新規事業における素朴な疑問 (12) 先送りされる検証/日沖 博道
弊社が以前にお手伝いした、ある情報技術を応用したB2C(消費者向け)タイプの新規事業が、事業企画の最終段階に至って有料サービスとしての試行を実施してみたところ、登録実績がまったく上がらず、結局は正式サービス化を断念することになったとクライアントから知らされた。この段階での中止は幣社にとっては極めて珍しい事態である。
実はその直前に試行サービスの状況が悪いことは聞かされていたので、「青天の霹靂」ではなかった。結論から言うと、そもそも市場ニーズがなかったのだと関係者は判断したのだ。
では試行サービスに至るまでの段階でどんな検証をしてきたのかを尋ねてみると、驚いたことにほとんどやっていないに等しいことが判明した。唯一実施した検証は無償での登録テストを小規模にやってみただけで、これは「スムーズに登録できる」ことを確かめたに過ぎない。肝心の「このサービスにお金を払う価値を認める人たちが十分いるのか」という検証はこの試行サービスまでやっていなかったのだ。
このサービスはかなり趣味性が高いもので、この趣味を持つ人たちを呼んで「本当にこんなサービスがあったらお金を払いますか?幾らまでなら払いますか?」という個別またはグループインタビューをやるべきところを、実際にはまったくやっていなかったのだ。
それさえ早めにやっていれば、想定していたサービスには早々に見切りをつけることができたはずで、もしかするとサービス内容を大幅に切り替えた上で(これを「ピボット」という)、やり直しが許されたかも知れない。
このコラム記事欄でも時折指摘させていただいているが、他のケース以上に新規事業の企画に関しては仮説だらけなので、それらの検証は数次にわたって段階的に行うべきだ。
https://www.insightnow.jp/article/7927
https://www.insightnow.jp/article/8869
なぜ段階的か?それは人手・コストなどでの負担が大きい本格的な検証(実地での試行サービスなど)の前に、手軽な手段(専門家やユーザー像に近い人へのヒアリングなど)で検証しておけば、仮説を早めにブラッシュアップできるし、必要なら軌道修正できるからである。今回のように試行サービスまで基本的な検証が先送りされるのは避けるべきパターンである。
実はこの前段での弊社の関与はちょっと特殊だった。既に立ち上げていた無償サービスをそのまま展開させるのに不安を感じた幹部が抱えていた、「なぜこのセグメントなのか、他のセグメントにもっと有力なところがあるのではないのか?」という論点に対する答と、当該セグメントの市場規模の推定を担当させていただいたのである。このセグメントが最有力であることは結論づけたが、実際のサービスの戦略や内容に関しては口出ししていなかったのだ(正直、あまりに趣味性が強いため、内容について弊社が助言できることは少なかった)。
弊社としては事業化に伴う幾つかのリスクを指摘するとともに、このサービスを無償から有償へ切り替えるにあたっての検証を早めにするよう促してはいたが、その実施までは弊社の関与の埒外となってしまっていたのだ。とはいえ、こうやってサービス断念の事態になってしまうとやはり悔しいし、そうした検証も当初のプロジェクト範囲に含むべきだったと反省している。