10年で“住宅ローン負担増”の赤字家計

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「赤字をボーナスでカバーするのが恒常化」小林さん(40代)の家計をチェック
[年収:800万円]
家族構成●夫(42歳・百貨店外商)、妻(38歳・専業主婦)、長女(10歳)、長男(8歳)
年収●額面=夫:800万円(うちボーナス=夏80万円/冬80万円)
貯金額●360万円

「念願のマイホームが、ついに手に入る」というとき、気持ちの高ぶりから、“お金”に対する判断力は、冷静さを失いがちになる。「10年以上前、マンション購入当初はローン返済が負担になるなんて考えてもみませんでした」――小林さん夫妻は、そんな戸惑いを口にした。

話を聞いてみると、たしかに、無理をしてまでマンション購入に踏み切ったわけではなさそうだった。子供が生まれることを見越して、学校や駅が近く、子育てしやすい地域・環境を選んでいたから、物件価値はいまなお上々。なにより、ローンの返済額は購入当初、「手取り月収の4分の1以内」という理想的な範囲に収まっていたのだ。

ところが10年あまりで、約25%から38%へと比率が高まってしまった住居費。いったい、何が起きたというのだろうか。

じつは、収入が減っていた。

結婚当初は共働きだったのに、新居での生活が始まると間もなく長女が誕生したため、妻は専業主婦に。その分、世帯収入が減少したというわけだ。

さらに、マンションの大規模修繕が近づくにつれ、管理費や修繕積立金がエスカレーター式に引き上げられてきたことは想定外だった。しかも、10年が経過したところでローンの当初優遇金利の適用が終了し、返済額が引き上げられていたのだ。

「10年経てば、夫の給料がもっとアップしていると考えていたのに……」と妻は肩を落とす。夫の年収は42歳で800万円なのだから、決して低くはないのだが、どうやら、目論見とは違ったようだ。

マンションであれ一軒家であれ、マイホーム購入時には、土地や建物の価格にばかり目が行きがち。だが、じつは購入時にも購入後にも、さまざまな経費がかかる(図参照)。また、ローンを組むときに「将来、収入が上がりさえすれば」と期待感を持つのはわからないでもないが、これほど危険なものはない。むしろ子供の教育費、親の介護費、自らの老後に備える蓄えが必要になり、購入時より収支が逼迫する可能性すらあるのだ。

住居費が重荷になった場合の難点は、にわかには削りにくいところ。住み替えて負担を減らそうにも、相応のコストや手間がかかる。事実上、支出の改善を試みたくてもできないわけだ。

そこで小林さんの場合、マンション購入時から重視されてきた「子供のために」という視点にメスを入れることにした。まずは自動車。これは2人の子供がまだ小さかったときには、たしかに必要な移動手段だった。だが最近では、子供たちはむしろ電車での移動を喜ぶようになり、利用機会が激減。なので、思い切って手放したのだ。すると住居費の一角を占めていた駐車場代2万2000円、保険代やガソリン代など維持費1万1000円の負担がなくなった。

流動費の中にも「子供のために」と支出が増えがちになっていた部分がある。娯楽費だ。これは「子供たちの柔軟な発想力を育みたい」と願う妻が、子供たちを動物園や水族館、各種博覧会などに連れていくためにかかっていた費用がほとんど。大がかりな水族館だと入場料もバカにならないし、付随して外食費もかさむ。代替案として、できるだけ入場料の安い公営の動物園などを利用し、外食費も減らすよう努めることにした。

そして、何より大きく変わったのが収入面。子供たちにだいぶ手がかからなくなったこともあり、子供たちが家にいない時間は妻がパートに出ることにしたのだ。はじめは、久しぶりに仕事をすることに不安があったようだが、いざ働き始めると、妻の表情は日に日に輝き始めた。家計が改善し、ジュニアNISAを始められるまでになったことにより、「子供のため」というモチベーションが新たにわいてきたためだ。

小林さんはいまや、年間100万円以上のペースで貯蓄を増やしている。今後は、子供の進学に伴う出費をどれだけ抑えて自分たちの老後にまわせるか――、それだけが懸念材料となりそうだ。

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家計再生コンサルタント 横山光昭
マイエフピー代表取締役社長。「消費」「浪費」「投資」で仕分ける家計管理の考え方が大反響を呼び、庶民派ファイナンシャルプランナーとして、1万件以上の赤字家計を再生。著書に『年収200万円からの貯金生活宣言』シリーズ、『「貧乏老後」に泣く人、「安心老後」で笑う人』などベストセラー多数。
 

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(家計再生コンサルタント、マイエフピー代表取締役、ファイナンシャルプランナー 横山 光昭 構成=小澤啓司 撮影=小原孝博)