9戦すべてで17得点以上を挙げ、平均22.3得点、6.2リバウンドと好成績をマーク。開幕9連勝を飾ったゴンザガ大のエースとしての地位を確立した感がある。


ゴンザガ大学でエース級の活躍を見せる八村 photo by AP/AFLO

 とくにインパクトが大きかったのは、11月21日までハワイで開催された「マウイ・インビテーショナル」での活躍だ。強豪8校が集まったこの大会でも、八村はMVPに選ばれる働きでゴンザガ大を優勝に導いた。決勝戦では、来年度のNBAドラフト全体1位候補と目されているザイオン・ウィリアムソン率いるデューク大学を、激戦の末に破って実力と存在感を大きくアピールした。

 この勝利で知名度も上がり、NBAドラフト候補としてこれまで以上に注目されている。アメリカのウェブサイト『NBADraft.net』で12月1日に発表された、来年度のモックドラフト(ドラフト予想)では八村が全体5位にランクイン。媒体によっては「全体10位から20位くらいではないか」という冷静な声もあるが、エリートプロスペクト(若手有望株)の証明である”ロッタリー指名(15位以内の指名)”の有力候補に躍り出ていることは間違いない。

 八村はNBAでもすぐに通用する選手なのか。最高レベルのリーグでやっていくためには、まだ課題があるのか。日本バスケ期待の星の現在地と今後について、ゴンザガ大の元チームメイトで、今夏にロサンゼルス・レイカーズと2ウェイ契約を結んだジョナサン・ウィリアムズに意見を求めた。

 ウィリアムズは2016〜18年にゴンザガ大でプレーし、2017年のNCAAトーナメント決勝進出に大きく貢献。今季の開幕直後にNBAデビューを果たし、レブロン・ジェームズを擁するレイカーズの一員として6戦に出場している。そんな23歳のパワーフォワードの目にも、八村のポテンシャルは驚異的と映っているようだ。

「今年は多くのスキルを向上させて、より優れた選手になっている。塁はとても練習熱心だから、今後も成長を続けるだろう。彼の身体能力がNBAでも通用することは疑いようがない」

 現在23歳のウィリアムズがそう話すとおり、八村の身体能力は米カレッジ界でも”エリートレベル”と評されている。スキルはまだ発展途上だとしても、フィジカル面は今すぐにNBAに飛び込んでも遜色ないだろう。


インタビューに答えるレイカーズのウィリアムズ phpto by Sugiura Daisuke

「もっとも印象的な武器は『突破力』だね。接触プレーをものともしない。それだけじゃなく、コート上で複数のポジションをプレーできることも大きい。その多才さは、キャリアを長い目で見た際にも彼の助けになっていくはずだ」

 ウィリアムズの「多才」という評価を聞けば、八村が単なる”フィジカル・モンスター”ではないことがわかるはずだ。

 定評がある突破力だけでなく、オフェンスをクリエイトするのもうまくなった。チームを背負うプレーメーカーとして、平均アシスト数を昨季の0.6から今季1.6まで引き上げているのも見逃せない。インサイド&アウトゲームの向上ゆえに、得意のポストプレーもより生きている。これまでは持って生まれたツールばかりが喧伝されてきた感があるが、総合力が高まっていることは間違いない。

 一方、あくまでNBAを目指すと考えたときに、八村にとって今後の課題となるのはどんな部分なのか。これまでは、コート上での会話を問題なくこなすための英語力が挙げられることが多かったが、ウィリアムズはより具体的なプレーについて指摘していた。

「ポストプレーだけでなくロングシュートを安定させることかな。3ポイントシュートを含め、継続して高確率で決めていくこと。あとはPGをはじめとする自分より小柄な選手を、ハイピックでより上手にガードすることだね」

 選手のサイズにとらわれない”スモールボール”への傾倒が加速する現代のNBA。強靭なボディ、身体能力を兼備する八村は、機動力のあるビッグマンとしての起用を考慮されるに違いない。

 そんな構想に応えようと思えば、精度の高いロングシュートはやはり必須となる。昨シーズン、26本中5本しか決められなかった3ポイントシュートを、今季はすでに6/12の高確率で成功しているのはポジティブな材料だ。1年を通してロングシュートが安定すれば、ゴンザガ大の勝利につながるだけでなく、NBAスカウトの印象もよくなる。

 守備面では、自慢のバネを生かしたビッグプレーを随所に見せているが、まだ「ポジショニングに難がある」という声は少なくない。ビッグマンでもピック&ロール時にガードと対峙する守備力が必要なだけに、その面でも向上は求められるだろう。

 このように課題を挙げはしたものの、八村のポテンシャルをよく知るウィリアムズの言葉からは、「すべて練習と大舞台での経験によって改善していける」という含みが感じられた。ゴンザガ大は今季も上位進出が有力。晴れてチームのエースになり、ハイレベルなステージで腕を磨き続けられるのは大きい。

「ゴンザガ大にはしっかりとしたカルチャーが確立されていて、選手たちとコーチが一枚岩になっている。(マーク・フュー)HCにはチームを率いて20年にも及ぶ実績があり、選手がチームのためにハードにプレーする伝統ができあがっている。控え選手からスタメンまで、全員が日々向上しようという思いで取り組んでいるんだ」

 ウィリアムズがそう絶賛するように、組織のしっかりしたゴンザガ大で、八村が練習を続けることの意味は計り知れない。その環境でハードワークを積めば、学生生活最後の大舞台になるであろう来春のNCAAトーナメントまでに、もう一段ステップアップすることも可能だ。だとすれば、日本が生んだ最高級の素材の視界は良好。来年6月のドラフトまでに、さらに評価を上げていても驚くべきことではないのだ。