2月9日に開幕する冬季平昌五輪羽生結弦(ANA)が開会式当日から行なわれるフィギュアスケートの団体戦を欠場して、16日から始まる個人戦に照準を合わせる見込みというニュースが報道されたが、実際はどうなるのか。


ソチ五輪では唯一の金メダルを獲得した羽生結弦

 団体戦のショートプログラム(SP)に出場すれば、個人戦まで中6日ある。五輪特有の緊張感を一度経験して試合勘を取り戻すことで、より万全な状態で勝負の場に臨むことを優先する可能性も捨てきれない。どちらにしても羽生は、自分の力をしっかり発揮できると判断したタイミングで出場を決めるだろう。彼の集中力の高さと、緊張感のある状態での気持ちのコントロール能力の高さを考えれば、出場する限りは優勝候補筆頭であることは間違いない。

 また、男子ではどこまで羽生に迫れるかが注目の宇野昌磨(トヨタ自動車)もメダル圏内だ。今年1月の四大陸選手権では300点台に届かずボーヤン・ジン(中国)に敗れたが、フリーのジャンプ構成も決めて、あとは本番に向けてしっかり調整するだけの状態になっている。個人よりも先に行なわれる団体戦でいい流れを作れば、ソチ五輪の羽生のように自信を持って個人戦のSPにも臨めるようになるだろう。

 女子はロシアのエフゲニア・メドベデワとアリーナ・ザギトワの力が突出した状況で、銅メダル争いが激化しそうだ。

 日本のエース宮原知子(関大)のライバルになるのはケイトリン・オズモンドと、1月のカナダ選手権で229・78点を出して優勝したガブリエル・デールマンのカナダ勢ふたりさらにベテランのカロリーナ・コストナー(イタリア)だろう。その中でも宮原は、ノーミスはもちろんのこと、スピードに乗った演技をすればメダル獲得も十分可能だ。

 前回の2014年ソチ五輪では、金メダル1を含めて8個のメダルを獲得した日本だが、今回の平昌五輪はそれ以上のメダル獲得が期待されている。その原動力となるのは、前回はメダル0に終わったスピードスケートでの女子の充実だろう。

 その筆頭が、500mでは昨季から国際大会を含めて無敗記録を続けている小平奈緒(相沢病院)だ。男子と練習する中で滑りをさらにダイナミックにし、W杯第2戦のスタヴァンゲル大会(ノルウェー)では2本を、37秒08と37秒07のタイム。昨季終了後に小平が「見えてきた」と話した、前人未到の平地(標高1000m未満)での36秒台の可能性も感じさせた。

 一緒に練習している山中大地(電算)は、前回五輪出場の1000mだけでなく、500mでもW杯ランキングで日本人トップの7位。実績ある選手と練習をすることで小平が持った自信は、ちょっとやそっとでは揺るがない。

 1000mも今季W杯で転倒したカルガリー大会以外のすべてのW杯で優勝しており、彼女自身がコーナーの滑りを卒論のテーマにしたほど好きな種目だ。女子2種目目の1500mにも出場して足慣らしできることも、大きなプラス材料だろう。

 また、高木美帆(日体大)もW杯1500mで4連勝していて優勝候補筆頭の位置にいる。ただ、「W杯で勝っているからといって絶対だとは思っていない」と高木が言うように、本番に向けて調子を合わせてくるヨーロッパ勢などの巻き返しも気になるところ。とはいえ、メダル獲得は堅いだろう。

 W杯では、3戦すべてで小平に次ぐ2位になった1000mでも高木美帆のメダル獲得の可能性は高く、彼女を中心にして姉の菜那(日本電産サンキョー)と菊池彩花(富士急)、佐藤綾乃(高崎健康福祉大)で組むチームパシュートも、今季W杯で3戦連続世界記録更新の絶対的な強さを見せている。この種目もオランダ勢の巻き返しが不気味だが、金メダルに最も近い位置にいる。

 以上のように、金の可能性は500mと1000m、1500m、チームパシュートの4種目にある。さらに500mでは今季ソルトレイクシティで世界歴代9位の37秒05まで記録を伸ばした郷亜里沙(イヨテツク)も銅メダル候補。高木菜那と佐藤が出場するマススタートは展開次第だが、W杯では3位と1位という実績もあるだけにこちらもチャンスがあり、スピードスケート女子でメダルを量産しそうな勢いを見せている。

 スキーで金メダル候補はノルディック複合の渡部暁斗(北野建設)だ。今季は第2戦で優勝するいい滑り出しをして、開幕戦直前に負った肋骨骨折が癒えた年明けからは、ゼーフェルト3連戦で全勝したほか、2月3日に行なわれたW杯白馬大会でもきっちりと優勝を果たした。

 4日の試合は風の条件が悪くてジャンプで出遅れたものの、このところなかった集団での競り合いも久しぶりに経験して3位に入った。平昌のジャンプ台は風の変化も激しいだけに運も必要になるが、順当にいけば優勝争いには加われる。金メダルの確率はノーマルヒル、ラージヒルとも50%くらいだが、メダルの確率となると一気に跳ね上がるのは間違いない。

 スノーボードでも前回、銀メダルの男子ハーフパイプ・平野歩夢が、今年1月末のXゲームで連続4回転を決めて優勝と調子を上げている。打倒・王者ショーン・ホワイトなるかに注目したい。

 女子は鬼塚雅(星野リゾート)が、2015年世界選手権で優勝、2017年も3位になったスロープスタイルで優勝候補に挙げられている。新種目のビッグエアでもW杯第2戦で2位となっており、2種目でメダル候補だ。

 スロープスタイルではもうひとり、W杯第2戦で2位になった16歳の岩渕麗楽(れいら/キララクエストク)もメダル候補に浮上している。前回、銀メダルのアルペン大回転の竹内智香(広島ガス)はまだ調子を上げ切れていないが、男子ハーフパイプと女子スロープスタイル、ビッグエアで金メダルを含む複数メダルの期待は大だ。

 フリースタイルスキーも、男子モーグルでは堀島行真(いくま/中京大)が2017年世界選手権でデュアルモーグルを含めて2冠を獲得して優勝候補に挙がっている。また、前回銅メダルのハーフパイプの小野塚彩乃も、昨年12月のW杯で転倒して脳震とうを起こしたが、1月のW杯では3位と復調している。

 史上最多8度目のオリンピック出場となる葛西紀明が注目を集めるジャンプで、男子は厳しい状態だ。では、女子はどうか。シーズン開幕からマーレン・ルンビ(ノルウェー)とカタリナ・アルトハウス(ドイツ)の勢いに後れをとった高梨沙羅(クラレ)にもメダルの可能性はある。

 まだ今季のW杯で未勝利とはいえ、平昌前最後の試合となったリュブノ大会の2日目の4位は、上位3人より風の条件が悪い中でのジャンプだった。それでいて、優勝したダニエラ・イラシュコ(オーストリア)には5.8点差、3位のアルトハウスには2.7点差という僅差の戦いをすることができた。

 ずっと課題にしていた着地のテレマーク姿勢も決まり、飛型点は55.5点、56点と2本とも全選手中最高得点を叩き出している。苦手だったテレマークを決められるようになったのは、踏み切りからのつながりがよくなってきたという証拠。上り調子で本番を迎えられそうだ。

 このように、雪上競技も金メダルを含め、メダル量産の可能性を秘めている。

 これまでの冬季五輪での最高メダル獲得数は、1998年長野五輪の金5、銀1、銅4の合計10個。今回の平昌は金メダルの数も含めて長野の記録を上回り、総数でも過去最高となりそうな勢いを感じる。

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