「トリプルアクセルに声をかけるとしたら、何と言いますか」

これは、浅田真央の引退記者会見で発せられたもの。
この、「トリプルアクセルを擬人化する」という難問に対し、一瞬考えた末に笑顔で、
「なんでもっと簡単にとばせてくれないの? とか」
と答えた浅田真央の対応は、絶賛された。

また、最後の質問の前に司会者が「彼女を送り出せるような質問を」とリクエストしたにもかかわらず、「結婚の予定」についての質問が投げかけられたため、結局いくつも「締めの質問」が行われた。
Twitterなどには「締めの質問って難しい」という意見も多数見られた。

記者は普段どんな「締めの質問」をしているのか


では、「記者」たちは「締めの質問」にどんなことを聞くケースが多いのか。一般週刊誌や女性週刊誌、テレビ誌、月刊誌、夕刊紙などの記者に聞いてみた。

1・新作の見どころや、意気込み
「芸能人や作家などの場合、新作の意気込みや見どころを改めて最後に聞く。商品では注目してほしいポイントなどを」
「新作の意気込みなど。冒頭の質問と締めの質問が重複することもあり、相手もインタビューの最初より最後のほうが答えがより具体的で、深まっている場合がある。その一方で、『さっきと繰り返しになっちゃうんですけど』と同じことを言う場合がある」

2・今後の予定や抱負など
「形式的に、今後の抱負や展望を聞く」
「今後やってみたい役や作品、その他、新たに挑戦してみたいことなどを聞く」
「最後にその他の告知を聞いたり、漠然と今後の目標や今年の目標を聞いたりすることも」
「ロングインタビューの場合、将来の目標や理想像、10年後にどうなっていたいかなど聞く場合もある」

3・作品や役柄、自身についての深掘り質問
「○○を通じて、自身が変化したこと、気づいたことなどを聞く」
「今回の経験で得たこと、収穫などを聞く」
「○○するうえで心がけていること、いちばん大切にしていることなどを聞く」
「映画やドラマなどの作品、役柄について、本人なりの解釈やその後の予想を聞く。作品を終えての、今の思いを聞く」
「専門家取材の場合、その技術や製品について、今後果たしていく役割は?など」
「そこまでのインタビューの中で引っかかった部分、印象に残った相手のコメントを改めて取り上げ、逆説的に『先ほど○○とおっしゃいましたが、もし○○じゃなかったら?』と聞いてみると、笑いながら構えない答えをくれることも。また、わざと『○○ということですか』『○○さんは▽▽なんでしょうか』と、多少合っていて、多少ズレているまとめ方をしてみると、相手が『それはありますね。うーん、でも・・』と、本人の言葉で、より具体的に伝えようとしてくれるので、良いコメントがもらえることも」
「『あなたにとって○○とは何ですか、どんな存在ですか』といった質問。抽象的なので、相手を困らせるケースもあるが、困って苦しんでひねり出してくれる答えのほうが、何度も繰り返し語っている内容より面白いことはある。とはいえ、多くの場合『宝物』『家族』『原点』などに落ち着きがち」

4・締めの質問にあまり意味はない
「芸能人などのインタビューの場合、締めの質問は、これが最後というお知らせ、記号的なもので、あまり意味のないものも多い」
「相手も締めの質問がくると、一瞬ホッとした顔することがある。締めの質問は、あらかじめ用意していた答え、複数の媒体に何度も答えている内容になることも多いので、そこだけ流暢になる人も」

5・次のネタ探し
「まだ書けないことで、進んでいるものなどあれば、発表の時期や差し支えない範囲で内容なども聞く」
「特に医師や教授、開発者など専門家取材の場合、インタビューのテーマとは別に、雑談ベースで他にネタになりそうなもの、業界内で注目されてきているものを聞く」
その他、こんな意見があった。
「大きい会見の囲み取材だと、仕切るレポーターも、締めであててもらえる人も、だいたい決まってる場合もある」
「どんな媒体でも、漠然と、特に注目してほしいところや、読者へのアドバイスや、○○のコツ、メッセージなどを無難に聞いておく」


ちなみに、テレビでの会見などと違い、活字のインタビューは構成を整えられるので、締めの質問で聞いたことがそのまま原稿の締めにならない場合は多い。
なぜなら、締めの質問は平凡で、その答えも平凡なことが多いのに対し、その人にしか言えない言葉、深みのある面白い内容は、途中で出てくることが多いから。

また、「締めの質問」も終わり、「ありがとうございました」となってから、リラックスした雰囲気で発する一言が、相手の素の部分に近くて、とても面白いこともある。
「それをメモにとって、使わせてもらうようなことも場合によってはあります」

また、記者側は「これで記事内容として十分」と判断し、締めの質問をした後に、話し足りない、伝え足りないと感じる相手が、補足や余談をたっぷり語ってくれるケースもある。「締めの質問」で終わらないことは、案外多いのだ。
(田幸和歌子)