8月1日、日本ボクシング連盟の山根明会長が欠席する中で行われた全国高校総体のボクシング開会式8(写真:共同通信)

隔週火曜日連載の「ミセス・パンプキンの人生相談室」で人気のミセス・パンプキンが、番外編コラムをお届けします。

国内のアマチュアボクシングを統括する「日本ボクシング連盟」に対し、役員や元選手ら333人が日本スポーツ振興センター(JSC)や日本オリンピック委員会(JOC)などに告発状を提出したのは7月27日のこと。今、この問題がテレビのワイドショーなどでは大きな話題になっています。

今回、告発により明るみになった日本ボクシング連盟の腐敗ぶりは、日大アメフト問題やレスリング協会の前強化本部長によるパワハラ問題と類似点は多いですが、決定的に違う点があります。

決定的に違う点は、その「ルール違反」と「恐怖政治」が全国組織に及んでいたこと。私が一番ショックを受けたのは、7年以上にわたって行われてきたこの蛮行が、2度目の夏季オリンピック開催を目の前に控えた先進国・日本で行われていたということです。

「、、、そろそろ潔く辞めましょう」


2013年2月2日夜、大阪市内のホテルで(写真:共同通信)

WBA世界ミドル級王者・村田諒太氏は自身のフェイスブックで「、、、そろそろ潔く辞めましょう。悪しき古き人間たち、もうそういう時代じゃありません」「新しい世代に交代して、これ以上、自分たちの顔に泥を塗り続けることは避けるべきです」と、痛烈に日本ボクシング連盟を批判しています。

日大の田中英壽理事長が、あれだけの大きな事件があった後でも一度も公に語ることをせず、その座に居座り続けられる前例があるだけに、この村田選手の言葉に代表される結果(=辞任)こそ、今一番求められていることだと思われます。

スポーツの魅力はいろいろあると思いますが、過酷な鍛錬にも耐えて技術の向上を目指す事が出来るのも、「ルールが絶対的に公正であること」が前提としてあると思います。ルールが公正だからこそ、敗者も潔くその結果を受け入れる事ができるのです。

近年、スポーツ観戦者も増えていますが、それも絶対的に公正なルールの下で競われているからこそ観戦を楽しみ、応援し、僅差による勝者にも敗者にも感動し、惜しみなく称賛を送る事が出来ているのです。このルールが公正でないなら、文字通りの自殺行為です。

メディアで取り上げられている「奈良判定」に、唖然としました。山根明会長出身の奈良県の選手に勝つには「倒す」しかないという評判の中で、2016年のいわて国体では、奈良県の選手を2度もダウンさせた岩手県の選手が負けたのでした。

素人目にも、試合結果まで操作されたと言われても仕方がない判定でした。この時の岩手県の選手は応援してくれている親たちに「ごめん」と謝り、選手生活を辞めたそうです。

利権とは無縁のスポーツのはずなのに…

私はボクシングと言えば、モハメド・アリに代表されるハングリー精神を、アマチュアスポーツと言えばもっとも利権とは無縁のスポーツの世界を連想してきました。それだけにこのアマチュアのボクシング界で、しかもこの成熟した先進国日本で、これほどのルール違反が横行してきたことに、言葉を失っています。

その理由がどうも、山根会長の奈良県愛というよりは、周囲に恐怖を植え付けて自分の権力を示し続けることで、自分の私腹を肥やそうとしたセコイ点にあると思われることです。

自分の指示に従わない審判を脅迫したり、大会途中で帰らせたりした事もあったようです(毎日新聞、8月2日朝刊)。これでは、ルールなんて初めからなかった試合も多数あったといって過言ではありません。これがこのスポーツの存亡の危機でなくて、何でしょうか。

経済的に貧しい国の少年がスポーツで、豊かな国の少年と対等に闘うには、グローブさえあればできるボクシングが最適と言われた時代がありました。

今回そのボクシングでは唯一の道具であるグローブが、山根会長の利権の一つになりました。市販品のグローブに検定済みシールを張って、市価より2〜3割増しで販売し、公式戦ではそれしか、使わせなかったそうです(「週刊新潮」8月9日)。

しかもその代金の振込先は山根会長の孫名義だったとか。そして「自分が商売してどこが悪い」と居直っている音声が、メディアに流れています。ここでこのように居直れる神経が問題です。

とにかく、カネに汚い

他にも山根会長には、金銭的に汚く、不明朗な部分が多すぎます。強化選手に助成された助成金240万円を、その選手の力で、その選手の強化のために助成されたのは明らかなのに、他の選手2人に均等に分け与えるよう「ほぼ強制」したり(助成金の意味さえ理解していない?)、海外合宿で各コーチに助成された3万円のうち2万円をピンハネしていたり、今回の170ページに及ぶ告発文の中には、大会運営費にも不明朗な点があると指摘されているそうです。

組織のトップが利益相反になるカネ儲けを組織として行うなど、言語道断です。しかもその他にも不明朗なカネの使い道を指摘されているのに、一言も弁明せず「入院」するなど、国から交付金を受け取っている団体のトップとして、不適格者でなくて何でしょうか。

アマチュアといえど、純粋に人生をかけて練習してきた選手も多いはずです。相当な努力をしてライセンスを取得した審判員も然りです。このような人たちのボクシングに対する努力や熱意を、腐敗まみれの一握りの者たちに牛耳られていた現状を、絶対に許すべきではありません。

この恥ずかしい現実を前に、一言の弁明もできず「入院」した山根会長には、監督官庁の調査等を前に、「潔く辞めるべきだ」という言葉しか、見つかりません。

彼が総体会場に着いたときに、審判員や関係者が勢揃いして出迎えている映像を見ましたが、やくざ映画で見るボスの出迎えと全く変わらない光景でした。睨まれると干されてしまう審判員や、円満な試合進行の責任を負う大会関係者の立場を考えれば、彼らの行動を責め立てるわけにもいきません。

各会場で申し送りされているような会長専用の皮張りのイスや菓子・お茶なども、見る限りは山根会長の周辺にいるイエスマンや忖度して動く人たちが、相当な力を持っていたことが伺われます。

しかし、今回の勇気ある告発によって今後には希望が待っているともいえるでしょう。「日本ボクシングを再興する会」の鶴木良夫代表は、告発者の連名者として100名も集まればよいと読んでいたところ、瞬く間に333名が名を連ねたそうです。

今まで何をしていたのだ、という批判の声も聞こえそうですが、いろいろな所から上部へ訴えていたものの「なしのつぶて」だったため、この行動に出たともあります。「自分の時代は終わっているが、後に続く人のために頑張りたい」と言っておられました。

山根会長とその取り巻きがどんなに強力であろうと、告発を受け取った日本オリンピック委員会や文部科学大臣、スポーツ庁長官等、関係機関が一体となることによって、徹底的にうみを出し切ってくれるものと信じたいと思います。

「理不尽な組織」に属している人々は立ち上がるべき

ところで170ページに及ぶ告発文の反論が、またお粗末でした。言い訳できない240万円の助成金の不正流用を認めただけです。これだけ恥ずかしく重大な疑惑に対し、説明責任も果たせないわけです。

スポーツ界ではこれでもか、これでもかと、ワンマン指導者のパワハラによる不祥事が明るみになってきました(教育界や政界、官庁もですが)。

今回の鶴木良夫代表の行動は、良い教訓になると思います。一人では動かない壁も、組織的に勇気を出して、メディアにも訴えて行動すれば、ワンマンとその取り巻きの壁も、崩せる可能性があるということです(日大のトップはは、まだ崩せてませんが)。ぜひ、「理不尽な組織」に属している人々は、立ち上がるべきです。