パスタを茹でる時によく言われる「アルデンテ」。言うまでもなく、パスタの茹で加減で歯ごたえのある状態を指す言葉で、日本でもすっかりお馴染みとなっている。料理をするしないに関わらず、知らない人はほとんどいないと言っていいだろう。

この「食べ物をちょっと固めに茹でる」というのはなにもパスタに限った話ではない。よくあるところではラーメンやうどんの麺、ブロッコリーなどの野菜も「固めに茹でる」が推奨されがちな食べ物。カレーライスのごはんも、少し固めに炊き上げたほうが好きという人は多いだろう。固めに茹でた食べ物は、それだけで美味しい気がするし、なんだったらちょっと通っぽい感じもある。

当然、パスタをアルデンテにするのだって同じ理屈だと思っていたら、先日イタリア人の友人にあることを言われて驚いた。それは……

「パスタを茹ですぎると消化に悪いよ」

というもの。え……そんなことってあるのか?

どうやらこの感覚、イタリアでは常識らしいのだが、考えれば考えるほど意味がわからない。だって長く茹でるってことは、パスタが柔らかくなるってことだ。柔らかいものが消化に良いって、万国共通の常識だろう。小さい頃に風邪をひくと、うどんばかり食べさせられていたのはいったい何だったのか。

どうしても納得がいかなかったので、ちょっと調べてみた。

パスタはよく茹でたほうが消化に悪い


そもそも、少し固めよりも、よく茹でたほうが消化に悪いのはなぜなのだろうか。それはパスタの主成分であるデンプンとグルテンが関係している。

一般的に小麦粉に含まれているグルテンはデンプンを包むこむ形で存在していて、この形状のほうが消化酵素が入り込みやすく、消化しやすいという特徴があるらしい。しかし、長時間茹でたパスタはこのデンプンが流れ出てしまうため、消化酵素が成分を分解しにくくなってしまう。そのため、パスタは茹ですぎると消化に悪くなるという現象が起こってしまうのだ。
ちなみに、パスタにはほかにもビタミンB1などの栄養素が含まれているが、長く茹ですぎることでこれらも茹で汁に流れ出てしまうため、栄養価も低くなってしまう。

もちろん、あまりに茹で時間が短いと芯が残りすぎて食べにくく、それはそれで消化が悪くなってしまうのだろうが、かといって茹で過ぎもよくない。目安としては、やはり袋に書かれている目安を守って、程よい時間で茹でるのがベストのようだ。

生パスタにはアルデンテが存在しない?


もう一つ、パスタはどんなときでも「アルデンテ」が正解かと思っていたら、実はそうでもないらしい。生パスタにはそもそも、アルデンテという状態自体が存在しないというのだ。

繰り返しになるが、アルデンテとはパスタの芯にちょっと歯ごたえが残っている茹で加減を指す。そのためには、芯の部分は水分含有量が低くてかたい、外側は水分を含んで柔らかいという状況が必要になる。この水分量の差が、アルデンテ特有のプチプチとした食感を作り出すのだ。

しかし、生パスタはもともと乾燥工程を経ていないため、全体的にしっとりしている。そのため、芯と外側の部分で水分含有量の差が生まれにくく、茹で時間に関わらずアルデンテの食感にはならない。生パスタの場合は、歯ごたえを楽しむのではなく、もちもちとした食感を楽しむのが正解といえるだろう。

というわけで、短くても長くてもよろしくないパスタの茹で時間。袋に記載されている時間通りに調理するのが、消化にもよく、美味しいパスタを作るための第一歩と言えそうだ。

(鈴木圭)