ゼネラリストVSスペシャリスト/野町 直弘
この4月から日刊工業新聞の水曜版で「企業進化に向けた調達購買業務改革」という記事を寄稿しています。(9月末迄)調達購買業務の課題や今後の方向性などを分かりやすく書いているので是非読んでみてください。
一番新しい寄稿では「調達購買人材育成」をテーマにして記事を書きました。「調達購買人材」を専門的な職種として捉えて人材育成をするためには、単に研修を受けさせるだけでなく、必要なスキルの定義と評価を行い劣っているスキルをどのように計画的に育成していくか、を多くの日本企業が進め始めているという内容の記事です。
述べましたように「人材育成」の前提となっているのは調達購買人材の「専門職化」でしょう。しかし一方で購買部門をゼネラリストのキャリアとして捉えて、多くの部門を経験するのと同じようにその一部署として経験させる企業もあります。
むしろ新卒から購買職で採用を行い、その後も購買部門内でキャリアを踏むという専門職キャリアを採用しているケースはまだ多くはないかも知れません。また長期間、調達購買部門を経験している専門職キャリアの方も企業内では専門職ではなくゼネラリストとして採用されている方も多いようです。同様に明確なキャリアの区分もないが、比較的経験の長いスペシャリスト的人材と他部門から異動してきたゼネラリスト的人材の両方の方がいらっしゃるというのが多くの企業の実態かも知れません。
何故こんな中途半端なキャリアになっているのでしょう。先日あるバイヤーからこういう話を聞いて、はっとする思いを感じる機会がありました。
多くの日本企業でマネジメント(執行役員)に上がれる人たちはゼネラリストが多い。ゼネラリストとして上に上がれなくなった人達の処遇としてスペシャリストが設置されている企業が殆どである、と。
私は日本の大企業サラリーマンを辞してもう25年位になりますが、言われてみればそういう制度だったかも知れません。元々スペシャリストを育てるという意識すらなかったでしょう。また多くの人はスペシャリスト=出世をあきらめた人という認識だったかも知れません。
これは明らかに終身雇用を前提とした日本企業の独特な人事キャリア制度です。しかし私はこのような昔の考え方は既になくなっていると認識していたので、未だにこういう考え方があることに驚かされました。
一方で今の時代、スペシャリストでかつマネジメントができないと部門の長にはつけなくなっていると感じます。購買経験がない方が部門の長になるケースは少なくありません。しかし優秀なマネジメントは専門能力の強化や習得にとても貪欲です。このようにスペシャリスト化の
要請は非常に高くなっています。
先回の記事でも書きましたが現場のモノづくりの支援機能としても今後ますます購買機能は広範囲な専門能力が必要となります。私はこれをスーパースペシャリストと呼んでいます。全員がスーパースペシャリストである必要はないかも知れませんが、ある程度の専門能力を持たないと迅速な意思決定はできません。
今後益々スペシャリスト化が進むとともにスペシャリストに対する評価を高くする必要があります。これは一企業だけの問題だけではなく社会全体の構造です。終身雇用から流動化が進むにつれてスペシャリストの社外的な価値は高まってきています。しかし、未だにそのロールモデルが作り切れていないのが現状でしょう。
コスト削減で10億円の収益貢献を達成したら1億円のリワードがもらえるような億リバイヤーがどんどん出てきたらもっとバイヤーは自身のスキル向上に貪欲になるでしょう。こんなロールモデルが出てきてほしいものです。
またこれは以前からも繰り返し述べていることですが、購買出身者で社長など偉くなるロールモデルも是非多く出てきて欲しい。一部の企業では既に購買出身社長が出てきていますが、未だに少数です。購買経験は会社の顔として様々なスキル育成の機会になります。あの人を見本にしたいという人が多くでてくることを期待しています。
こういう時代が来るのもそれほど先でもないかも知れません。