「公立中はどこでも一緒」とはいかないようです(※画像はイメージ)。

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進学・進級によって、新しい環境が始まる時期。

新たな出会いの中で、「子どもの教育のために引っ越してきた」「越境してきた」などという話をときどき耳にする。

「越境」というと、甲子園を目指す高校球児をはじめ、スポーツの才能に恵まれた子の特殊な世界……という印象があったが、首都圏では、子どもの教育のために引っ越し・越境する人は、特殊なわけではないらしい。それも、普通の公立中学校で。

抽選、選択肢、モチベーション


「区立の中学は選択制でしたが、英語に力を入れている学区外の中学に息子を通わせたくて。学区内なら自動的に入れますが、学区外からは希望者が非常に多く、定員オーバーのため、抽選になってしまう。だから、抽選時に学区内に住所があることにしたいために、息子の小学校卒業数か月前に引っ越しました。残る小学校生活は転校せず、そこから電車で通学させました」
こう話すのは、某区の公立中学に息子を通わせる女性。その甲斐あって、「成績全般は普通だけど、英語の摸試の偏差値だけは高い」と言う。

また、「長男の高校受験のタイミングにあわせて、千葉から東京に引っ越してきた」と話すのは、息子が都立難関校に通う女性だ。
千葉には偏差値70超の公立の難関校がいくつもあるのに、なぜわざわざ都内へ? と問うと、こう言う。
「千葉は人気がある学校の二極化が進んでいて、普通科の場合、学力の上位校に人気が集中しているんです。しかも、公立を第一志望にしている公立進学志望者が圧倒的に多いので、公立で志望校に合格するのは非常に狭き門で。それを考えたら、都内のほうが、私立の選択肢も多いから、良いかなと。それに、長男に比べて、下の子は学力がそこまで高くないので、長い目で考えたら、長男の高校進学の機会に都内に引っ越しておこうと思ったんですよ」

また、ある都立難関高に娘を通わせる父は次のように話す。
「学区になっている地元の公立中学は、調べたところ、区内で学力最下位のほうだったので、他の区立中に越境しました。ライバルが多いと、モチベーションが違いますから」
実際、その中学では都立難関高を多くの生徒が受験、合格していると言う。ちなみに、区によっては越境が難しくないところもあるそうだ。

区単位では越境しにくい地域でも、学校が独自の教育方針を押し出し、越境を歓迎しているところもあると、都立難関高に娘が通う女性は言う。
「学校説明会やHPで『普通の公立中とは全く違う』と謳ったり、教育方針を大きく打ち出して、高校の進学実績などもHPに掲載したりしている学校もあります。だから、学校説明会には区外の人がたくさん来ますよ」

さまざまな手段を使って越境する人も


区や学校単位で、学力差もあれば、越境しやすいところ・しにくいところもある。
なかには、人気が集中する公立中に通うために、定員オーバーの抽選を免れるべく、前述のように「学区内に引っ越す」という人もいれば、「学区内にある祖父母の家から通う」という人、さらには「学区内にある親戚の家の住所を借りる」「学区内に借りている駐車場の住所を使う」などという、不当な手段を使う人もいるようだ。

もともと地方出身の自分などは「中学は近くの公立に行くのが当たり前。公立はどこでも一緒」と思っていた。もちろん施設の充実度や先生の善し悪しなどには差があるだろうが、「結局、本人次第」「勉強は個人でするもの」とも。
しかし、「切磋琢磨できる環境」というのは、子どもの成長において非常に重要な意味を持つ場合があることもわかる。

「子どものために、わざわざ引っ越したり、遠くまで越境させたりするなんてバカバカしい」と思う人もたくさんいるだろう。
だが、故事成語にも「孟母三遷の教え」という言葉があるように、環境は非常に大切であり、「親の教育熱心度と子どもの学力がある程度比例する」という面も確かにあるようだ。
(田幸和歌子)