「「Mastodonとロリコン」ブログ著者が本当に伝えたかった、「分散型SNS」の可能性」の写真・リンク付きの記事はこちら

分散型ソーシャルメディア「Mastodon」には、少なくともデータ上は全世界のユーザー登録者の60パーセント以上が日本にいるのだという。また、日本のイラストコミュニケーションサーヴィスを運営している「Pixiv」は、自社のMastodonインスタンス「Pawoo」のユーザーが20万人を超えたことを今年8月29日に発表。その翌日にはユーザー数21万人を突破したという。

なぜ、日本にはこれほどMastodonユーザーが多いのか? MIT Center for Civic Mediaのディレクター、イーサン・ザッカーマンはこの謎に興味をもち、「その答えはロリコンにある」として自身のブログに投稿した(「Mastodon is big in Japan. The reason why is… uncomfortable」)。

日本のネット上では、マストドンとロリコンの関係について記述した前半部分に注目が集まりがちだったこの記事。しかしザッカーマンがこの記事を出した目的は、もちろんロリコン批判ではない。彼が論じたかったのは、独自ルールでコミュニティーを運営できる分散型パブリッシングの可能性と課題。そして、LGBTQなど、広く一般的に理解されることが難しい考えや話題の受け皿となってきたインターネットの役割だった。

以下、本人の許可のもと、ブログを翻訳し全文掲載する(見出しと画像キャプションは編集部による)。


“独自のルールをもてる”というMastodonの強み

Mastodonを覚えているだろうか。2016年10月に24歳のドイツ人ソフトウェアエンジニア、オイゲン・ロッコーが立ち上げたソーシャルネットワークで、Twitterの代替とも言われている。2017年4月、そのMastodonによる興奮の波が米国に押し寄せた。わたしは、CloudFlare(編註:無料のCDNサーヴィス)が白人至上主義サイト「Daily Stormer」へのサーヴィス供給を取りやめるというニュースを耳にしてからずっと、仲介業者による検閲対策としての可能性をもつ分散型パブリッシングについて考えている。いまこそ、興味深く、そしてちょっと困った方法で成長を続けているMastodonを理解するのにちょうどいい時期かもしれない(わたしは先日、チェルシー・バラバス、ネハ・ナルラとともに、レポート「Back to the Future: the Decentralized Web」を発表した。そのなかでもマストドンを取り上げている)。

今年4月のMastodon熱は主に「この新しい分散型サーヴィスは誹謗中傷の少ないTwitterのようなもの」というアイデアに由来するものであった。実際、Mastodonの使用感はTwitterのそれとよく似ている。とりわけ、Tweetdeckを使ったTwitterの使用感とそっくりだ。Tweetdeckは卓越したクライアントアプリであり、ロッコーもデザイン時の参考にしたことを認めている。しかしサーヴィスの構造は、Twitterの中央集権型サーヴィスとは大きく異なる。

Twitter(やFacebookなど)にアクセスすると、単一の企業が所有し単一の巨大サーヴァーのごとく管理されているクラスター・サーヴァーのひとつに接続することになる。コミュニティ内での行為は統一されたひとつのルールに従わなければならない。ユーザーのディレクトリもひとつである。たとえばわたしは、米国、日本、南アフリカなど世界中のどこからアクセスしても、Twitter上では@ethanzだ。

Mastodonは違う。オープンソースソフトウェア・パッケージであるMastodonは、インターネットに接続されたコンピューターをもつ人なら誰でも、「インスタンス」を設定できる。サーヴァー管理者がインスタンスとルールの設定・運営に責任を負うため、各インスタンスごとにルールは大きく異なる。

また、各サーヴァーには固有のネームスペースがある。たとえばわたしはoctodon.socialでは@ethanzだが、別の人がmastodon.socialで@ethanzを名乗りたければ、誰もそれを止めることはない。この点において、MastodonはFacebookとも違っていて、むしろメールに近い。メールの場合、ひとつのサーヴァー上に独自のアドレス(と独自の使用ポリシー)をもちながら、他サーヴァーのユーザーにメールを送れるからだ。

Mastodonで他サーヴァー上のユーザーとメッセージをシェアするには、「フェデレーション」をサポートしなければならない。フェデレーションとは、Mastodonの他インスタンスにいるユーザーをフォローできることを意味する。これにより、mastodon.xyzにアカウントをもちながら、octodon.socialのわたしの投稿を読むことができるという仕組みだ。

この点はTwitterやFacebookより少し複雑だが、各コミュニティが独自のルールをもてるのは大きなアドヴァンテージだ。たとえば、自サーヴァーでアダルトコンテンツを禁止したければ、それを許可しなければいい。わが子にアダルトコンテンツにアクセスさせたくなければ、NSFWコンテンツを許可しているサーヴァーとフェデレーションを結ばなければいい(編註:NSFW=Not suitable for work、職場閲覧不適切)。

日本に集中するMastodonユーザー

ギークなメディアがMastodonを取り上げ始めた4月、その主な話題は同コミュニティの爆発的な成長だった。4月だけで何万ものユーザーが参加し、このネットワークはTwitterの対抗馬になるかもしれないともてはやしたのだ。

Mastodonの成長の速さを知るのは難しい。なぜなら、Mastodonの大きさは正確にはわからないからだ。Mastodon Network Monitoring Projectが把握に努めているが、サーヴァーの新設と閉鎖がひっきりなしに起こっているのが現実だ。Mastodonのサーヴァーを運用していても、登録やフェデレーションをしなければ(招待者専用コミュニティであれば十分にありうる)、モニタリング・プロジェクトのダッシュボードには表示されない。つまり、2,400弱のサーヴァー上に登録済みの150万人のユーザーは、このネットワークの最小サイズと考えていい。

Mastodon Network Monitoring Projectが制作した国別のMastodonユーザー分布。その大半が日本にいることがわかる。IMAGE COURTESY OF ETHAN ZUCKERMAN

インスタンスを地図上に表示すると、ある事実が一目瞭然になる。Mastodonはほぼ、日本で起こっている現象なのだ。Mastodonの2大インスタンスpawoo.netとmstdn.jpは、どちらも10万人以上のユーザーをもち、ロッコーが自ら運営する「母艦」サイトmastodon.socialよりも格段に大きい。5大インスタンスのうち3つが日本を拠点にしており、Mastodon Network Monitoring Projectの見積もりでは、ネットワーク全体のユーザーのうち61パーセントが日本人とされている。

これは、それほどの驚きではない。日本ではTwitterが大流行しているからだ。彼の地ではFacebookユーザーよりもTwitterユーザーが多く、全ソーシャルネットワークユーザーの半数、全インターネットユーザーの4分の1がTwitterを利用していると言われている。

ただ、それだけでは説明が不十分だ。もう1つの要因である「ロリコン」について、ここで少し紹介しなければならないだろう(以下、文化の違いや児童ポルノについて論じる。児童ポルノを擁護するつもりはないが、許容される画像の基準は文化によって異なりうるという事実について考察を進める。それに耐えられない人は、ここから先は読まないことをおすすめする)。

Twitterから追い出されたロリコン画像

米国では、性を連想させるような子どもの画像は強いタブーだ。そのような画像に関心のある者は、それが明らかな写真であれ、理想化された絵であれ、小児性愛者と見なされる。そして、彼らが所望する素材は児童ポルノと呼ばれる(ここではあえて、8歳から12歳ぐらいの少女のハイパーセクシャライゼーションについては無視したい。文化的タブーに必ずしも一貫性がある必要はない)。

日本では、児童ポルノとロリコン(ロリータ・コンプレックスの短縮)は別物とされている。日本でも児童ポルノは違法であり、それを求めることは社会的に容認されていない。一方、紛れもなく性を連想させる男女、それどころか明確な性行為をしている男女が描かれることもあるアニメや2次元の絵を含むロリコンは合法であり、広く浸透しているばかりか、社会的にも大いに認められている。

コペンハーゲン大学のマシュー・スカラはこう書いている。「ロリコン好きはオタクと呼ばれるだけで、それほど大きな問題ではない。それは合法であり、人気もあり、あちこちの書店で買えるのだ。日本においてロリコンは合法なだけでなく広く受け入れられていることは、どんなに強調しても足りないくらいだ。単に、オタクなだけである。ところが、児童ポルノ好きは、悪質な変質者とされる。児童ポルノは、極めて違法である」

わたしの日本人の友達も、こう教えてくれた。「小児性愛趣味は、ほぼノーマルであり、許容されると考えられていると思う。ただ、米国ほどではないにせよ、いまは関連する法律が厳しくなっていて、部分的に違法であるという認識が広まっている。でも、それについて妄想するのは違法ではない」(繰り返すが、わたしはロリコンを擁護しているわけでない。ロリコンという事実があり、日本では人気があり、Mastodonの成長を理解するうえで重要な意味をもつと言いたいだけだ)

Twitterのルールでは、画像コンテンツの許容範囲は意図的に曖昧にされている(わたしはかつて、初のユーザー生成コンテンツサイトTripod.comのサーヴィス規約を書いたことがある。UGCサイトを運営するうえで、曖昧さは不可欠だ)。

Twitterの規約にはこう書かれている。「Twitterは、ツイートが不適切な画像/動画を含むものとして設定されていた場合、刺激の強いコンテンツの掲載を許可することがあります」。このガイドラインにより、Twitterの管理者は、自由にロリコン画像を削除したり、投稿者を追放したりできる。それでもTwitter上でロリコン画像を見る機会は皆無ではないが、同サーヴィスがこの種の画像削除に極めて熱心であることは明らかである。

こうしてロリコンファンは難民になった。ロリコンファンによるMastodonへの移民に詳しいスカラによると、日本のユーザーはロリコン小説や画像をシェアできるTwitter風のプラットフォームを待ち望んでいた。彼らはお世辞にも使いやすいとは言えない初期の分散型ソーシャルネットワークを利用していたが、そこにMastodonが登場し、飛びついたのだ。

Mastodonユーザーを増加させたPixivの参入

その図式に、Pixivが参入した。Pixivは日本の画像アーカイヴサイトで、アーティストが独自の絵を描くことを目的としており、非常に高い人気を博している。米国のDevianArtと似ているが、写真ではなく絵専用である点が異なる。下のサインアップページからもわかるように(編註:元記事半ばを参照)、Pixivではロリコンが大人気だ。

2017年4月、PixivはMastodonのインスタンス「pawoo.net」を運営し始めた。これが瞬く間に、世界最大のMastodonのサーヴァーとなった。Pixivのアカウントがあれば、pawoo.netのアカウントは1クリックで開設できる。pawoo.netのフィードを見ればわかるように、コンテンツの大半がロリコンであり、そのほとんどに「コンテンツに関する警告」タグが付いている。

pawoo.netの成長に反応するように、主に北米/欧州の大規模なMastodonのサーヴァーが、日本からの投稿のフェデレーションを取りやめている。自サイトのフィードにロリコンが表示されるのが不快だからだ。スカラによると、ロッコーはmastodon.socialのデータベースを書きかえ、pawoo.netを「沈黙させる」ことができるようにしたそうだ。これにより、そのサーヴァーのユーザーを明確にフォローすることを選択しない限り、投稿は表示されない。

このようにMastodonのプロトコルはロリコンの隠れ蓑に利用されており、それを不快に思っている管理者も多い。Mastodonで5番目に大きいインスタンスmastodon.cloudのサーヴィス規約では現在、「ロリコン、モラルに反するわいせつな子どもの画像」を明確に禁じている。

ザッカーマンが2017年8月17日に撮影した、「mastodon.cloud」利用規約のスクリーンショット。IMAGE COURTESY OF ETHAN ZUCKERMAN

わたしがロリコンについて調べ始めたのは、シンプルな疑問に答えるためだった。「Mastodonがこの4月と同じペースで成長しているとして、なぜ同サーヴィス上で友達に出会わないのか」という疑問である。どうやらその答えは、「Mastodonは成長しているものの、主な原動力は日本のエロにあるため」と言えそうだ。

ここで「日本の児童ポルノが分散型パブリッシングを後押し」という見出しが思い浮かぶが、ここでハッキリ言っておきたいことがある。実はこれこそが、分散型パブリッシングの可能性なのだと。

分散型パブリッシングと検閲

分散型パブリッシングは、どんなルールのもとでも運営できるオンラインコミュニティがつくれるのが魅力だ。Twitterがロリコンを認めないのであれば、ロリコンファンは独自のルールをもつ自分たちだけのオンラインコミュニティをつくることができる。

これはいま高い関心を集めている話題だ。

ヴァージニア州シャーロッツヴィルで起きたネオナチによる暴力事件を受け、多くのインターネット仲介業者(オンラインコンテンツの検索、発行、保護のために必要なサーヴィスを提供する企業や主体)が、白人至上主義組織へのコンテンツ配信停止を決定した。ウェブサイト向けスケーリングサーヴィスを提供しているCloudflareのCEOマシュー・プリンスは、自社のサーヴァーからDaily Stormerを追放する決定について、実に正直かつ単刀直入なブログ記事を書いている。彼は、どんなコンテンツでもインターネットから追い出せる力を個人的に持ちすぎていると説明しながらも、こう記しているのだ。「最悪の気分で目を覚ました今朝、わたしは、彼らをインターネットから追い出すことに決めた」。

人権活動家は長い間、仲介業者による検閲を懸念してきた。このことについては、2010年の本『Access Controlled』において、わたしが1つの章を使って紹介している。分散型パブリッシングは、仲介業者による検閲の問題を一部解決するものの、すべてを解決するわけではない。

TwitterやRedditなどのプラットフォームから追放された白人至上主義者らは、独自のルールを決められる分散型プラットフォームを見つける可能性がある(いまのところ、多くがGabというプラットフォームに移っている。Gabは分散型ではないものの、そのコミュニティガイドラインでは人種差別主義者や国粋主義者の発言を禁じていない)。

それでも、ドメインネーム登録機関やコンテンツ・デリヴァリー・ネットワークといった仲介業者が彼らへのサーヴィスを拒否する可能性があるが、ネオナチが独自のMastodonのサーヴァーを開設すれば、ロリコンファンのようにTwitterから追放されるのを心配しなくてもいいことになる。

分散型パブリッシングの利点は、検閲への抵抗ではない。実際、分散型は仲介業者による検閲に対して多少の抵抗を示すものの、それほど効果は大きくないのだ。それよりも、コミュニティが独自のルールのもとで運営できることに意義がある。Mastodonにとっての課題のひとつは、独自ルールでコミュニティを運営する理由がロリコン以外にもあることの証明だろう。

これは、匿名通信システム「Tor」が直面している問題とよく似ている。Torユーザーがオンラインでの不愉快なコンテンツの発信やアクセスのためにTorを悪用していることは明らかである。一方でTorはジャーナリスト、内部告発者、活動家にとって不可欠なツールでもある。Torは常に、商用監視を回避するためにTorを日常的に使うユーザー集めに苦慮している。そのようなユーザーは、価値ある「カヴァー・トラフィック」を提供することで、同サーヴィスを利用している内部告発者の発見を困難にしている。さらに、ツールを禁止したい人への政治的な援護射撃をすることで、児童ポルノほか違法なコンテンツ対策を支援しているのだ。

幸い、Mastodonによる恩恵を大きく受けると思われるコミュニティは存在する。Twitterのセクシズムやハラスメントに嫌気がさしているものの、同サイトが得意とする簡潔でゆるやかな交流を求めている人々のコミュニティだ。Mastodonの謎のひとつは、多くのインスタンスがまさにそのような代替スペースを提供し始めているものの、Twitterから追放されたサブカルチャーによるスペースより成長が格段に遅いことだ。いまはまだ、飴よりもムチのほうが強力なのかもしれない。

許容されない考えや話題の受け皿となる場

分散型パブリッシングの推進派には、Mastodonの成長が問題の多いコンテンツと密接に関係していることに失望している人もいる。ただ、問題の多いコンテンツが通信技術のイノヴェイションをけん引してきたのも事実だ。ケーブルテレビ、VCR、さらにはブロードバンド・インターネットの導入を後押ししたのはポルノであると言っていいだろう。

ポルノ以外にも、インターネットはずっと、一般に受け入れられないコンテンツ向けのスペースを提供してきた。近隣コミュニティでLGBTQの情報やライフスタイルを見つけられなかったころ、インターネットは同性愛の若者たちにとってライフラインだった。分散型ソーシャルネットワークも同じで、中央集権型ソーシャルネットワークでは繊細すぎて許容されない考えや話題について話すためのスペースなのだ。そこで議論される話題の一部は、いつか社会に容認されるかもしれない。

チェルシー・バラバス、ネハ・ナルラ、そしてわたしからなるMITメディアラボの研究チームは先日、分散型パブリッシングに関する新しいレポートを発表した。タイトルは「Back to the Future: the Decentralized Web」だ。

論文のなかでわれわれは、分散型プラットフォーム導入への主な障壁は、技術的問題ではなくユーザビリティにあるのではないかという結論に至った。分散型パブリッシングツールの大半は、多くのユーザーが導入するには複雑すぎるのだ。その点、成功を収めた商品からデザインアイデアを借りているMastodonは、その問題を克服できるかもしれない。

ただ、ロリコンの事例は、われわれの説にふたつの方向から問いを投げかける。まず、これまで使っていたサイト──この場合はTwitterだ──にもはやコンテンツをシェアできないとなれば、たとえ最初はとっつきにくいインターフェイスでも、新しいツールを使おうと思うはずだという問い。そして、分散型パブリッシングの最初の大規模ユーザーベースは中央集権型ソーシャルネットワークを使用できない集団になる可能性があり、これが分散型の導入にとってさらなる障壁となりうるのではないかという問いだ。そのようなコミュニティにかぶせられた汚名により、関心をもつほかのユーザーが導入を躊躇する可能性は否定できないからだ。

Mastodonは日本で大流行している。少なくとも、1つのサブカルチャーのなかでは。これが世界への同プラットフォームの導入にとって好都合なのか不都合なのか。分散型パブリッシングの未来への理解を深めるうえで、積極的に考えていきたい。

イーサン・ザッカーマン|ETHAN ZUCKERMAN
MIT Center for Civic Mediaディレクター。無料ウェブサーヴィスを提供するTripod勤務を経て、99年に開発途上国にIT技術者を派遣するNPO団体「Geekcorps」を共同設立。2005年、レベッカ・マッキノンとともにブログコミュニティー「Global Voices」を設立する。2011年より現職。PHOTOGRAPH COURTESY OF KNIGHT FOUNDATION (CC BY-SA 2.0)

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