「小さな巨人」と「踊る大捜査線」をつなぐ名セリフ。今夜セミファイナル

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警察の腐敗と巨悪に挑む男たちを描くドラマ『小さな巨人』もいよいよ大詰め。視聴率は先週放送の第8話で再び13.6%とV字回復してみせた。

悪事を追求する長谷川博己のキレの良いセリフ回しや、スイートな顔を思い切りしかめて怒り顔をつくる岡田将生、ヒゲモジャのはずだったのにいきなり清潔になった安田顕の姿がもうすぐ見られなくなるなんて寂しい……。実はキャラクターが好きで『小さな巨人』を見続けている人って案外多いかも。


「ああ、そうだよ!」やっぱり香川照之は名優


国との不正な土地取引、警察との癒着、経理担当者の失踪、潜入捜査員の殺人……と真っ黒な早明学園の疑惑に挑む、香坂(長谷川)、山田(岡田)、三島(芳根京子)ら豊洲署の面々。

7話の最後では捜査一課長の小野田(香川照之)が早明学園の富永専務(梅沢富美男)の任意同行を決断するが、早々に釈放してしまった! 怒った香坂が小野田に詰め寄る。「私には一課長が富永専務を守ろうとして手心を加えたように見えてなりません!」

「ああ、そうだよ!」

肯定しちゃった! すさまじく単純なセリフを、目を剥き、顔を小刻みに揺らしながらド迫力で言い放つ香川照之に感服するしかない。ドーン! という効果音とともに険しい顔で衝撃を受ける長谷川と岡田の受けの演技もギャグ寸前でギリギリセーフ。

潜入捜査員・江口(ユースケ・サンタマリア)殺害の容疑をかけられた早明学園の経理部長・横沢(井上芳雄)は、学園の不正を記した裏帳簿を持って逃走していた。早明学園サイドは小野田を通じて隠蔽を図る。捜査一課が横沢を逮捕されれば、裏帳簿の存在は伏せられたままというわけだ。

というわけで、8話は捜査一課と豊洲署の横沢争奪戦というお話に。香坂は毎朝新聞の記者・佐川(好井まさお)にニセ情報を報道してもらって横沢をおびき出そうとする。って、そんなニセ情報を一面にしちゃっていいの? ズブズブしすぎやしませんかね……。

張り込みをする刑事・関口(石黒英雄)のジャージにツッコミを入れる渡部(安田)の姿に全国の渡部ファンが歓喜。これは1話の香坂と渡部のやり取りそのまんま。「基本だよ、ジョン」と三島が飼っている犬の名前を渡部が言うんだけど、あれ、下の会話が聞こえてるってことなのかな? それとも安田顕のお遊び?

『小さな巨人』と『踊る大捜査線』をつなぐセリフ


8話では、香坂の同期で捜査一課の係長を務める藤倉(駿河太郎)が活躍した。小野田に命じられ、香坂たちを出し抜いて横沢を逮捕するが、横沢の身柄を小野田に渡さず、香坂の元に送り届ける。小野田が企んでいた裏帳簿の隠蔽を阻止したわけだ。

「一課長は早明学園に警察OBの天下り先を斡旋している。富永さんともズブズブや。富永さんと一課長の狙いは横沢が持っている裏帳簿。その裏帳簿を隠蔽しようとしている」

「ズブズブ」なんて言うと「そんな品の悪い言葉を使うのはやめたほうがいい」と不快感を示されるぞ(誰に?)。怒り心頭の小野田からの電話にちゃんと出る藤倉は大人だわー。筆者だったらスルーしてしまいそう。

それはともかく、藤倉の次のセリフは『小さな巨人』のテーマを示す重要なものだ。

「香坂、上に立て。当たり前のことが当たり前にできる組織に変えてくれ。頼む」

これは『小さな巨人』と同じく警察組織を詳しく描いたドラマ『踊る大捜査線』で和久さん(いかりや長介)が青島(織田裕二)に告げた言葉「正しいことをしたければ、偉くなれ」と同じ意味の言葉だ。青島はすぐに言葉の意味がわからなかったが、香坂は早い時点で理解している。だから今でも捜査一課長を目指しているのだ。

“絆”は警察の腐敗の源泉


8話でわかったのは、事件の周辺に警察組織の中の人間関係が色濃く反映しているということだ。
小野田は元捜査一課長で自分の上司だった富永と“絆”があると言っており、富永たちの悪事を隠蔽しようとしている。
山田はやはり元上司の江口と“絆”があると言う。江口は山田に、山田の父・内閣官房副長官の山田勲(高橋英樹)が早明学園の不正に関わっていると告げている。
香坂は芝署編で自分を取り立ててくれた三笠署長(春風亭昇太)に「親不孝者」となじられていた。藤倉は香坂に同期の“絆”と言っていた。

“絆”という口当たりの良い言葉が使われているが、警察組織にはあちこちに擬似親子、疑似家族のような関係があるのだろう。その濃すぎる人間関係が身内の不正に甘い体質につながっている。自分の正義を貫こうとする香坂は、人間関係の網の中でがんじがらめになっているようだ。

警察組織の中にある人間関係の網の中で、一人だけ自由な人間がいる。それが警視庁警務部の柳沢監察官(手塚とおる)だ。1話で香坂に向かって冷酷に「死刑」と告げていた人物である。監察官の仕事は、警察内部の不正を暴くこと。
現在はかつて富永と小野田、香坂の父・香坂敦史(木場勝己)が関わっていた事件を調べているようだ。最初に登場したときは『半沢直樹』の小木曽(緋田康人)のような小悪党かと思ったけど、実は最終回に向けて鍵を握っている人物だと思う。9話の予告でもさりげなく柳沢がフィーチャーされていた。


さて、8話の最後でせっかく逮捕した横沢が脱走! 実は香坂たち所轄の刑事たちの中に内通者がいたのだ……って、また!? 内通者は……山田! 小野田を藤倉が裏切り、香坂を山田が裏切る。まさに「敵は味方のふりをする」だ。

それにしても、あと9話と10話だけで話がまとまるのだろうか? そもそも和田アキ子ってほとんど出演シーンがなくない? いろいろな意味で注目の今夜セミファイナル!

(大山くまお イラスト/Morimori no moRi