「ダメなリーダー」には特徴がある。演出家・鴻上尚史氏が考える「最良のチームづくり」/LEADERS online
では、鴻上さんが考える最良の結果を出すチームとは?
そして、それを率いるリーダーの在り方とは?
自由闊達な鴻上さんとパーソナリティのタケ小山の会話の中に、様々なヒントがきっと見つかるはずです。
「鴻上さんご自身の話も聞かせてください」と、リーダーとしての鴻上尚史像に迫るタケ。
「そもそも何がやりたくて劇団の旗揚げを?」という質問に「表現がしたかった」と答える鴻上さん。
最初は役者として参加したが、自身の劇団を作るときに演出家を選んだのは、「客席に座って、幕が上がってから下りるまで作品を観ている者が必要だと思ったから」だ。
演出家になって、その責任範囲の広さを実感したという。
「俳優が喉を嗄らして声が出なくなっても、お客さんはなんだかつまらない作品だったね、と言うわけです。いやいや、それは作品のせいじゃなくて声を嗄らした俳優の責任だ!と内心では思うわけですが、演出家は全体の責任を取らないといけないんです」と笑う。
22歳で劇団を作って、「最初の数年は人間関係の調整で90%くらいの力を使っていましたね」と振り返る鴻上さん。
海のものとも山のものとも知れぬ旗揚げしたばかりの劇団で、売れるのかどうかもわからない状況。試行錯誤の連続だった。
「劇団員の誰と誰がくっついただの、仲が悪いだの...。あとは、せっかく早稲田まで行かせたのに子どもが大学行かずに芝居にのめり込んでしまったと嘆くご両親との攻防も。核戦争後の廃墟の芝居なのに、初日に主役の俳優がリクルートカットでやってきたなんてこともありましたよ」と振り返る。
そんなドタバタのスタートからはや36年。
鴻上さんが劇団を率いるリーダーとして最も大事にしていることは「楽しくやることですね」と、ニッコリしながらキッパリと答える。
「どんな状況になっても楽しくやろうと、いつも思ってきました」
「だけど、言うこと聞かない生意気な役者もいるでしょ?」というタケの質問に、「いますよ!」と答えた鴻上さん。
そんなときには「じゃあ初日は俺の言うとおりにしてよ、二日目はお前の思うようにしていいから。それで、どっちがお客さんの反応がいいか見て決めようぜ」なんてこともあったという。
「結局、指導力というのは情報の流通。自分には指導力がないと思い込んでいる人は、情報を抱え込んでしまっている」
今、この部署がどれくらい大変なのか、どれほどひどい状況なのか?自分の中だけで処理しようとしてしまっている。「そうじゃなくて、情報を共有することでチーム全体の意識も高まっていくはずです」。
情報を流通させることで「人のアタマが使える」ようになる。「ダメなリーダーは人のアタマを使っていないんですよ」と鴻上さんは言う。
たとえば戦時中、優れた見識を持つ多くの人が「特攻には効果がない」とデータを用いて教えていたのに、それを一切はねつけて自分の頭の中の観念だけで推し進めようとしたリーダーがいた。
現代においても、大人たち、特に男性はある年齢以上になるとプライドがあって他人の言葉が聞けなくなってしまう。
「現場の若造から、部長、そんなの意味ないですよ!なんて言われてカッとなって怒鳴りつけたりするんです」
でも、と鴻上さんは続ける。「何が大事で何が大事じゃないか。現場のものがいちばんよくわかっている。聞くことが大事なんです」。
一方、部下の方へのアドバイスとしては「情報のシェアをお願いする態度が効果的だ」と教えてくれた。
「こうしたらどうですか?」と言われるとムカッとする上司も、「今どうなっているのか教えてください」と言われて怒ることはないはず。
「どんなに忙しくても、情報の流通が大事だということをいつも思い返してほしい」
チームをデザインする際に大切なこととは?
「チーム作りの話に関連して、先日、サッカー日本代表のハリルホジッチ監督が選手とのコミュニケーション不足を理由に突然解任されるということがありましたが、演劇界でもそういうことってあるんでしょうか?」と、タケ。
僕は幸い今まではなかったけれど、と前置きしながら「そんな例は山ほどあるみたいですよ」と鴻上さん。
役者側の座長が、あの演出家ではダメだと言い出してプロデューサーに「僕を取るか演出家を取るか」と迫ると、たいていの場合プロデューサーは俳優を取るらしい。
そんなことにならないためには何が必要なのか?
「コミュニケーション力だけでもダメでしょうね。少なくとも僕は、コミュニケーションも大事にしながら、時には耳に痛いことも言う演出家でありたい」。
劇団の公演は毎回参加メンバーが変わる。そのたびに新たなチームとして動くことになるが「結構な確率でベストチームになる」という。
その理由として「事前に必ず評判をチェックする。つまり、性格がいいかどうかを確認するんです」。
ここで言う「性格の良さ」というのは、「無駄かもしれないトライアルをやってくれるかどうか」だ。表現というのは最短距離でゴールにたどり着けるものではない。三日間稽古をしたけれど、全部無駄でしたなんてことも起こるのが芝居の世界なのだ。
「それを面白いトライアルだと思ってくれる人か、三日間を返せ!と感じる人か」を見極めることが大切になる。
「試行錯誤やトライアルを楽しめない人は、仕事がなくなっていくでしょうね。だって、それじゃあいいものは作れないから」。パターンで作ってもつまらない。「今まで観たことのないものがここにはある」と観客に思ってもらうためには試行錯誤が必要で、それが表現を追求するということだ。
「チーム作りには作戦が必要」という鴻上さん。
チーム力は総力戦だから、個人の資質だけではなくチーム内でのバランスや力関係も大事な要素になる。
「ものすごく性格は悪いんだけど切れ者のやつと、すごく性格がいいんだけどあまり賢くない人。仕事はできないんだけど宴会部長としては最適なムードメーカー的存在や仕事はともかく若い者の面倒見が良いやつ。総合戦力を考えつつ、地盤沈下しないようなチームをデザインしていくのがチーム作りです」
そして、大事なのは、一人一人を「知る」こと。そのために、一人ずつとじっくり飲んで話をする時間を必ず作るようにしている。
「試行錯誤ができる組織」がいいという鴻上さん。
「全く働いてないけど、あの人はいったい何をしてるの?という組織はいい組織です。どうしようもない人間も抱擁できる組織は余裕のあるいい組織です」
鴻上さんが、仕事の上で最も大事にしているのは「寝ること」だ。
7時間から7時間半は寝るようにしている。
「クリエイティブなことをしようと思ったら、それくらい寝ないと頭は回らないと僕は思っています」
5時間の睡眠でも、仕事を進めることはできる。
「でも、本当の意味で深く考えていない気がしますね」
ルーティーンで単にこなしているだけになってしまうのだ。
「待てよ、もっと本当にベストなアンサーはないか?ベターなアイデアは浮かんだけど、ベストがあるんじゃないか?と考えるには、十分に寝ておかないと思考が働かない」
鴻上さんの芝居には、いわゆる「名セリフ」と呼ばれるものが多い。鴻上ファンの中にはそれらの言葉を大切にしている人がたくさんいる。
だが、「芝居の名言みたいなものも、相当頭を絞るんですか?」と聞くタケに対する鴻上さんの答えは「セリフはあくまでもキャラクターの言葉なので、名言を書こうとは思っていないんですよ」というものだった。
ふと思い浮かんで書き留めるようなこともあるが、ほとんどの場合は役者とのキャッチボールの中でいい言葉がパッと浮かぶのだという。
以前書いた芝居の脚本で、アルバイトをしながら小説家を目指していた若者が、しばらくしてそれを諦めた時に年上の姉御が「あのね、才能っていうのは夢を見続ける力のことなんだよ」という場面があって、「我ながらいいこと書いたねってホロっとしました」と笑う。
「キャラクターが生きていると、ポロっといいセリフが出てくるんですよ」
脚本を書く際には、テーマに関することについては徹底的に調べて勉強するようにしている。
専門家や業界の人が観に来た時に「なまぬるい」「間違っている」と思われたくないからだ。
はじまりの場面から順に書いていくこともあれば、最後の場面のイメージが浮かんで、そこに向かうためには?と遡って書くこともあるという。
70歳になっても80歳になっても書いていられたらいいな、と考えている。
「脚本家の仕事には、これで終わりという意識がないですね。それがいいのかどうかわからないけど」
最後に、タケはこっそり鴻上さんにこんな相談をしてみた。
「ラジオ番組がもっと広く受けるようにするにはどうしたらいいですか?」
「あはは」と気持ちよさそうに笑った後で、鴻上さんはこう言った。
「結局大事なのは、コンテンツ。内容が面白ければ、とても可能性のあるメディアだと思う」
嬉しそうに大きくうなづいて目を輝かせたタケ。何か大きなヒントを見つけられたのかもしれない。