バブル世代と氷河期世代は折り合いが悪い?(写真:xiangtao / PIXTA)

最後の大量採用世代「バブル入社組」が50歳を超え、人生の岐路に立たされている。『バブル入社組の憂鬱』を執筆した人事・組織コンサルタントの相原孝夫氏に詳細を聞いた。

バブル世代対氷河期世代のような構図

――バブル入社組は、会社で大きな「人材の塊」になっているはずです。

世代的特徴として、「コミュニケーション能力が高い」と評される一方、「根拠なく楽観的」「見栄っ張り」「会社に依存」ともいわれ、ひとつ下の世代、手堅い意識を持つ「氷河期世代」と鋭く対立することもある存在だ。

――最近、元気がないとか。

50歳が近づいたころから、元気がない。役職定年が50歳程度まで下がった会社が増えている。その年齢で無役職や部下なし専門職になる。最近は、年上の部下や年下の上司が当たり前の状況になってきてもいる。60歳から再雇用され65歳定年としても職業人生として先はまだ長い。あと10〜15年どうやっていくか。

――人数自体は多い。

1つのチームの半数までがバブル世代とその上の世代という職場はいくらもある。これまでのようにリーダーの下は年下のメンバーといった統治しやすい状況ではなくて、半分ぐらいがシニアで、女性社員も少なくなく、場合によっては外国人がいて、非正社員もいる人員構成だ。ダイバーシティが進み、かつてとは比べようもなく複雑さを増している。

――個々のチームのマネジメントでさえ大変。

年次の最上位に元気のない人が大量にいるのは企業としても思いのほか大きな問題だ。ただ、今はまだ本格化前の段階で、チームに高度なマネジメントが要請されているものの、バブル世代のひとつ下の氷河期世代が優秀だから何とかやっていけている。

――両世代のぶつかり合いが厳しいともいわれます。

バブル世代と氷河期世代は折り合いが悪い。少し前、バブル世代が課長職で、氷河期世代が管理職手前ぐらいの状況のときは比較的問題はなかったが、年代が少し進みバブル世代が部長、氷河期世代が課長となったころから関係性が悪くなった。課長は現場の指揮官であるから氷河期世代が発言力を持つ一方で、バブル世代が上にけっこうな数いて邪魔だという構図だ。

バブル世代はまだ存在感を発揮したいところがあり、軋轢は強まる。採用が一気に絞られた氷河期世代は優秀といわれていて、同時にプライドも高い。その一方で大量採用のバブル世代は優秀でないとも思われていて、バブル世代対氷河期世代のような構図ができてしまった。

――世代対立の構図ですか。


相原孝夫(あいはら たかお)/HRアドバンテージ社長。1965年生まれ。早稲田大学社会科学研究科博士前期課程修了。マーサージャパン副社長を経て現職。人材の評価、選抜、育成および組織開発にかかわる企業支援が専門。著書に『ハイパフォーマー 彼らの法則』など(撮影:尾形文繁)

バブル世代の部長、課長がもうじき役職定年になって本格的に降りる。そうなると、氷河期世代が課長や部長になったその下に、無役職の先輩社員が入ってくる。これがまた厄介だ。

バブル入社組の評判を落としている張本人は氷河期世代なのだ。「ゆとり世代」はぐーんと離れているので当時者意識がないし、その上の「新人類世代」はバブル世代と近しいので仲がいい。

氷河期世代にバブル世代の評価をアンケートすると、「優秀な人もいる」との返答がけっこうある。「いる」の言葉には、多くはそうでないという若干見下した感がある。確かにバブル期の就職は就職氷河期と異なり実力以上の会社に入れた。わずか1年程度の違いでとの思いもあるようだ。

「根拠なき自信」と、「根拠のある自信」

――バブル世代は嫌われ者?

バブル世代の一番の特徴に「根拠なき自信」がある。本人たちは「根拠のある自信」と思っている。以前こうして成功した、また同じようにしたら成功するだろうという経験だ。実証済み、体験済みの根拠というわけだ。

確かに入社した当初の数年は自由度が高く、いろいろな取り組みができた。たとえば新規事業開発で、いきなり企画畑の自由な発想でのチャレンジをしたり。入社数年での体験は色濃く残る。当時は新たなチャレンジこそが仕事だと思えた。それは「根拠なき自信」の裏付けになり、氷河期世代やもう一つ下のゆとり世代をチャレンジしない連中と見なしがちになる。

――氷河期世代自身はどうとらえているのですか。

氷河期世代は慎重で堅実なタイプだ。バブル世代のように大風呂敷を広げるのは嫌いで、とかく着実に計画的に可能な線で物事を進めていく。そこが両世代の軋轢の原因だったりする。バブルがはじけて相当の年月が経つが、バブル世代の行動様式や思考様式はそう直るものではない。そういう世代がごそっといるのは、氷河期世代にとって厄介この上ない。

――実際の氷河期世代は「ワンピース世代」ともいえますね。

漫画『ワンピース』がよくとらえていると思う。氷河期以下の世代にファンが多く、その世代を理解するうえでのヒントになる。ひょうひょうと過ごしているように見えて、本当は熱いものを求め、深いところで仲間を大切にする共通性がある。一見、一匹おおかみ的な印象を抱かせるがそうではない。

――氷河期世代はナンバーワンよりオンリーワン志向?

採用人数自体が少なく、全員が幹部候補生として入ってきた優秀な人たちと見なされている。環境がいいだけで大量に入ってきたバブル世代とは違うとの見方をされた。バブル世代は実際には、入社数年後以降、ずっと不遇な状況が続いてきたのだが。

ここからは手本のない下山が待っている

――そして役職定年。


バブル世代は組織の中で上に行けば偉いのだとの意識を変えなければならない。「下山」と書いたが、これまではただひたすら登り詰めるイメージで職業生活を終えたが、これからは登った後の下山がある。降りてきてどこで終わるか。その下山の仕方は習っていない。前の大量採用者たち、団塊の世代はいい状況で終わっている。手本にならない。自分たちで道を切り開くのが使命なのだ。

――世代的な強みを自身でも再認識するのですね。

バブル世代の特徴は人間関係がうまい、かつ楽観的。欠けているのは自己コントロール力だ。状況を冷静に見て、強みをレジリエンスに昇華していくといい。

――レジリエンス?

「逆境力」。元来の意味は、曲がったものが形状記憶で回復していくこと。もともと厳しい競争社会をくぐり抜けてきたバブル世代なのだから。