アジア新記録の37秒60を叩き出し、リオ五輪男子陸上400メートルリレーで銀メダルを獲得した日本【写真:Getty Images】

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10秒台4人が世界驚かせた銀、半年以上たって躍進の秘密を検証

 リオデジャネイロ五輪の男子陸上400メートルリレーで銀メダルを獲得した日本。山県亮太、飯塚翔太、桐生祥秀、ケンブリッジ飛鳥という4人がアジア新記録の37秒60を叩き出し、各国の並みいるスプリンターと渡り合って、世界に衝撃を与えたことは記憶に新しい。優勝したジャマイカのウサイン・ボルトのように、9秒台の記録を持つ選手は一人もいない。それなのに、トラック種目では日本男子初の銀メダルを獲れた理由は何なのか――。英陸上競技専門ウェブサイト「SPIKES」が特集している。

「SPIKESはどのようにして4人のアスリートが多くの世界最速スプリンターたちを下してきたのか、解明した」と記した記事では、4人の名前を挙げてリオ五輪で銀メダルを獲得したことを回想。「多くのファンを得て、オリンピックを去った」と振り返っている。

 なぜ、日本は歴史に残る偉業を成し遂げることができたのか。「オリンピックでの日本の成功は、どこからともなく現れたわけではない」とした上で、日本の伝統的な“得意技”に要因があると分析した。

「バトンパスに細心の注意を払い、長年に渡って力学的分析を行ってきた結果である」

 記事では、2001年の世界陸上(エドモントン)以来、日本はアンダーハンドパスを採用していることを紹介し、この技術でスピードの減少を最小限に抑えることができると解説。ただ、理由はそれだけではないという。

 日本陸連の苅部俊二・男子短距離部長は「アンダーハンドパスを用いる一番の理由は、ミスを最低限にするためです」と話したという。記事は、アンダーハンドパスを導入したことで「日本男子4×100メートルリレーチームは世界で最も安定したチームの一つとなった」と分析している。

苅部氏が導入したアンダーハンドバス、綿密な準備と「7センチ」の勝負

 さらに、元400メートルの選手である苅部氏が2014年に日本陸連で強化を担った際、メダル獲得のために技術的なアプローチを見直す必要性があると考えたという。日本陸連は力学データを分析した結果、受け渡しゾーンの終盤でバトンを渡すよりも、真ん中付近で渡す方が速いことが判明、また第1走から第2走へのバトンパスはゾーンの後半3分の1で渡すことが望ましいと位置付けたという。

 また、苅部氏が手首よりも上に肘を上げ、バトンを受け取る方法を取り入れたことも伝えた。しかし、14、15年は技術がチームに浸透する過渡期となり、すぐには成果が出なかったことを紹介している。

 では、いかにして日本のバトンパスは“得意技”になりうることができたのか。その裏で、綿密な準備があったようだ。

「リレーの練習は3月に(沖縄で)行われたキャンプで始まりました」という第1走の山縣のコメントを紹介。リレー候補選手は定期的にキャンプに集められ、ありとあらゆる走者の順番でバトンパスの練習が広く行われたことを挙げ、「広範囲にわたる練習はリオに結びついた」と分析した。

 リオの予選では中国が第1レースでアジア記録の37秒82をマークし、日本は第2レースで37秒68で更新しながら、苅部氏は改善の余地があると考え、決勝直前、バトンパスの位置を7センチずらしたという。予選で見られた受け渡しの詰まりを修正する狙いがあったようで、「この修正はチームとって、大きなチャレンジでした」と苅部氏も認めたという。

 記事では「ギャンブルが功を奏した」と記述し、決勝でさらに0.08秒縮め、37.60秒を記録。銀メダルを獲得したことを述べた上で「メダル獲得の衝撃は日本だけでなく、世界中に鳴り響いた」とつづっている。

さらなる技術の進化で東京五輪金へ、ケンブリッジ「チャンスはある」

 一方で、刈部氏はすでに更なるパフォーマンスの向上を見据えているという。「リオ五輪でのバトンパスは理想的でした。でも、完璧だとは思いません。いくつか細かな修正が必要です」と語り、「より前進するためには、バトンパスの練習が必要です。でも、各個人のスピードを上げることも重要。我々には10秒を切るスプリンターが必要なんです」と述べたと伝えている。

 そのために必要な人材として、記事は17歳のホープを挙げ、こう期待を込めている。

「サニブラウン・アブデル・ハキームのような、急成長を遂げている才能ある選手が世界リレーランキング首位を強固なものにするために、不可欠な役割を果たすだろう」

 サニブラウンも含め、若手が台頭し、悲願の9秒台到達も近づいていることは確かだ。その上にバトンパスの技術が進化すれば、20年の東京五輪で表彰台の真ん中に上ることも叶わない夢ではなくなってくる。

「僕たち4人は2020年のリレーチームに参加するでしょう」と話したケンブリッジは「リオ五輪の経験、そして自国開催のアドバンテージがあります。2020年は金メダル獲得のチャンスがあると、僕は信じています」と話したという。

 世界に与えた衝撃の大きさを示すように、半年以上を経てなお、海外メディアにクローズアップされている日本のバトンリレー。さらに磨きをかけ、自国開催で世界を再び驚かせる準備を進めていく。