3月17日、北海道夕張市で開かれた「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」。500人を収容できる体育館の巨大なスクリーンに、女性器のモノクロ写真が次々と映し出された。映画『スティルライフオブメモリーズ』の一場面だ。矢崎仁司監督が振り返る。

「尖った映画なので観客の反応が怖かった。(シュルレアリスムの鬼才)ルイス・ブニュエル監督のように、観客に投げる石をポケットに入れている気分で上映に立ち会いました」

 安藤政信(42)演じる新進気鋭の写真家と恋人、彼に自分の女性器を撮らせるキュレーターの女性の三角関係を描く作品。キュレーターの女性を演じるのは慶應大卒の女優・永夏子(34)だ。

 この問題作には、実在のモデルがいる。アンリ・マッケローニ(1932〜2016)。フランス・ニースに生まれ、ポストシュルレアリスムの画家として活躍していた彼は、1969年、スイスで突然、女性器に魅了された。

《そのころ、スイスのマルティニーで私の絵画の回顧展をしていた。当時、私は常にクロッキー帳と古いカメラを持ち歩いていた。私は女の友人と一緒にいて、彼女は昼寝をしていた。暑かった。上のほうから日光がさして、ちょうど彼女の露わになった性器を照らしていた……。

 私はデッサンするよりむしろ、写真に撮った。もちろん、彼女が目覚めるとそのことを告げた。街の写真屋では無理だったので、友人に現像を頼んだ。結果は素晴らしかった》

 彼は著書で生前、そう述懐している。

 それから、マッケローニは女性器の接写に没頭し、この女性の女性器を2年以上、撮り続けた。モデルの女性に ついては、名前も素性も、顔も明らかになっていない。

 ただ女性器だけが、1978年に出版された写真集『ある女性の性器の2000枚の写真から選ばれた100枚』に収められた。モノクロの写真には、彼女のふくよかな小陰唇、豊かなヘア、芽を出した陰核までが克明に収められている。

 映画のプロデューサー、伊藤彰彦氏が語る。

「マッケローニは一人の女性の女性器を2年間で2000枚撮っている。1万枚という説もあります。写真集を見ていると、女性器の表情が刻々と変わっていく。息を吞む美しさがあり、これを映画にしたかった」

 マッケローニは84歳で天寿を全うするまで、6人から7人の女性器を撮り続け、人生を女性器撮影に捧げた。

「たまたま絵を見に行って、隣できれいな女性が同じ絵を見ていた。声をかけ、お茶を飲んで、30分後には、その女性の女性器を撮っていた。色男というか、女性に心を開かせる天賦の才があったのですね」(伊藤氏)

 だが、作品は世間の反発を買った。

 1977年の展覧会では、女性解放運動家たちの罵詈雑言を浴びた。マッケローニはこう言い返したという。

《自分の股に何があるか知らないんだろう!》

 しかし、女性に叩かれた彼を守り、彼の写真を世に広めたのは女性のギャラリスト(画廊を持つ美術商)たちだった。

「日本にマッケローニの写真を紹介した『アート・スペース美蕾樹』のオーナー・生越あき子さんはマッケローニの写真に魅了され、パリまで会いに行きました。

 彼は目を合わせると頰を染めて、消え入るような声で『個展は勘弁してください。突き上げられるのはもう懲りました』と答えたそうです。生越さんは『シャイで少年のようにピュアな人。だからああいう写真が撮れたのよ』と語っていました」(伊藤氏)

 マッケローニは、女性器を撮る理由をこう語っている。

《(女性を物として扱う)ポルノの波に抵抗するメッセージ。女性器の美しさを表現したかった》

※『スティルライフオブメモリーズ』は東京・新宿K’s cinemaで7月21日から公開

(週刊FLASH 2018年4月17日号)