写真右から正田郁仁(法政大学経営学部2年)、神谷菜月(明治大学経営学部3年)、須田孝徳(早稲田大学大学院 商学研究科 修士1年) (写真:筆者提供)

前回記事で、人手不足で重宝される若者たちが、バイト先でかなり優遇されていることが明らかになりました。『若者わからん! ―「ミレニアル世代」はこう動かせ―』を著した博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーの原田曜平さんが、7人の現役大学生たちに「理想の上司」「下につきたくない上司」を聞きます。
前回記事:バイト先で「VIP待遇」を受ける若者のリアル

「見て学べ」はNGだが「成長」はしたい

原田:「こんな社員・先輩がいるバイトは嫌だ」というのはある?

須田:社員さんから怒られたことは1度もないんですが、40歳くらいのパートの男性からは理不尽なことを言われて嫌でした。それで辞めちゃった女性の学生バイトもいます。

原田:つまり学生バイトを雇う会社側としては、社員が学生に優しく接するだけじゃなく、パートさんやバイトリーダーといった中間管理職ポジションに、どう若者と接すればよいかということを、ちゃんと教育しないといけないんだね。企業からすると、これは大変だ。じゃあ君たちが社会人になったとして、「嫌な上司」ってどんな人?

山切:明確に指示してくれない人は嫌です。「荷物、その辺に置いといて」と言われても具体的に言ってくれない。それで適当に置くと「そこじゃない」って言われる……。

樋川:私もホテルのコンパニオンのバイトに入りたての頃、「見て学べ」って感じで、初回からいきなりパーティーに入れられたんですよ。先輩は「私の真似して動いて」って言うんですが、それで間違えて怒られるのは納得がいきませんでした。社会人になってからでも、そういうのは嫌ですね。

正田:自分が仕事に慣れてないうちはちゃんと育ててほしいし、丁寧にアドバイスしてほしいです。

原田:日本社会は昔から「俺の背中を見て学べ」文化だからね。特に年配の男の人はコミュニケーションの苦手な人が多くて、「不器用で寡黙だけど人柄はいい」が美徳になっている側面もある。細かく具体的に指示されたい若者からすると、そういう人はきついだろうね。高倉健さんなんか、今時の上司の理想像からは離れてきているかもね。

神谷:とはいえ、マニュアルの押しつけも嫌です。「お菓子の作り方を小さな子に教える」という私がやっているバイトの性質もあると思いますが、いくら事前に受けた説明どおりにやっても、小さな子は動いてくれないんですよ。だから先輩のやり方を実際に見て学びます。

原田:超丁寧に手取り足取り教えるのは前提として、そのうえで部下としては自分でやりやすいと思う仕事の進め方を尊重してほしい、ということだね。

2個褒めて1個ダメ出し

樋川:それと、指示にはいちいち確固たる理由が欲しいです。ただ「これやって」ではなくて、「こうやるほうが、これこれこういう理由で効率的だから」とか。言われないと納得できない。

原田:納得していないけど、上司の命令だからやった、なんてことはもう今の時代はないよね。

樋川:やってる途中で「私、なんでこれやってるんだろう?」って疑問に思っちゃいます。

須田:ただ、優しく褒めるだけの上司も嫌です。理想は「2個褒めて1個ダメ出し」。僕がバイトしていた靴屋の店長さんは、褒めることしかしなかったんですが、それだと僕が成長できませんから、その点だけは不満でした。

原田:面倒くさっ!(笑)。学生を辞めさせないよう基本的には優しくしなきゃいけない一方、学生側はただ褒められるだけだと「成長」メリットを感じないから、それもダメ。じゃあ、そのダメ出しはわりと厳しく言ってもいいの?

須田:中途半端なダメ出しで次に生かせないより、どうせなら厳しく言ってくれたほうがいいですね。ただし、そこはちゃんと理屈の通った言い方で。理不尽な罵倒は論外です。

樋川:そうですね。褒めてもらいつつ、ダメ出しには理由が欲しいです。理由を言ってくれないと、こちらも納得できないですし。

原田:また「納得」か。今の上司に求められるものが、完全に「プレゼンテーション能力」になってきているね。

樋川:理由を説明してくれないと、指示そのものを疑っちゃいます。ひいては、この人についていっていいのかな?って。上司として尊敬できません。

吉川:だから、上司という関係性だけで部下に威張ってくる人は嫌です。上司なら、上司というポジションにいるだけの明確な理由がないと……。


写真右から牧之段直也(早稲田大学政治経済学部3年)、樋川怜奈(早稲田大学教育学部3年)、吉川歩花(慶應義塾大学総合政策学部1年)、山切萌香 (明治大学経営学部3年) (写真:筆者提供)

原田:うーん、日本の企業にいる立場として、そして多くの企業とお仕事をさせてもらっている立場として言うと、「人事は藪の中」って言葉があるように、実際のところ明確な理由もないのにそのポジションに就いている人がかなり多い……いや、ほとんどそうだというのが日本企業の特徴だと思う。「なんでこの人が?」という人が管理職になっているケースが本当に多い。その理由は明確で、要は「その人が、引き上げる力のある上司に好かれた」というだけ。君たちはそういう旧日本的な人事を見ると納得できないし、そんな企業は嫌だって思うわけだね。

吉川:はい。なんでこの人が上司なんだろうって考え込んじゃいますからね。

原田:日本全体がこれだけ人手不足になっているのだから、日本企業は悪しき「ごますり昇進」を根絶しないと、優秀な若者たちから三行半をつきつけられてしまうようになるだろうね。

上司の「人間味」を見たい

原田:じゃあ、理想の上司はその逆だから、明確な指示出しができて、根拠のあるダメ出しができる人。あとは、“横から目線”で気にかけてくれる、相談に乗ってくれる人(前回記事参照)ということだね。

正田:そうですね。悩みがあるのを察して、肩でもぽんってたたいて励ましてほしいです。

牧之段:人間味を見せてくれる上司がいいです。私生活をのぞかせるような。バイト先の懇親会でBBQを開いてもらったんですけど、社長と取締役が奥さんや息子さんといったご家族も連れてきていて、とてもよかったです。彼らの家庭での顔が見えて、気持ちの距離が縮まりました。

原田:この点はここ15年くらいで若者たちが最も変化した点かもしれない。僕は1977年生まれの2001年入社(一浪)だけど、上司に子どもの話をされても別段興味がなかったし、なんなら仕事と関係ない話なのにと、うっとうしいくらいに思ってたよ。嫌いな上司だったら嫌悪感すら出していた気がする。周囲の同世代もおおむねそんな感じだったと思う。でも、今の若者たちは意外とひねくれ者じゃなくなっていて、上司が家族や子どもを大切にしている話をしたら「優しい人だな」と思うんだね。ある意味大人になった、とも言えるかもしれない。

牧之段:仕事ができるだけじゃなくて、家族のことも考えてるんだなあと思うと、一緒に働くモチベーションも上がるんですよ。

神谷:私たち若者からすると上司との間には壁がありますけど、そこで「娘の夜泣きが大変でさあ」とか話してきてくれると、この人も自分と同じ人間だとわかって、一緒にやっていけそうだと思えるんです。それが仕事のやりやすさにもつながってきますね。

牧之段:親近感ですね。ある企業のTwitterアカウントの「中の人」が、会社の情報だけじゃなくてカジュアルに天気の話題など茶目っけを出してつぶやくじゃないですか。大企業なのにこのギャップ。そこでこの会社に抱く親近感に近いかな。

神谷:だから振ってくれる話題はなんでもいいんです。「最近、書道に凝っててさあ」でも(笑)。

上司の恋バナは「アリ」

原田:でもたとえば、君たちが書道に興味なかったら、話が盛り上がらなくない?

山切:そもそも上司と何を話していいかわからないので、とっかかりになるならなんでもいいんですよ。とりあえずその場の空気も和みますし。

樋川:その人がどういう人なのかを、仕事以外の部分で知りたいんです。知ったほうが指示を聞きやすくなりますし、もし私がその人に何かお願いすることがあっても、頼みやすいんじゃないかなと。

原田:じゃあ、男の上司が「俺、失恋しちゃってさ」なんて話しかけてきてもいいの?

神谷樋川吉川山切:(女子学生全員、声高に)ぜんぜんいいです!

樋川:「わかります〜!」ってなります。

神谷:上の世代は私たち若者世代がわからないと思っているでしょうけど、私たちも上の世代がわからない。だから理解するためのとっかかりとしては、恋バナもありです。

山切:ただ、失恋にしても笑い話にしてほしいですね。ガチのやつはちょっと(笑)。

樋川:ガチでも「じゃあ合コン行きましょうよ〜」みたいな話に持っていけそうなノリなら、いいですけど。


原田:合コンに一緒に行っちゃうくらいの親近感を上司に求めるんだ。僕ら世代の常識だと、仕事以外のことを会社で若手に言うのは、きっとうざいと思われるだろうからやめとこう、って意識なんだけどな。

山切:「仕事だけの人」って悲しいじゃないですか。友達とは言わないまでも、「仕事でつながっている以上」を上司に求めたいんです。それが人間味ということですね。

牧之段:仕事とプライベートを完全に切り分けて、仕事に人間味を持ち込まない人もいますけど、そういう人とは一緒に頑張って仕事ができないですね。なんだか機械的というか、仕事は仕事として割り切ってる感が強すぎて、内面が汲み取れない。だから、そういう人から褒められてもなんだか素っ気ないし、僕もあまりうれしくないんですよ。

原田:かつての若者たちが「あこがれ」で動いたのに対し、今の若者たちは「共感」で動くようになっているんだね。だから、上司は「高いプレゼンテーション能力」があってもドライな人ではダメ。加えて「共感力」も持っている必要があると。「かわいらしく」て「できる」人……一見矛盾するこの両能力を持つ人は、今の日本の企業の偉い人たちの中には、なかなかいないんじゃないかなあ。

(構成:稲田豊史)