野町 直弘 / 株式会社クニエ

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最近かなりショッキングな話を製造業バイヤーから2点ほど聞きました。

一つはサプライヤの供給力不足です。
サプライヤの供給力不足はかなり以前からそういう状況であることは理解していましたが、どちらかというと限られた業界、品目の課題と捉えていました。根幹的な問題は人手不足であり、業種的には人を使う建設、土木、SI、運輸やコンサルなどのサービス系職種が中心であり、製造業にはあまり影響が大きくないと捉えていたのです。

それが先日あるバイヤーから話を聞いたところ、サプライヤの供給力不足から発注企業側がサプライヤの選択をするのではなく、サプライヤが選択受注をしているという状況があらゆる業種に広がっているという話でした。それも昔からの伝統的な業種である板金加工や溶接などにも及んでいるとのことだったのです。

理由はいくつか上げられるようですが、リーマンショック以降の製造業の生産拠点の海外シフトが大きな理由の一つと言われています。そもそも一時期生産の海外移転のため生産キャパ全体が過剰になっていた状況と後継者がいない、もしくは子供には家業を継がせたくない、などの意向から廃業が相次ぎ、こういう地味なモノづくりの担い手がいなくなり、それが国内回帰した生産に追いついていないようです。
またこれは私の推察も入っていますが、従来の量産型から多品種少量生産型に製造業全体が移行しつつあるなかで、そういうモノづくりに上手く移行できていない点も上げられるでしょう。

もう一つは現場力の低下という課題です。
あるバイヤーから「購買がモノづくりの現場を支援するようになり守備範囲が広くなっている」と聞きました。その理由はモノづくりの現場が弱くなっているからとのこと。

モノづくりはかなり属人的な作業です。特に多品種少量生産になればなるほど人の介在する場面は広がります。原材料をセットすると自動的にモノができるという世界は殆どありません。例えば品質の安定化のためには、安定した原料の調達投入が必要であり、気温や湿度などその他の外部環境にあった加工条件を設定しなければ安定したアウトプットを作ることはできません。

このような加工条件や生産条件などの設定は全てノウハウであり、技術です。ところが最近はそのノウハウが引き継がれていないという問題が発出しているとのこと。その理由はサプライヤの供給力不足と似た問題が根幹にあるようです。
団塊世代が本当にリタイヤしだしたのは実はここ数年です。これらの現場のモノづくりノウハウは団塊世代が脈々と培ってきたものでした。ある企業ではモノづくりのノウハウを持っている名人をマイスターという称号を与えており、その工場のロビーには50人位のマイスターの顔写真が飾られています。しかしその内の半数の方は既に退職されているマイスターなのです。これが実態でしょう。

聞いてみると団塊世代が本当に引退しだしたのは最近だそうです。その上彼らののノウハウを継承する若手人材が育っていないとのこと。考えてみれば日本の製造業は以前は毎年現場を支える人材を一定人数定期的に採用してきました。
しかしバブル崩壊以降、製造現場を担う人材を(人手不足やコスト削減のため)社外に委託するようになってきました。これもノウハウ継承が難しくなった一つの要因と考えられます。

一方で中国を始めとするアジア企業は現場で働く人材も若い人材が多く、グローバルでの競争で日本企業は今までは品質で競争優位に立てたがこれからは分らないと、このバイヤーは危惧されていました。日本企業はノウハウの継承ができていないし、気がついたらノウハウを持っている人もいなくなっていた、という状況なのです。

このようにモノづくりの現場が弱くなるとその影響は調達購買などの支援部隊にも及びます。具体的には業務の守備範囲がどんどんと広がっているとのこと。在庫管理、発注管理、納期管理、品質管理、棚卸、などの、所謂パーチェシング系業務や、調達リスク管理やCSR関連などの業務になります。一時期契約業務と購買業務を役割分担し、契約業務に力を入れるべき、という人材配置が行われてきましたが、現状その逆に舵取りをせざるを得ない状況になっているようです。

しかしモノづくりの支援部隊の調達購買部門も若手の不足、ノウハウの継承者がいない、というモノづくりの現場同様の問題を抱えています。今はどうにかこうにか回せていても、そのうち疲弊化していく可能性が高い状況です。

サプライヤの供給力不足とモノづくりの現場の弱体化、この2つの課題に共通するのは「モノづくり現場の軽視」かもしれません。私が大学を卒業して自動車会社に入社して最初に先輩から教えられたことは「工場の現場が一番多くボーナスをもらうのがあたり前」ということです。この頃はまだ日本製造業全体で現場を重視していた時代だったと言えます。

モノづくりの現場を重視し重点的に人材配置、人材育成、ノウハウ継承をしていくことが必須であり、今がその最後のチャンスと言えるでしょう。