しかし、試合開始のゴングからわずか72秒のできごとだった。

 1R、ここまで17戦全勝(13KO)の天心だが、序盤からライアンがラッシュ。しかしこれを冷静に読み切ると、パンチの連打を出して敢えて前に出ることで、ライアンの“隙”を誘い、ライアンがローを出した直後に左ボディストレートが炸裂。ライアンはまるで孫悟空(ドラゴンボール)のカメハメ波を喰らったかのように、後ろ正面に吹っ飛びダウン。セコンドの「立て!」という声にも首を振り、自らマウスピースを取ってしまった。またもや衝撃の6試合連続KO劇にファンは大いに酔いしれた。

 天心がマイクを掴み、集まったファンに「こんなに応援してもらったのも初めてで嬉しいです」と謝意を述べると、「みんなで頑張っていけば格闘技が素晴らしい世界になり、メジャーな競技になると思います」と話していたところに、タレントあびる優の夫で、現在はRIZINを中心に活動している才賀紀左衛門(才賀紀左衛門道場/Me ,We)がリングイン。マイクを掴むと、「天心、天才やな、お前は。スゲエよ!武尊(K-1)もいねぇし、誰も日本人が試合してくれなくてかわいそうだから、次のRIZIN(7.30さいたまスーパーアリーナ)で俺とやろう」と挑戦表明。さらに「俺はK-1でやってたからルールは何でもいい」と続けると、天心は「やっちゃいます。どんなルールでも強い人が本当に強い人なので、受けて立ちます」と対戦を受諾。これに対して才賀は「俺も男とくっつくのは嫌いやから、立ち技でド突き合おう」と話すと、2人は握手をして1枚の写真に収まった。リングサイドには拍手を送る高田延彦RIZIN統括本部長の姿もあり、7.30RIZINさいたま大会での対戦は決定したと言ってもいいだろう。

 コメントブースには、かつてK-1のヘビー級戦線で活躍し、この試合のゲスト解説を務めた武蔵の姿が。武蔵は唖然とした表情を浮かべながら、「(テレビでは)『いい面構えしてますね』くらいしか言ってないですよ(笑)。ムエタイの選手は正面を向いて攻撃するので、ガードがガラ空きになることがあるんですよね。天心くんはサウスポーじゃないですか。そういう練習をしてたんだと思います」と身振り手振りを交えながら話してくれた。

 バックステージでは、興奮した高田本部長が約20分に渡って天心を“離さず”。高田本部長が帰ったあと、ようやくコメントブースに現れた天心は「こんなに早く勝てるとは思わなかった」と笑みを浮かべながら報道陣の質疑に応じた。試合に関しては、「最後の左ボディストレートはこの試合のために用意しました。いつもは横からボディを打つんですが、ライアン選手はガードが開いて身体が正面を向いているので真っすぐに打って倒す、練習通りのパンチでした。今まであんなに効いた顔をした選手はいなかったので、渾身の一撃でしたね」と振り返り、武蔵が指摘した通り、最後は練習が功を奏したことを明らかにした。

 才賀の挑戦表明には、「才賀選手にはお世話になっていて、一緒に練習したこともあるんですよ。いつかやる時もあるなぁと思ってました。キックから総合格闘技をやるという共通したところもありますし。(体重差は苦にしない?)僕は60kgまでの選手ならやってもいいと思ってて、負ける気がしないですね!」と自信溢れる表情で話した。ちなみにバックステージで高田本部長からは決め台詞である「やれんのか?」と聞かれ、「やります!」と即答したという。

 大会前に完売し、当日券もすぐに売り切れた今大会については、「僕はTDCホールとか東京ドームとかでも満員になる選手になりたいんですよ。もっと盛り上げていきたいですね」と語り、キックや格闘技をもっと広めて行く意向を改めて示した。最後に、試合前の煽り映像で『卒業まで306日』と触れられたことを伝えると、「最近、授業中に思うのは、いい意味で教科書に載るような人間になりたいなって。イチロー(マイアミ・マーリンズ)さんとか一流選手は載ってるじゃないですか。僕は格闘技界のイチローさんになります」と力強く語った天心の笑顔は実に晴れやかで、自信が満ち溢れるものだった。

 神童が“神導”となり、導夢(東京ドーム)の舞台に立つ日が来るのも決して夢ではない。

 那須川天心が格闘技界を未知の世界に導いてくれるだろう。

▼メインイベント ISKAオリエンタルルール世界バンタム級(-55kg)タイトルマッチ 3分5R
<王者・日本/TARGET>〇那須川天心 (1R 1分12秒) “アベンジャー” ライアン・シェーハン●<挑戦者・アイルランド/サイアムウォリアーズジム/WKAムエタイ世界バンタム級王者>
※左ボディストレート
※那須川が初防衛に成功

取材/文・どら増田