25年の歴史に幕──「PHS」通信サービスが2020年7月で実質終了へ/LEADERS online
一般向けPHSの全プラン・オプションのサービス提供が終了に
今年(2017年)4月、ワイモバイルブランドのPHS事業を共同展開するソフトバンクとウィルコム沖縄は、法人向けの一部サービスを除くPHS料金プランの提供を2020年7月末で終了すると発表。
終了するサービスは、音声端末で利用できる「新ウィルコム定額プラン」「新ケータイプラン」をはじめ、IoTの先駆けとなった「おしらせ窓センサー専用プラン」「カーナビ・ライトプラン」など、一般向けの全プラン・オプションが対象となります。現在、日本でPHS事業を手がけるのは同グループのみで、1995年に始まった国内のPHSサービスは実質的にすべて終了することになります。
2020年7月以降、端末を含めたPHSサービスは利用できなくなりますが、現行のユーザーは同じ番号のままスマートフォンなどの携帯電話に移行できるそうです。現在、ワイモバイルではPHSから携帯電話に機種変更すると、国内通話定額「スーパーだれとでも定額」のオプション料金や、契約事務手数料が無料になるキャンペーンを展開するなど、PHSユーザーへの周知と早期の移行をうながしています。
一方、自動販売機などの機器管理・監視に使う法人向けの「テレメンタリングサービス」は、2020年7月以降もサービスが継続されますが、新規の受け付けは2019年3月で終了するとのことです。
携帯電話にはないPHSならではの強みでユーザーを獲得
では、20年以上前に登場したPHSは、どのような経緯で普及していったのでしょうか。今回の終了決定に至るまでのPHSの歩みを見ていきましょう。
PHSは「Personal Handyphone System」の略で、1995年7月にNTTパーソナル(現・NTTドコモ)とDDIポケット(現・ソフトバンク)がサービスを開始しました。ちなみに、PHSと携帯電話は使用する通信電波の規格が異なることから、日本では法規上で両者を明確に区別しています。
高出力の電波で広域をカバーする携帯電話に対して、一般電話回線から専用アンテナを介して使用するPHSは、家庭用のコードレス電話を発展させたシステムのため、一つの基地局がカバーする範囲は半径500m程度の狭い区域に限定されます。その分、近距離でのクリアな通話を得意としており、当時の携帯電話ではつながりにくかった地下街・地下鉄構内などで通話できることや、音声品質の高さが大きな売りでした。また、発売当初は携帯電話より通話料金が安く、端末も小型でオシャレだったことから、若者や学生を中心に「ピッチ」の愛称で人気を集め、ピークの1997年には契約件数が700万件超に達しました。
時代のニーズとともにPHSの存在価値が薄れて利用者が減少
しかし、2000年代に入ると携帯電話各社が対抗して料金を大幅に引き下げ、通話エリアや音声品質も改善させたことで、「つながる・高音質・割安」というPHSの強みは徐々に薄れていきます。
さらに、2008年に国内で「iPhone」が発売されたのを機に、携帯端末でサイトや動画を閲覧するスタイルが浸透し、通信速度が遅いPHSは携帯電話に押されて利用者が減少。
そうした中、2008年にはNTTドコモがPHSサービスを終了し、2010年にはPHS事業を手がけてきたウィルコム(DDIポケットが社名変更)が経営破たんする事態に追い込まれました。その後、ウィルコムはソフトバンクに吸収合併され、ワイモバイルブランドでPHSサービスを続けてきましたが、2015年以降、PHS端末の新機種は投入されず、契約件数も減少の一途をたどっていました。
ちなみに、2017年12月時点のPHSの契約件数は約278万件(前年比・約20%減)。これに対して、スマートフォンをはじめとする携帯電話の契約件数は約1億6700万件(前年比・約4%増)と、モバイル通信業界で圧倒的なアドバンテージを有しています。ソフトバンクグループとしても、ユーザーの取り込みが見込めないPHSにコストをかけて細々と維持するより、ここで見切りをつけて次世代の通信設備投資に回すのが賢明と考え、今回のサービス終了という決断に至ったのではないでしょうか。
四半世紀にわたるPHSの歴史を振り返る
では最後に、PHSの四半世紀にわたる歴史とPHS関連の主な出来事を、年代を追って振り返っていきましょう。「そういえば、あんなことあったなぁ」……と、いろいろ思い出されますね。
【1995年】NTTパーソナルとDDIポケットがPHSサービスを開始
【1997年】PHS契約件数が700万件を超えてピークに達する
【1998年】NTTパーソナルがNTTドコモに営業譲渡
【1999年】携帯電話とPHSの電話番号が11桁に増え、PHSは最初の3桁が「050」「060」から「070」に変更される
【2001年〜】携帯電話を追ってPHS端末の多機能化が進み、インターネットに接続できる機種や、デジタルカメラ搭載の機種が次々と登場
【2005年】DDIポケットがウィルコムに社名変更し、マイクロソフト「Windows Mobile」を搭載したスマートフォンを「iPhone」に先がけて発売
【2008年】NTTドコモがPHSサービスを終了
【2010年】ウィルコムが経営破たんし、ソフトバンク傘下で同事業を再始動
【2013年】PHS専用の電話番号「070」が携帯電話でも使用可能になる
【2018年】ソフトバンク・ウィルコム沖縄が一般向けPHSの新規契約受け付けを終了し、2020年7月末で同サービスを終了すると発表
── こうして、2年後の7月末をもって幕をおろすPHS。
超高速・大容量の次世代移動通信システムが進化し続ける現代において、一時代前の古い通信方式となったPHSが、その役目を終えるのは仕方のないことかもしれません。モバイル通信の主役となることはできませんでしたが、業界の中で一つの時代を築き、身近なコミュニケーションツールとして親しまれたPHSの存在は、これからも多くの人の記憶に残ることでしょう。
※参考/総務省HP、ソフトバンク・ワイモバイルHP
≪記事作成ライター:菱沼真理奈≫
約20年にわたり、企業広告・商品広告のコピーや、女性誌・ビジネス誌などのライティングを手がけています。金融・教育・行政・ビジネス関連の堅い記事から、グルメ・カルチャー・ファッション関連の柔らかい記事まで、オールマイティな対応力が自慢です! 座右の銘は「ありがとうの心を大切に」。
【記事元】
日本クラウド証券株式会社 https://crowdbank.jp
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【転載元】
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