野町 直弘 / 株式会社クニエ

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前回の「全員経営全員購買」という記事に対してこういうご意見をいただきました。

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全員購買にしても全員経営にしても、日本のように均質な人材が豊富な社会でないと難しい。また全員購買には違和感を覚える。設計者が購買までやったら、設計者の発想の中での購買に終始するからだ。設計者からバイヤーへとバトンが繋がるから設計者の発想、バイヤーの発想がぶつかり合い洗練された終着点にたどり着くものと考えている。

ある購入品の原価を下げる打ち合わせを設計者としたとき、設計者は、必要な機能に特化した専用品を採用することでコストを下げようとした。しかし、専用品を採用すると、特定のメーカからしか買えなくなり、採用後は競合環境を消失する。また、汎用品に比較し生産数が少なくなるので、メーカの数量効果も低くなる。だから、専用品の採用は、継続的な原価低減に繋がらないとアドバイスした。そのとき、設計者は、目から鱗だと、素直に驚いていた。

このように全員購買は、1つのものの購買を1つの組織で完結させてしまい、捉える視点が1つになり、決して良いことだとは思えない。

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私は上記のご意見に全く異論がありません。実は同じような経験を私も過去にしたことがあるからです。それは私が自動車会社の購買で原価企画に絡んでいた時のことでした。

その当時原価企画は非常にたくさんある仕向地、グレードの中でも主要な車型を取り上げて原価企画対象車型として推進していたのです。全ての車型について原価のフォローアップをする訳にはいかないので、代表車型についてのみ企画開発段階で原価目標の達成状況をフォローしていました。

この時新車開発責任者は安価仕様車を代表車種の一つとして取上げました。もちろん仕様がチープでも安価であれば市場シェアが高まることを期待してのこともありましたが、同時にこの車型を設定することで原価企画目標を達成しやすくするための手法でもありました。

安価仕様車はとてもチープな仕様なので、コストもその車型だけを捉えるととても安くなります。しかし結果的に部品の種類が増えます。またそれによって却って総コストは高くなります。

新車開発責任者がこういう実態を知らない訳がありません。しかし社内の厳しい原価企画目標をクリアする手法としては有効なのです。ですから全体最適よりも個別最適を選択してしまう。このようなことが起きてしまいました。ですからご意見の「複数の視点で捉えること」の重要性については私も全く合意です。

このように考えると「購買でないとできないこと」は必ず残るのかもしれません。それは何でしょうか。大きく分けると2つでしょう。

一つ目は「全体最適の推進」です。先の事例であれば購買部門が全体にかかるコストをまとめて種類増によって総コストが増えるからやめるべきだと、新車開発責任者にアドバイスすべきです。またこの他にも全社でのまとめ買いのアレンジなども上げられます。

汎用品(家電品等)や汎用サービス(航空券)などを購入する際に、「自分で買った方が会社手配よりも安い」というご意見をいただくことがありますが、これも全体で見て最適になっていることを求めるからです。

もう1つは「サプライヤとの関係性づくり」が上げられます。
これは企業の中でできる、もしくはやらなければならないのは唯一購買部門です。短期的な関係性だけでなく、中長期の関係性をどのように作っていくのか。サプライヤを評価し、時には評価され、共に協働で競争力を切磋琢磨していく。このような視点は他部門の人間に持て、と言っても全く無理なことです。

このように「購買でないとできないこと」は必ず残ります。
しかし「購買でないとできないこと」は分り難いです。特に開発部門や要求元などのユーザーには分り難いことでしょう。「サプライヤといい関係ができたから、何のメリットがあるのか。」となってしまいがちです。
これからの購買はこの「購買でないとできないこと」が何かを社内に説明し、説得する必要があるでしょう。